勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第40話 天魔の首飾り

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「深淵か」
「ああ。遺跡の探索でいい成果があったのでな」
「何が見つかったのだ?」
「これだ」

 深淵は古びた黄金の細いチェーンのようなものを差し出した。

「これは?」
「これは天魔の首飾りだ」
「……それが首飾りだと?」

 飾りっけの一切ないチェーンに、ベルードは胡乱うろんげな目を向ける。

「これは不完全なものだ。本来はここに特別な宝石がなければならない」

 深淵の指し示した場所がペンダントトップらしく、何かをはめ込めそうな形をしている。

「特別な宝石?」
「ああ、そうだ」
「それで、これはなんの役に立つ?」
「これはかつて進化の秘術が生み出された際、瘴気を集め、制御するために使われたものだ」
「何?」
「今は宝石がないのでその力はないがな」
「ではその宝石はどこにある?」
「この首飾りに魔石を吸収させればいい」
「魔石を吸収させる、だと?」
「ああ。特に龍核だな。四つほど龍核があれば、世界中の瘴気を吸い上げることも可能となるだろう」
「龍核、か。だが龍王を倒せるのか?」
「何を言っている。そのためにまずは普通の魔石を吸収させればいい。そうして天魔の首飾りの力を取り戻せば、狂った龍王の瘴気を奪い取ることができるだろう」
「なるほど」

 ベルードは深淵から天魔の首飾りを受け取ると懐から小さな魔石を一つ取りだし、天魔の首飾りのペンダントトップの部分に近づける。すると魔石は淡い光を放ちながらペンダントトップに吸い込まれるようにして消滅する。

「これは……たしかにお前の言うとおりのようだ」

 すると深淵は鷹揚おうよううなずいた。

「ヘルマンよ。貴様のほうの首尾はどうだ? 聖女の尻を追いかけまわしていたのだろう?」
「……上々だ。聖女がこの種を使い、瘴気を消し去っていることまで確認した」

 深淵はヘルマンの持つ種をじっと見つめる。

「そうか。ならばあと一歩だな。私は遺跡の調査を続けるとしよう」

 深淵は表情を変えずにそう言ってくるりと背を向けるが、部屋を出て行こうとして立ち止まった。

「ああ、そうだ。嵐龍王は天空山脈のもっとも高い場所に眠っているぞ」

 振り返らずにそう言った深淵はそのまま立ち去っていった。

「ベルード様」
「よい。まだ深淵の力は必要不可欠だ」
「ですが……」
「すべての瘴気を集め、聖女の精霊の力で消し去る。ようやく希望が見えてきたのだ。こんなところで下らん争いをする必要はない。それよりも天空山脈だ。ヘルマン、行くぞ」
「はっ」

 こうしてベルードもまた居城を出発するのだった。

 一方、出発したベルードたちを見送った深淵はニヤリと不適な笑みを浮かべた。

「ククク、精霊神よ。お前は計画どおりか?」

◆◇◆

 ここは天空山脈の最高峰エストレーベの山頂、雲よりもはるかに高いその場所に小さな祠があった。

 その祠の前にベルードとヘルマンが降り立った。

「これか」
「そのようです」
「さあ、破るぞ。下がっていろ」
「はっ」

 ベルードは天魔の首飾りを高く掲げた。ペンダントトップには大きなどす黒い宝石がはめこまれており、そこから大量の瘴気が溢れだす。

 パリン!

 祠を守っていた結界は音を立てて粉々に砕け散り、すぐさまベルードは祠を剣で真っ二つに切り裂いた。

 するとそこにはぽっかりと黒い空間の割れ目のようなものが出現する。

「さあ、行くぞ」
「はっ」

 ベルードたちはそのまま割れ目の中へと姿を消したのだった。

◆◇◆

 シズクさんが修行を始めてもう二週間が経過した。最初はエロ仙人にセクハラをされながら掃除をするというものだったが、徐々にそれはエスカレートしていった。

 滝に打たれる修行をしているシズクさんをエロい目でみながら近くでセクハラ発言をしたり、瞑想中のシズクさんのお尻や尻尾に触ってセクハラをするなど、完全に犯罪者としか思えないようなことを続けているのだ。

