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第二章
第42話 チンピラがしつこいです
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どうもこんにちは。ローザです。今日もマルダキアへ向けて馬車に揺られています。そして朝に引き続きまたまたあのチンピラ三人組に絡まれています。
「なあ、嬢ちゃん。お前冒険者になりたてだろ? 俺らはベテランの冒険者だからな。俺らのパーティーに入れよ。色々と教えてやるぜ? 女一人だと何かと不自由するだろう?」
今日何度目かのパーティー加入のお誘いです。その際もあたしの顔じゃなくて胸を見ているんだから何を考えているのか丸わかりです。全く!
「いえ、お断りします」
「何でだよ? 良いじゃねぇか」
「良くありません」
あたしはぴしゃりとそう断るとフードを目深に被り直します。
「ちょっとー? お客さん? 他のお客さんの迷惑になることはやめて下さいよー?」
「チッ」
しばらく絡まれては断り続けていると御者さんが御者台から声をかけてやんわりと止めてくれますが、またしばらくするとしつこく絡んできます。
一体何なんでしょうか?
あたしはそもそも奴隷にされるのがイヤで、そしてレオシュに捕まるのがイヤで逃げてきているんです。だからこんな奴らに良いように利用されるのだってごめんです。
「はぁ」
私は一つため息を吐くと馬車の外を見遣ります。いつの間にか草原から森の中へと入っています。どうも馬車がよく揺れるようになったな、とは思っていましたがどうやら森の中までは整備が行き届いていないせいで道が荒れているようです。
そんなことを考えていると馬車がゆっくりと道から外れ、脇の少し開けたスペースに停車しました。
「森の中ですが野営の準備に入ります」
御者台からそんな声が聞こえてきました。今までは森の中だったので気付きませんでしたがどうやらもう日が傾いているようです。
なるほど。空を見上げても太陽は見えませんし、確かに野営の準備を始めたほうが良いかもしれませんね。
あたしは水汲みに向かうことにします。
「あの、御者さん。水場はどこですか?」
「そこの木の裏手を 50 メートルくらい森に入ると小川があるよ」
「ありがとうございます」
ユキ達全員を引き連れて森の中に入ります。
あ、なんか三人組がついて来ようとしていますね。これは碌でもないことになりそうな予感がします。
「あの、ツェツィーリエさん。お水を汲みに行きますけど、一緒に行きませんか?」
「あら、そうねぇ。じゃあ行こうかしら。あなた、ちょっと行ってきますね」
「おぉ。それじゃあ儂はテントを張っておくぞ」
やっぱり他の人と一緒の方が安心ですしね。おばあちゃんなので守っては貰えないでしょうけど、多少は絡んできにくくはなってくれるんじゃないでしょうか?
こうしてあたし達は連れだって森の中に入ります。やはり少し遅れて三人組が後をつけてきていますが、あたし達はそれを無視して教えられた水場へと直行します。
そして言われたとおりにしばらく歩いて行くとそこには小さな小川が流れていました。
どうやらここが水場のようです。
水筒に残った水を捨てるとあたしは水を汲んだふりをして一度収納に水を入れ、そしてその水を水筒の中に戻しました。
わざわざこんなことをしている理由は、こうすることで小さな虫が混入しなくなるからです。だって、収納の中には生物を入れられないのでこうすれば自動的に水だけが入るんです。もちろんゴミとかは残っちゃいますけどね。
それからお鍋にも同じ要領で水を汲んで、それからおばあさんの分の水筒にも同じように水を汲んであげました。
「はい。ツェツィーリエさん」
「ああ、ありがとう。さ、戻ろうか」
「はい」
そうしてあたし達が戻ろうとしたところにまたあの三人組が声をかけてきました。
「なあ、嬢ちゃん。俺らのパーティーに――」
「お断りします。あたしは皆さんのパーティーには入りません」
「いいから入れって」
そう言って朝グスタフさんにのされた男があたしに手を伸ばしてきました。
その手をあたしの方にとまっていたホーちゃんが突つきました。
「いって!」
そいつは大げさに痛がるとあたしを睨み付けてきました。
「おいおい。冒険者の手を傷つけるとはどういう了見だ?」
「そうだ。この落とし前をどうやってつけるんだ?」
「そうだなぁ。こんな危険な森の中だ。慰謝料 50 万レウ払ってもらおうか」
「な、何を言っているんですか! 先に手を出してきたのはそっちです!」
「ああ? 手なんて出してねぇだろう。ちゃんと躾けられてねぇてめぇのペットがいきなり手を出したんだ。ああ、痛ぇ」
何という言いがかりでしょうか!
