テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第三章

第三章第50話 見張りは男の仕事だそうです

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 お料理は皆さんにとっても好評でした。

 特に男子はスープのおかわりまでしてくれて、あっという間に用意した分はなくなりました。

 えへへ。なんだかこうして自分で作ったお料理を美味しく食べてもらえるって嬉しいですよね。

 前は丸焼きしか出来なかったわけですから、やっぱり料理研究会に入って良かったです。

 あ、後片付けはいつもどおりピーちゃんが残った骨まで全部綺麗にしてくれました。

「ピーちゃん、いつもありがとうございます」
「ピッ!」

 ピーちゃんは気にしなくていいと言っているみたいですが、どこか嬉しそうにしています。

「もう終わったんですの?」
「はい。ピカピカになりましたよ」
「皿とはスライムがきれいにするものだったんですのね。わたくし、初めて知りましたわ」
「え? あ、えっと、はい。あたしにはピーちゃんがいますから……」

 なんだかロクサーナさんに間違った常識を教えてしまったような……?

 するとロクサーナさんはくるりと背を向けて、テントのほうへと歩いていきます。

「さあ、そろそろ寝ますわよ。明日は早いのですから」
「え?」
「あら? まだ寝ないんですの? それとも野営では他に何かやることがあるんですの?」
「あ、えっと、ここは魔物が出る場所なので、見張りをしておいたほうが……」
「あら、それは彼らの仕事ですわ」

 ロクサーナさんはそう言って男子たちを指さしました。

「ええっ!?」

 それって訓練にならないんじゃ……?

「あら? ローザはもしかすると見張りをやりたいんですの?  それならばわたくしがお願いして差し上げますわ」
「え? え?」

 なぜかおかしな解釈をしたロクサーナさんがマリウスさんたちのほうへと歩いていったので、私も慌てて追いかけます。

「ん? ロクサーナ様? 何か?」
「ええ、マリウス様。ローザが見張りをやってみたいと言っているんですの」
「む……」

 マリウスさんは私をちらりと見ると、すぐに困ったような表情をしました。そしてマリウスさんの隣にいたヴァシリオスさんが私をギロリとにらんできます。

「何を言っている! 女を守るのは俺たち男の義務だ。女を守れずして騎士になどなれるはずがない。女は黙って俺たちに守られていればいいんだ」

 あ……えっと……その?

「か弱い年下の女がやってみたいと言っているんですのよ? 騎士とはその程度の願いも叶えてやれないんですの?」
「そうではありません、ロクサーナ様。私は身の安全の話をしているのです」

 ロクサーナさんもヴァシリオスさんも一体何を言っているんでしょうか?

 これ、演習ですよね? みんなで協力しないとダメなんじゃ……?

「少しくらいは大丈夫なのではなくて?」
「ロクサーナ様、ここは魔物の出る森です。いくら大した魔物が出ないと分かっているとはいえ、油断大敵です。男はロクサーナ様やそこのローザ、それにベティーナを守るのが使命です」

 ……ヴァシリオスさんって目つきが怖くて俺様な感じですけど、悪い人ではないのかもしれませんね。

 少なくともオーデルラーヴァのあいつらと違って、弱い人を守ろうとしているのですから立派だと思います。

 えっと、胸をチラ見されるのは嫌ですけど……。

 でも、ここまで言っているなら任せてみてもいいかもしれません。

「あ、あのっ!」
「なんですの?」
「そこまで言ってくれるならお任せしますけど、あたしもホーちゃんにお願いして見ておいてもらってもいいですか? 魔物が来たらホーちゃんが教えてくれるので……」
「あら、そのフクロウはそんなこともできるんですのね」
「はい。夜目は利きますし、たぶんあたしたちよりも先に見つけてくれると思いますから」
「そう。マリウス様、そのくらいでしたらよろしいですわね?」
「はい。ではローザ、従魔による見張りの補助を頼む」
「はい。ホーちゃん、よろしくお願いします」
「ホーッ!」

 ホーちゃんはひと鳴きすると、私の肩から飛び立っていきました。

「ミャー?」
「ユキはあたしと一緒にお留守番です」
「ミャッ」
「ピピ?」
「ピーちゃんもユキと一緒です」
「ピッ」

 ユキを抱っこしながらピーちゃんに枕になってもらうのがあたしのお気に入りのスタイルですからね。

「本当に賢いですわね」
「まったくです」

 ロクサーナさんもマリウスさんもヴァシリオスさんも、ユキたちに興味津々です。

「こういう従魔なら欲しいな」
「たしかに……」

 マリウスさんとヴァシリオスさんがユキとピーちゃんを見てそうつぶやきます。

「ミャッ!?」
「ピピッ!?」

 ユキとピーちゃんがあたしの後ろに隠れました。

 あれ? このやり取り何度目でしたっけ?

「おいおい。これ、言葉分かってるんじゃないか?」
「従魔になると言葉が分かるようになるのか? それに偵察できる従魔がいれば騎士になってからも役に立ちそうだ。よし、来年は従魔科の授業も取るぞ」
「そうだな」

 なんだかマリウスさんとヴァシリオスさんが二人で勝手に盛り上がっています。

「あの……」
「そうですわね、ローザ。マリウス様、わたくしたちは失礼いたしますわ」
「ん? ああ、そうでした。あとのことは我々にお任せください」
「ええ。よしなに。さあ、ローザ。行きますわよ」
「はい。あの、おやすみなさい」
「ああ」

 そう言うと、マリウスさんはなぜか顔を背けました。

 えっと、なんなんでしょう?

 よく分かりませんが、胸をジロジロ見られるよりはよっぽどマシですけど……。
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