勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第35話 トレントとの戦い

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「あいつらっ!」

 ルーちゃんは森から出てきたトレントに光の矢を放った。それは太い幹をいとも容易く貫通するが、トレントはまるで動じる様子もなくこちらへと向かってくる。

「従者殿! ダメです! トレントには火を使わねば!」
「なら火矢をくださいっ!」
「は、はい。火矢を出せ!」
「それが火矢はさっきの襲撃のあと凱旋門に運んでしまい……」
「なんだと!? 一本もないというのか?」
「い、いえ」
「ならば早く持ってこい! 従者殿にお使いいただくのだ!」
「は、はい」

 命令された兵士の人が大急ぎで街壁から降りていく。

「どうしましょうか。このままだと近づかれちゃいますよね。エビルトレントがいるわけではなそうですけど……」

 そうしている間にもトレントたちはゆっくりとこちらに向かってくる。

「あの、シズクさん……」
「……申し訳ないでござる」

 一縷いちるの望みをかけてシズクさんのほうを見るが、やはりまだ【狐火】を使いこなすことはできていないらしい。

「お待たせしました!」
「何ッ! たったこれだけか!?」
「も、申し訳ございません」

 その声に振り返ると、なんと先ほどの兵士が矢を三本差し出している。

「これは……」
「仕方ないでござるな」
「ごり押しするしかないですね。クリスさん、シズクさん」

 すると二人は私の前にひざまずいたので、二人の額にキスをして【聖女の口付】を発動させ、さらに【聖女の祝福】をかける。

 おっと、【聖女の祝福】はルーちゃんにもかけておこう。

「ルーちゃんはここに残って、その火矢で私たち以外の援護をお願いします。私たちは前線に出てあのときのようにトレントを浄化します!」
「はっ」
「任せるでござる」
「はいっ」

 クリスさんはすぐに私を横抱きにし、そのまま街壁から飛び降りた。シズクさんはすでにトレントの群れに突っ込んでおり、次々とトレントたちを切り株に変えていっている。

「なっ!? お待ちください! 聖女様が前線に!?」

 遠くから声が聞こえてくるが、私たちはそれに構わずトレントの群れに飛び込んだ。そしてシズクさんが作った切り株から生えてきたトレントをクリスさんが再び伐採して切り株に戻し、そこに【影操術】で影のナイフを突き立てる。

 ええと、魔石は……おお、あったぞ。浄化!

 すると魔石に貯まっていた瘴気が浄化され、切り株の再生が止まった。その間に他のトレントたちが私に攻撃を仕掛けてくるが、私を守る結界は当然のことながらビクともしない。

 そうこうしているうちに私たちの周りには魔石を抜き出され、動かなくなったトレントの切り株だけが残された。

「!?」

 私は背後に何かを感じ取り、咄嗟に防壁を張った。

 ガキン!

 矢は防壁に対して斜めに当たったせいで角度を変え、森の入口にある一本の木に突き刺さる。

 飛んできたほうを見てみると、ルーちゃんが【誤射《フレンドリーファイア》】をしたときに見せるいつもの誤魔化し笑いをしているのが目に入った。

 ああ、うん。最近減ったけど、やはりまだ完全になくなったわけではないようだ。

「フィーネ様、これは……」
「え?」

 クリスさんの声に森のほうを見ると、なんとルーちゃんの矢が刺さった木が燃えながら走り回っている。

 ……あれ? もしかしてあれってトレントだった? まさかそんな偶然が起きるとは。

「さすがです。まさか木に擬態していたトレントを見破るとは……」

 クリスさんがキラキラした目で私のほうを見てくるが、それは勘違いだ。

「い、いえ、そうではなくあれはたまたま……」
「そのようなご謙遜を……あ、いえ、そうでしたか。かしこまりました」

 うん? いつもだったら徹底的に褒めてきそうな気がするのだがどういう風の吹き回しだろうか?

 うーん、まあいいか。変に持ち上げ続けられるよりはよほどやりやすいしね。

 こうして私たちはトレントたちを解放し、町へと戻る。すると兵士たちが歓声と共に向か入れてくれた。

「さすが聖女様と聖騎士様。まさかトレントを火を使わずに倒してしまわれるとは」

 隊長さんがややオーバーリアクション気味にそんなことを言ってくる。

「一体どのようになさったのですか? 我々の常識では、トレントは燃やさなければ倒せないはずなのですが……」
「ああ、それはですね。直接トレントの魔石を浄化したんです。魔物は魔石に蓄えられた瘴気を浄化してあげれば解放できますから」
「なんと! そのような倒し方が……。一体どうやってそのような方法に思い至られたのでしょう? 大変不躾ではございますが、今後の戦い方を考えるうえで参考とさせていただきたく、どうかご教示いただけますようお願い申し上げます」

 隊長さんは大げさに驚いた後、驚くほどの低姿勢でそう頼み込んできた。その目はとても真剣で、町を守ろうという真摯な気持ちが伝わってくる。

「はい。実は――」

 私は魔物と瘴気の関係の部分からできる限り詳しく説明した。

「魔物とはそのような存在であったのですか……つまり、一人一人の心がけが魔物を減らすためには重要だということですね」
「はい。あまり戦い方の参考にはならないかもしれませんが……」
「いえ! 知らないことを教えていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。ぜひ、できるだけ多くの人たちにも伝えてあげてください」
「かしこまりました! お任せください!」

 隊長さんは澄んだ目でそう約束をしてくれた。

「ところで聖女様。やはり最後のは狙っておられたのですよね?」
「え? 最後の?」
「ほら、従者殿の放たれた矢の角度を変えて木に擬態したトレントを見事に退治されたではありませんか!」
「あ、それは……」
「いやはや、さすがでございますな。従者殿が聖女様に向けて矢を放たれた際は誤射フレンドリーファイアかと思い肝を冷やしましたが、狙っていらしたとは。たしかにあの位置のトレントは街壁の上からは狙えませんでしたし、これぞまさしく以心伝心というやつですな?」
「ええぇ」
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