これ、やっちゃダメなんでしょうか?
「あらあら、散々この子に迷惑をかけておいて、醜い人達ねぇ」
え? ツェツィーリエさん?
「あなた達、ご自分の後ろを御覧なさい?」
「あ゛?」
何だかよく分からない声をあげながらあたしに凄んでいた男の一人が後ろを振り返ります。
「げっ!」
「ちっ。まあいい。俺達は心が広いからな。今日は許してやろう」
男たちはそう捨て台詞を残してそそくさと馬車の方へ戻っていき、そいつらと入れ替わる様にしてグスタフさんと御者さんが現れました。
「嬢ちゃん。やっぱりまた絡まれてたか」
「……なんだか、目をつけられちゃったみたいで」
グスタフさんがやれやれといった態度でそう言います。
「あの人達は随分とおかしな人ねぇ。こんなに小さなローザちゃんを脅すなんて」
「あの、あたしもう 12 歳なんでもう大人ですよ」
「あらあら。そうね。でもマルダキアでは 12 だとまだ半成人なのよ。16 歳になるまで結婚もできないしお酒も飲めないわ」
あ、そういえばそうでした。どっちもあたしには関係ないと思ってましたけど、これから向かうマルダキア魔法王国ではオーデルラーヴァやベルーシとは違って完全な成人とは見做されないんでした。
「でもこのままだとずっとあの人達に絡まれちゃうわねぇ。そうだ! ローザちゃん、わたし達のテントにいらっしゃい」
「え?」
「あの人達、夜になったら何するか分からないでしょう? それならわたしと主人のテントにいた方が安全なんじゃないかしら?」
「え? でもそんな……」
「いいのよ。子供も巣立ってしまってちょうど寂しかったし、どう?」
「嬢ちゃん。悪いことは言わねぇ。せっかくだから甘えとけ」
「……はい。わかりました。ありがとうございます」
こうしてあたしはツェツィーリエさんのところでお世話になることにしたのでした。
「なあ、嬢ちゃん。お前冒険者になりたてだろ? 俺らはベテランの冒険者だからな。俺らのパーティーに入れよ。色々と教えてやるぜ? 女一人だと何かと不自由するだろう?」
今日何度目かのパーティー加入のお誘いです。その際もあたしの顔じゃなくて胸を見ているんだから何を考えているのか丸わかりです。全く!
「いえ、お断りします」
「何でだよ? 良いじゃねぇか」
「良くありません」
あたしはぴしゃりとそう断るとフードを目深に被り直します。
「ちょっとー? お客さん? 他のお客さんの迷惑になることはやめて下さいよー?」
「チッ」
しばらく絡まれては断り続けていると御者さんが御者台から声をかけてやんわりと止めてくれますが、またしばらくするとしつこく絡んできます。
一体何なんでしょうか?
あたしはそもそも奴隷にされるのがイヤで、そしてレオシュに捕まるのがイヤで逃げてきているんです。だからこんな奴らに良いように利用されるのだってごめんです。
「はぁ」
私は一つため息を吐くと馬車の外を見遣ります。いつの間にか草原から森の中へと入っています。どうも馬車がよく揺れるようになったな、とは思っていましたがどうやら森の中までは整備が行き届いていないせいで道が荒れているようです。
そんなことを考えていると馬車がゆっくりと道から外れ、脇の少し開けたスペースに停車しました。
「森の中ですが野営の準備に入ります」
御者台からそんな声が聞こえてきました。今までは森の中だったので気付きませんでしたがどうやらもう日が傾いているようです。
なるほど。空を見上げても太陽は見えませんし、確かに野営の準備を始めたほうが良いかもしれませんね。
あたしは水汲みに向かうことにします。
「あの、御者さん。水場はどこですか?」
「そこの木の裏手を 50 メートルくらい森に入ると小川があるよ」
「ありがとうございます」
ユキ達全員を引き連れて森の中に入ります。
あ、なんか三人組がついて来ようとしていますね。これは碌でもないことになりそうな予感がします。
「あの、ツェツィーリエさん。お水を汲みに行きますけど、一緒に行きませんか?」
「あら、そうねぇ。じゃあ行こうかしら。あなた、ちょっと行ってきますね」
「おぉ。それじゃあ儂はテントを張っておくぞ」
やっぱり他の人と一緒の方が安心ですしね。おばあちゃんなので守っては貰えないでしょうけど、多少は絡んできにくくはなってくれるんじゃないでしょうか?
