勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
607 / 625
聖女の旅路

第十三章第34話 再びの襲撃

しおりを挟む
 ルーちゃんが私の分のライスも食べ終わったころ、再びあのけたたましい鐘の音が鳴り響いた。

「え?」
「また?」

 お祭りムードだったヴィハーラの町は一気に緊張に包まれる。

「聖女様、こちらへ」
「わかりました」

 混乱を避けるため、私たちは一旦護衛の兵士たちに従って避難を開始する。兵士たちも町の人たちもどうやら慣れているようで、誘導に従って整然と避難していく。

「またシーサーペントですか?」
「おそらくは。この鐘の音は海から魔物の襲撃があったことを意味しております」

 ゴーンゴーンゴーン!

 突如別の鐘の音が鳴り響く。

「っ! どうやら森からも来たようです」
「え? 陸からもですか?」
「はい。今の鐘は北にある森から魔物がやってきているという合図です」
「森ならば私たちも力になれます」
「ですが、我々は聖女様を安全にお守りするように仰せつかっておりますので……」
「それはそうでしょうけど……でもそんなことを言っている場合じゃないですよね? ルドラさんには私からきちんとお話しますから」
「……かしこまりました。では、どうぞこちらへ」

 こうして私たちは森のほうからやってきているという魔物の解放へ向かうのだった。

◆◇◆

「何っ!? 聖女様をお連れしただと?」

 私たちは北門にやってきているのだが、集まっている兵士の中で偉そうな人が大声を上げた。おかげで兵士たちの視線が一気に私たちに集まる。

「馬鹿なことを言うな! 危険な前線に聖女様をお連れするなど!」
「ですが……」
「治癒や結界でお手伝いもできますし、私の騎士たちも魔物と戦う力は十分にあります」
「ぐっ……ですが……」

 さすがに私に対して怒鳴ったりはしてこないが、私たちを前線に出すことには難色を示している。

「隊長殿でござるな? 拙者と一番の手練れで一勝負するでござるよ。それでもし拙者が勝てば、参加を認めてもらうでござるよ」

 するとそれを聞いた兵士たちの目の色が変わった。

「ならば俺が! 聖騎士に勝ち、俺がアルパラジタに認められなかったことが間違いだったと証明してやる!」

 一人の男が進み出てきた。

 ええと、アルパラジタって、たしかこの国の聖剣だよね? あれれ? ヴェダで会ったっけ?

 まったく記憶にないので【人物鑑定】をしてみたが、やはり初対面のようだ。

「手早く終わらせるでござるよ」
「何を!」

 兵士の人は曲剣を構え、それを確認したシズクさんが一気に距離を詰める。

 キキーン!

 一瞬の間に二度の金属音が鳴り響き、次の瞬間シズクさんは兵士の首にキリナギを突きつけていた。それからやや遅れて宙を舞っていた曲剣が十メートルほど離れた地面に突き刺さる。

「バ、バカな……」
「中々でござったよ。よもや最初の一撃を受けられるとは思っていなかったでござる」

 兵士の男はがっくりと膝をつき、周囲からはどよめきが起こる。

「お、おおお……」
「まさかアサーヴがこうもあっさりと……」

 どうやらあの人はアサーヴさんというらしい。

「さあ、これで問題ないでござるな?」
「ぐっ……わかりました。ではどうぞこちらへ」

 先ほどの偉そうな人は渋々といった様子ではあるものの、私たちの防衛戦への参加を認めたのだった。

◆◇◆

 街壁の上へと登ってきた私たちの目に飛び込んできたのは、森を抜けてこちらへと迫ってくる向かってくる百匹ほどのオークの群れだ。

「任せてくださいっ!」

 ルーちゃんが光の矢を番え、次々とオークたちを撃ち抜いていく。

「すげぇ」
「オークどもがああも簡単に……」
「すさまじい命中率だ」

 周囲にいるヴィハーラの兵士たちからそんな声が聞こえてくる。

「おい、あれってもしかして常に『必中』を使っているんじゃないのか?」
「それなのに誤射フレンドリーファイアしないなんて、さすが聖女様の従者だけはあるな」
「ああ」

 おや? ああ、そういえば……うん。最近は減ってきたけどたまにこっちに飛んでくるよ。今はなんとなく大丈夫な気がするけれど。

 そうこうしているうちにルーちゃんはこちらに向かってきていたほぼ全てのオークを退治してしまった。ここからは見えないところに向かっていったオークにも別のところから矢が雨あられのように降り注いでいたし、多分どうにかなるだろう。

「やりましたっ!」

 ルーちゃんが自慢気に胸を張った。まだささやかではあるものの、いつの間にか私よりも少し大きくなっている胸が強調されてなんとも複雑な気持ちになるわけだが、それを脇においてルーちゃんを褒めようとしたそのときだった。

 森のほうからイヤな存在がこちらに向かってきているのが目に入った。

「シズクさん!」
「分かっているでござるよ」
「フィーネ様? シズク殿? 一体何が?」
「トレントでござる。しかも大群でござるな」
「えっ? トレント!?」

 ルーちゃんは嫌悪感をあらわに森のほうをじっとにらみつけるのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...