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聖女の旅路
第十三章第36話 仙人の噂
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それから少しすると海の警報が鳴りやんだ。どうやらシーサーペントも撃退されたらしい。
幸いなことにこちらで怪我人は出なかったので海のほうに向かおうとしたのだが、シズクさんをアサーヴさんが呼び止めてきた。
「シズク・ミエシロ殿」
「ん? そなたは先ほどの」
「一つ、質問をしてもよろしいか?」
「なんでござるか?」
「失礼だとは思うが、教えて欲しい。貴女はその強さにどうやってたどり着いたのだ? いや、その強さは人の身でたどり着くことができるのか?」
突然の不躾な質問にシズクさんの表情が強張った。いや、シズクさんだけではなくクリスさんも微妙な表情をしている。
「私の知る限り、最強の人間はレッドスカイ帝国の赤天将軍だと思っていた。だがシズク殿の強さはそれを遥かに超えているように見えるのだ。シズク殿、いかがだろうか?」
「……」
「聖女様がレッドスカイ帝国を通って来られたということは聞いている。であれば、シズク殿は確実に赤天将軍と勝負をなさった。そして赤天将軍に勝利したのではないか?」
「……勝ったでござるな」
「やはり! では今一度問いたい。シズク殿のその強さ、人の身でたどり着けるのか? それともあなたの種族だからこそたどり着ける強さなのか?」
アサーヴさんの表情は真剣だ。そんなアサーヴさんの目をシズクさんもまた、真剣な目でじっと見つめ返している。
それからしばらくし、シズクさんがふっと表情を緩めた。
「……かなり難儀すると思うでござるが、常に成長を追い求め、ひたすらに修行を続ければ不可能ではないと思うでござるよ」
「……」
アサーヴさんはそれを慰めと受け取ったのか、不満げな表情を浮かべている。
「アサーヴ殿、で合っているでござるか? 貴殿は拙者の本気の一撃を受けたではござらんか」
「し、しかし!」
「あの一撃は貴殿が最強と言った将軍でも防げたか分からない速さでござるよ。しかしアサーヴ殿はそれを受けたでござる。それこそが、貴殿の努力の結果なのではござらんか?」
「それは……」
「アサーヴ殿もきっと良い師を持ったのでござろうな。拙者の師はゴールデンサン巫国のミヤコにあるシンエイ流のテッサイ・ミネマキ師範でござる」
「ゴールデンサン巫国の……なるほど。それはありがたい!」
「アサーヴ殿の師は誰でござるか?」
するとアサーヴさんは何やら複雑な表情を浮かべた。
「……師と言うのであれば、一応、天空老師だが……」
「天空老師?」
「ああ。天空山脈に住む仙人だ。だから天空老師と呼ばれているのだが……」
「だが?」
「シズク殿が会うのはあまり勧められない」
「どういうことでござるか?」
「いや、その、天空老師はかなり険しい山奥に居を構えている。誰でも会えるわけではないし、行ったとしても会えないかもしれない。それに会ったとしても、きっと不愉快な思いをするはずだ」
アサーヴさんはどうやらシズクさんを合わせたくないようだが、これは一体どういうことだろうか?
「聖女様、迎えの馬車が到着いたしました」
「あ、はい。それじゃあシズクさん」
「ああ、そうでござるな。アサーヴ殿、それでは失礼するでござるよ」
こうして私たちは海側の負傷者の治療に向かうのだった。
◆◇◆
「天空老師ですか。天空老師の噂でしたら我々も存じております。なんでも天空老子の下で修行すると潜在能力を開花する、と言われていますから」
負傷者の治療を終え、迎賓館に戻った私たちが館長さんに尋ねるとそんな答えが返ってきた。
「そんなに有名な人なんですか」
「はい。三百年生きているなどという噂もある人物で、この町ですと一番の剣士アサーヴ殿が天空老師の下で修行したとして有名です」
「そうなんですね。ただアサーヴさんは天空老師に会わないほうがいいって言ってたんです。なんでだかわかりますか?」
「いえ。ただ、ほとんどの者は天空老師の庵にたどり着くことすらできず、またもしたどり着けたとしても会ってすらもらえないのだそうです。特に有名な話としては、以前国王陛下が兵士たちに教えを授けて欲しいと直接出向いたにもかかわらず、天空老師の庵にたどり着けなかったというものがあります。ですからアサーヴ殿は聖女様に無駄な時間を使わせてはいけないと気をつかったのではないでしょうか?」
「なるほど」
不愉快な思いをするというのはそういう意味か。
だが潜在能力を覚醒させられるというのであれば、シズクさんが【狐火】を使いこなせるようになるかもしれない。それに、山の中に住んでいる仙人というのも少し興味がある。
「シズクさん、試しにその天空老師に会ってみるのもいいと思うんですけど……」
「そうでござるな。いい加減、拙者もなんとかしたいと思っていたところでござる。それに」
シズクさんはそう言ってクリスさんに視線を送った。するとクリスさんも大きく頷く。