こうしてあたし達は連れだって森の中に入ります。やはり少し遅れて三人組が後をつけてきていますが、あたし達はそれを無視して教えられた水場へと直行します。
そして言われたとおりにしばらく歩いて行くとそこには小さな小川が流れていました。
どうやらここが水場のようです。
水筒に残った水を捨てるとあたしは水を汲んだふりをして一度収納に水を入れ、そしてその水を水筒の中に戻しました。
わざわざこんなことをしている理由は、こうすることで小さな虫が混入しなくなるからです。だって、収納の中には生物を入れられないのでこうすれば自動的に水だけが入るんです。もちろんゴミとかは残っちゃいますけどね。
それからお鍋にも同じ要領で水を汲んで、それからおばあさんの分の水筒にも同じように水を汲んであげました。
「はい。ツェツィーリエさん」
「ああ、ありがとう。さ、戻ろうか」
「はい」
そうしてあたし達が戻ろうとしたところにまたあの三人組が声をかけてきました。
「なあ、嬢ちゃん。俺らのパーティーに――」
「お断りします。あたしは皆さんのパーティーには入りません」
「いいから入れって」
そう言って朝グスタフさんにのされた男があたしに手を伸ばしてきました。
その手をあたしの方にとまっていたホーちゃんが突つきました。
「いって!」
そいつは大げさに痛がるとあたしを睨み付けてきました。
「おいおい。冒険者の手を傷つけるとはどういう了見だ?」
「そうだ。この落とし前をどうやってつけるんだ?」
「そうだなぁ。こんな危険な森の中だ。慰謝料 50 万レウ払ってもらおうか」
「な、何を言っているんですか! 先に手を出してきたのはそっちです!」
「ああ? 手なんて出してねぇだろう。ちゃんと躾けられてねぇてめぇのペットがいきなり手を出したんだ。ああ、痛ぇ」
何という言いがかりでしょうか!
これ、やっちゃダメなんでしょうか?
「あらあら、散々この子に迷惑をかけておいて、醜い人達ねぇ」
え? ツェツィーリエさん?
「あなた達、ご自分の後ろを御覧なさい?」
「あ゛?」
何だかよく分からない声をあげながらあたしに凄んでいた男の一人が後ろを振り返ります。
「げっ!」
「ちっ。まあいい。俺達は心が広いからな。今日は許してやろう」
男たちはそう捨て台詞を残してそそくさと馬車の方へ戻っていき、そいつらと入れ替わる様にしてグスタフさんと御者さんが現れました。
「嬢ちゃん。やっぱりまた絡まれてたか」
「……なんだか、目をつけられちゃったみたいで」
グスタフさんがやれやれといった態度でそう言います。
「あの人達は随分とおかしな人ねぇ。こんなに小さなローザちゃんを脅すなんて」
「あの、あたしもう 12 歳なんでもう大人ですよ」
「あらあら。そうね。でもマルダキアでは 12 だとまだ半成人なのよ。16 歳になるまで結婚もできないしお酒も飲めないわ」
あ、そういえばそうでした。どっちもあたしには関係ないと思ってましたけど、これから向かうマルダキア魔法王国ではオーデルラーヴァやベルーシとは違って完全な成人とは見做されないんでした。
「でもこのままだとずっとあの人達に絡まれちゃうわねぇ。そうだ! ローザちゃん、わたし達のテントにいらっしゃい」
「え?」
「あの人達、夜になったら何するか分からないでしょう? それならわたしと主人のテントにいた方が安全なんじゃないかしら?」
「え? でもそんな……」
「いいのよ。子供も巣立ってしまってちょうど寂しかったし、どう?」
「嬢ちゃん。悪いことは言わねぇ。せっかくだから甘えとけ」
「……はい。わかりました。ありがとうございます」
こうしてあたしはツェツィーリエさんのところでお世話になることにしたのでした。
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