 シズクさんも毎回抗議はしているのだが、エロ仙人はどこ吹く風でまるで反省した様子がない。しかも質の悪いことに、エロ仙人は怒ったシズクさんのビンタを軽々とかわして逃げていってしまうのだ。

 これだけの力を煩悩の赴くままに使っている残念な男が、あろうことか弟子に煩悩を捨てろと言い聞かせているのだから世も末だ。

 最初のころは、見た目が人間ということもあって瘴気の心配をしていたのだが、よく考えるとあの身体能力を人間が得られるとは到底思えない。なのでこのところは、エロ仙人はエロ仙人という種族だということで納得することにしている。

 さて、そんな修行を続けてさらに一週間ほどが経過した。この頃はシズクさんも色々と悟ってきたのか、エロ仙人を完全に無視するようになっている。

 今日も瞑想中のシズクさんにセクハラ発言からお尻タッチというセクハラをしているが、表情も変えずに瞑想を続けている。

「のーう。シズクちゃんやー、ええ乳やのう。どれ、股はどうかのっ!?」

 背後から胸を触り、あろうことかシズクさんの股間にまで手を伸ばしたエロ仙人の鳩尾にシズクさんの左の肘がめり込んでいた。

「う、ぐおおおお。や、やるようになったのぅ」

 エロ仙人は苦しそうにうずくまりながらも、なぜか師匠っぽい発言をしている。一方のシズクさんはまるで何事もなかったかのように瞑想を続けている。

 ええと、これは……うん。まあ、いいや。セクハラに天罰が下った。そういうことだ。

 それからしばらく悶絶もんぜつしていたエロ仙人だったが、フラフラになりながらもなんとか立ち上がった。

「シズクよ。そろそろいいじゃろう」

 するとシズクさんは目を開け、エロ仙人に冷ややかな視線を送った。だがすぐにシズクさんは森のほうを見据える。

 ん? あれは……もしかしてトレント? どうしてこんなところに!?

「ふむ、トレントが一匹じゃのう。シズク、倒すのじゃ」

 え? トレントだったら私が出たほうがいいんじゃないだろうか? シズクさんはまだ一度も【狐火】を使う練習をしていないのに。

 しかしシズクさんは一気にトレントとの距離を詰め、そのまま神速の居合切りでトレントを切り株にした。

 だがあれではすぐに再生してしまう!

 そう思ったのだが次の瞬間、切り株が青白い炎に包まれた。

 えっ!? 【狐火】? まさか【狐火】って、セクハラされると使えるようになるの?

 シズクさん自身も驚いているのか、炎に包まれるトレントの切り株を唖然とした表情で見つめている。

「うむ。どうやらこれがシズクの潜在能力じゃったようじゃな」
「天空老師、もしや分かっていたでござるか?」
「そりゃあそうじゃろう。ワシは最初に言ったじゃろう? いいものを持っておると」
「ではこれまでのことも……」
「もちろんじゃ。深い部分で集中できておらんかったからのう」
「そうとは知らず……申し訳なかったでござる」
「いいんじゃよ」

 エロ仙人は偉そうにそんなことを言っているが、私には単にスケベ目的だったようにしか見えない。

「尊敬しちゃったかな?」
「はい」

 エロ仙人がウザさ満点でそんなことを言っており、【狐火】を使えるようになったおかげかシズクさんも真面目に答えている。

 するとエロ仙人はニンマリと下卑た笑みを浮かべると、シズクさんの背後に一瞬で回り込んだ。そしてシズクさんのお尻に手を伸ばす!

 バチン!

 だがエロ仙人の手がシズクさんのお尻に触れるよりも早く、その顔面にビンタが綺麗に炸裂した。

「天空老師、今は修行の時間ではないでござるよ」
「う、う、うむ……。そ、そう……じゃの……」

 ビンタがダメージを与えたのか、それともお尻を触れなかったことが残念だったのか、天空老師はそのままがっくりと膝から崩れ落ちた。

 と、次の瞬間――。

 ドオオオオオン!

 突如、強力な衝撃が私たちを襲った。

「えっ!?」
「これは!」

 衝撃が飛んできたほうを見上げるが、そちらには分厚い雲が見えるだけだった。

「一体何が……?」
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