「それじゃあ、決まりですね」
こうして私たちは天空老師に会いに行くことにしたのだった。
幸いなことにこちらで怪我人は出なかったので海のほうに向かおうとしたのだが、シズクさんをアサーヴさんが呼び止めてきた。
「シズク・ミエシロ殿」
「ん? そなたは先ほどの」
「一つ、質問をしてもよろしいか?」
「なんでござるか?」
「失礼だとは思うが、教えて欲しい。貴女はその強さにどうやってたどり着いたのだ? いや、その強さは人の身でたどり着くことができるのか?」
突然の不躾な質問にシズクさんの表情が強張った。いや、シズクさんだけではなくクリスさんも微妙な表情をしている。
「私の知る限り、最強の人間はレッドスカイ帝国の赤天将軍だと思っていた。だがシズク殿の強さはそれを遥かに超えているように見えるのだ。シズク殿、いかがだろうか?」
「……」
「聖女様がレッドスカイ帝国を通って来られたということは聞いている。であれば、シズク殿は確実に赤天将軍と勝負をなさった。そして赤天将軍に勝利したのではないか?」
「……勝ったでござるな」
「やはり! では今一度問いたい。シズク殿のその強さ、人の身でたどり着けるのか? それともあなたの種族だからこそたどり着ける強さなのか?」
アサーヴさんの表情は真剣だ。そんなアサーヴさんの目をシズクさんもまた、真剣な目でじっと見つめ返している。
それからしばらくし、シズクさんがふっと表情を緩めた。
「……かなり難儀すると思うでござるが、常に成長を追い求め、ひたすらに修行を続ければ不可能ではないと思うでござるよ」
「……」
アサーヴさんはそれを慰めと受け取ったのか、不満げな表情を浮かべている。
「アサーヴ殿、で合っているでござるか? 貴殿は拙者の本気の一撃を受けたではござらんか」
「し、しかし!」
「あの一撃は貴殿が最強と言った将軍でも防げたか分からない速さでござるよ。しかしアサーヴ殿はそれを受けたでござる。それこそが、貴殿の努力の結果なのではござらんか?」
「それは……」
「アサーヴ殿もきっと良い師を持ったのでござろうな。拙者の師はゴールデンサン巫国のミヤコにあるシンエイ流のテッサイ・ミネマキ師範でござる」
「ゴールデンサン巫国の……なるほど。それはありがたい!」
「アサーヴ殿の師は誰でござるか?」
するとアサーヴさんは何やら複雑な表情を浮かべた。
「……師と言うのであれば、一応、天空老師だが……」
「天空老師?」
「ああ。天空山脈に住む仙人だ。だから天空老師と呼ばれているのだが……」
「だが?」
「シズク殿が会うのはあまり勧められない」
「どういうことでござるか?」
「いや、その、天空老師はかなり険しい山奥に居を構えている。誰でも会えるわけではないし、行ったとしても会えないかもしれない。それに会ったとしても、きっと不愉快な思いをするはずだ」
アサーヴさんはどうやらシズクさんを合わせたくないようだが、これは一体どういうことだろうか?
「聖女様、迎えの馬車が到着いたしました」
「あ、はい。それじゃあシズクさん」
「ああ、そうでござるな。アサーヴ殿、それでは失礼するでござるよ」
こうして私たちは海側の負傷者の治療に向かうのだった。
◆◇◆
「天空老師ですか。天空老師の噂でしたら我々も存じております。なんでも天空老子の下で修行すると潜在能力を開花する、と言われていますから」
負傷者の治療を終え、迎賓館に戻った私たちが館長さんに尋ねるとそんな答えが返ってきた。
「そんなに有名な人なんですか」
「はい。三百年生きているなどという噂もある人物で、この町ですと一番の剣士アサーヴ殿が天空老師の下で修行したとして有名です」
「そうなんですね。ただアサーヴさんは天空老師に会わないほうがいいって言ってたんです。なんでだかわかりますか?」
「いえ。ただ、ほとんどの者は天空老師の庵にたどり着くことすらできず、またもしたどり着けたとしても会ってすらもらえないのだそうです。特に有名な話としては、以前国王陛下が兵士たちに教えを授けて欲しいと直接出向いたにもかかわらず、天空老師の庵にたどり着けなかったというものがあります。ですからアサーヴ殿は聖女様に無駄な時間を使わせてはいけないと気をつかったのではないでしょうか?」
「なるほど」
不愉快な思いをするというのはそういう意味か。
だが潜在能力を覚醒させられるというのであれば、シズクさんが【狐火】を使いこなせるようになるかもしれない。それに、山の中に住んでいる仙人というのも少し興味がある。
「シズクさん、試しにその天空老師に会ってみるのもいいと思うんですけど……」
「そうでござるな。いい加減、拙者もなんとかしたいと思っていたところでござる。それに」
シズクさんはそう言ってクリスさんに視線を送った。するとクリスさんも大きく頷く。
「それじゃあ、決まりですね」
こうして私たちは天空老師に会いに行くことにしたのだった。
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