勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第38話 天空老師

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 結局その日、天空老師が帰ってくることはなかったため、私たちは庵から少し離れた場所にテントを張り、キャンプをしながら待つことにした。

 今日の夕食は豚肉と野菜を串に刺して塩コショウを振っただけのバーベキューだ。お店で食べる食事もいいが、こうして大自然の中で食べるシンプルな食事もまた格別だ。

 私たちはたき火を囲み、思い思いに焼き上がったお肉にかぶりついていく。

 焼きたてのお肉からは肉汁がじゅわりとあふれ、塩味とともに口に広がる。

「おいしーですっ!」

 ルーちゃんがそう言って幸せそうに表情を崩した。外なので量をあまり用意できていないせいか普段よりもゆっくりと味わって食べている。

 私ももう一口かぶりつこうと思ったそのときだった。

「ひえっ!?」

 シズクさんが突然悲鳴を上げ、私が慌てて向くとなんと串を持って座っているシズクさんの後ろにサングラスをかけた立派な白ひげのハゲた老人がしゃがんでおり、あろうことかシズクさんの胸を揉みしだいているではないか!

「な、な、な、こ、このっ!」

 シズクさんがなんとか振りほどこうともがいているが、体勢が悪いせいもあってかハゲジジイはビクともしない。

「うひょひょひょ。素晴らしいのう。素晴らしいのう」

 ハゲ老人はだらしのない表情でシズクさんの胸を触り続けていたが、やがてシズクさんが背負い投げのような形で老人を投げ飛ばした。

「この変態! 覚悟するでござる!」

 シズクさんは投げ飛ばしたハゲ老人に追いつき、鞘に納められたままのキリナギを振り抜いた。

「おっとっと。元気なぎゃるじゃのう」
「なっ!?」

 ハゲ老人は空中だというのにシズクさんの一撃をなんと白刃取りをするかのように両手で挟んで受け止め、するりと着地した。

「ふーむ。尻と太ももも中々じゃのう」

 いつの間にかハゲジジイはシズクさんの背後を取っており、シズクさんのお尻と太ももを後ろからさする。

「!?!?!?」

 あまりのことにシズクさんは言葉を失って固まっている。

「ふむ。こっちのぎゃるもなかなかじゃのう」
「なっ!?」

 と思いきや、今度はクリスさんの後ろに回って胸を揉みしだいていた。

「な!? こ、この! なんと破廉恥な!」

 クリスさんが体をよじってハゲジジイにビンタを喰らわせようとしたが、ハゲジジイの姿はそこにはなかった。

「え?」
「ふーむ。こっちの二人はまだまだじゃのう。たくさん食べて、早く大人になるんじゃぞ」

 突然たき火を挟んで私たちの反対側にハゲジジイが現れ、両手を開いてわきわきと動かしながらそんな暴言を吐いた。

 ……胸のことかっ!

 私はすぐさま結界を発動し、このエロハゲジジイをその中に閉じ込めた。

 するとエロハゲジジイは結界に手を当て、破壊しようと力を入れた。かなりの衝撃が伝わってくるが、この程度なら結界が破れることはない。

「むむっ?」

 エロハゲジジイは閉じ込められたことを察知したのか、しまったいうような表情を浮かべる。

「フィーネ殿!」
「そのままその罪人を閉じ込めておいてください」

 ここ最近では見たことないほど怒った二人がキリナギとセスルームニルを抜き放った状態で近づいてくる。

「ま、待つのじゃ」
「初対面の女の胸と尻を触るなど!」
「言語道断でござる!」

 ええと、どうしようか?

 この結界は閉じ込めるためのものなので外からの攻撃は通るわけだが、せっかく人に会ったんだから天空老師の居場所について話を聞きたい。

「あの、クリスさん、シズクさん、この人に話を――」
「安心するでござるよ」
「フィーネ様、殺しはしません。ですが、このような罪人を野放しにするわけには参りません」

 あ……ダメだ。完全にキレてる。

「ええと、はい。話を聞きますからね」
「かしこまりました」
「さあ、覚悟するでござる!」

 そう言うとシズクさんが神速の一撃をエロハゲジジイに叩き込み、トドメとばかりにクリスさんが振り下ろしの一撃を叩き込む。

 これは……もう無理だろう。あんな狭い結界の中にいるのだから、避けられるはずがない。

 私は大急ぎで治療をしようと駆け寄ったのだが、結界の中には鞘に入ったままの刀と剣で殴打されたはずのエロハゲジジイの姿はなかった。

「え?」
「やれやれ、野蛮じゃのう」

 その声にたき火のほうを振り向くと、なんとエロハゲジジイが座って何食わぬ顔で焼けた豚肉を口に運んでいた。

「おっ! いい肉じゃのう。柔らかくてじゅーしーで、塩加減もばっちりじゃ」

 ええと、私の結界は……破られていない。それなのにどうしてあそこに?

 あまりの事態に理解が追いつかずにいると、エロハゲジジイは一串をぺろりと平らげてしまった。

「それで、お主らはなんじゃ?」

 ええと、そうだね。ただ者ではなさそうだし、少し話をしてみるのもいいかもしれない。

「ええと、天空老師という潜在能力を開花させることができる仙人がいると聞いてやってきました。その人に会いたいのですが、どこにいらっしゃるかご存じないでしょうか」
「ん? 天空老師? 知っておるぞ」
「本当ですか? ではその仙人はどこに」
「おるぞ」
「え?」
「ほれ、今お嬢ちゃんの目の前におるじゃろ? ワシがその天空老師じゃ」
「「「えええええっ!?」」」

 私たちは同時に大声を上げたのだった。
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