勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第48話 戦いを終えて

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 翌朝になり、ヴェダの被った被害が徐々に明らかになってきた。

 まず北側では門が破られ、一部の魔物たちの侵入を許してしまっており、残念ながら少なくない人的被害が出てしまった。それ以外にも撃ち漏らした鳥の魔物が街壁を越えて町に侵入し、被害をもたらしたのだという。

 そこで私は今、怪我をしてしまった人々の治療をするべく病院にやってきた。

 もちろんお城からまとめて治療をしてもいいのだが、聖女というのは人々に希望を与えるのが仕事だ。それに人々の歪んだ欲望が瘴気を生み出し、瘴気が魔物となって人々を襲っているということを直接伝えるいい機会でもある。

 そんな狙いもあってわざわざ病院にやってきたというわけだ。

 病院に到着すると人々が涙ながらに家族を助けてほしいと集まってきている。それを兵士の人たちが事故が起きないよう必死に止めてくれているので、その間に私たちは病院の中へと滑りこんだ。

「聖女様、お越しいただきありがとうございます。こちらに特に重症の患者を集めました。どうか……」
「はい。じゃあまとめて治癒しますね」

 私は部屋にいる人たちをまとめて治療した。

「はい。終わりました。次の患者さんのところに案内してください」
「へ? あ……は、はい! こちらです」

 それから私は病院のすべての患者さんをサクッと治療した。すると先ほど私に治療を懇願しようとしていて兵士たちに止められた人たちが、今度は口々にお礼を言いながら私に近寄ろうとしてまたもや兵士たちに止められている。

 ……今のタイミングなら彼らは私の話を信じてくれそうだ。

 そう考えた私は彼らのほうへと歩み寄り、営業スマイルを浮かべながら語り掛ける。

「皆さんの大切な人たちはもう大丈夫です」
「ありがとうございます!」
「ああ、聖女様!」

 ある人は安堵の表情を浮かべ、ある人は涙ながらに私にお礼を言ってくる。

 うーん。ちょっとこの人たちに瘴気の話をするのはちょっと申し訳ない気もするが、これも世界のためだ。

「今回はたまたま私がいたのでなんとかなりましたが、これからは皆さん一人一人の力が必要です」
「え?」

 人々は私の言葉の意味が分からず、困惑しているようだ。

「突然何を言っているのかと不思議に思ったかもしれません。ですが、魔物が人を襲うことには理由があるのです。魔物とは――」

 私は深淵の理について説明した。

「ですから、皆さんが、そして皆さんのご家族が、ご友人が、お知り合いが、正しい心を持って光り輝く必要があります。そうすれば、いずれ魔物は現れなくなるのです」
「そんなこと、聞いたこともないぞ」
「でも聖女様が仰っているんだ」
「あたしゃ、聖女様を信じるよ。何の見返りもなく息子の命を救ってくださったんだ。そんなお方が嘘なんてつくはずがない!」
「そ、それもそうだな!」

 やがて人々は私の言っていることが正しいと信じてくれたようで、口々に賛同してくれている。

「皆さん、信じてくれてありがとうございます。私は次の病院に行きますが、今日の話をぜひ、ご家族やお知り合いに教えてあげてください」
「はい! お任せください!」
「もちろんです!」

 こうして私は次の病院へと出発するのだった。

◆◇◆

 一日かけて病院を回って負傷者を治療し、その日はお城に泊めてもらった。そしてその翌日、王様にいくつか種を追加で渡し、魔物暴走スタンピード対応と治療費の請求をして部屋に戻る途中、お城の外が妙に騒がしいことに気付いた。

「あれ? どうしたんでしょう?」
「城の周りに大勢の人が集まっているようでござるな」
「ちょっと様子を見てみましょう。すみません。外が見える場所に行きたいんですけど」
「かしこまりました。ご案内いたします」

 兵士の人に案内をしてもらい、私たちは塔の屋上にやってきた。

 おお! これはすごい。ヴェダの町が一望できる。

 思いもよらないところにあった絶景スポットに感動していたが、すぐにここに来た目的を思い出してお城の周囲を確認する。

「……人がお城を取り囲んでいますね」
「あれは何をしているのでござろう」
「ええと……」

 私はじっと耳を澄まし、遠くの彼らの声を聞き取ろうと意識を集中させる。

「……盗人を捕まえろ? 処刑しろ? みたいなことを言っていますね。盗人ってどういうことでしょう?」
「種泥棒の話でござろう?」
「え? その話、まさかもう公表されてたんですか?」
「拙者たちも戻ってきてすぐに聞いたでござろう? 人の口に戸は立てられぬとよく言うでござるよ」

 ああ、なるほど。それもそうだ。それに、きっと昨日の魔物暴走スタンピードも影響しているのだろう。

 そんなことを考えながらぼーっとシュプレヒコールを上げる人々を眺めていると、ルーちゃんが私の裾を引っ張ってきた。

「姉さまっ」
「はい? どうしました?」
「そろそろお昼の時間ですっ!」
「え? ああ、そうですね。ビビにもご飯をあげないと」

 こうして私たちは塔の屋上を後にし、食堂へと向かうのだった。
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