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第三章
第三章第57話 みんな戻ってきました
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あたしたちは荷物を担ぎ、なんとか引率の先生たちが泊まっている最初の小屋まで戻ってくることができました。
途中で何回かゴブリンに襲われましたが、先生たちがすべて倒してくれました。
それとあたしは女の子だからという理由で小屋の中に入れてもらいましたが、前線で戦っていてくれたコンラートさんたちは外で夜が明けるのを待つことになります。
あたしたちが言っても交代はしないと思いますけど、なんだか複雑な気分です。
それからしばらく待っていると、他の二班も戻ってきました。ゲラシム先生の指示で、先生たちがキャンプ地から連れてきたみたいです。
「ローザちゃん!」
「リリアちゃん!」
あたしたちは抱き合って再会を喜び合います。
「大丈夫だった? ゴブリンの群れが出たんでしょ?」
「はい。ものすごい数でもうダメかと思いましたけど、先生が助けに来てくれました」
「そっか。そっかぁ。ああ、良かったぁ」
リリアちゃんはぎゅっとあたしのことを抱きしめてきます。
「うん……」
「ローザ! 無事でよかった!」
「ヴィーシャさん……はい。なんとか無事です」
「先生がいきなり来て撤収を指示するからさ。何事かと思ったよ。ゴブリンの群れがまた襲われるだなんてね」
「はい」
「ローザが無事でよかったよ。他の人たちは?」
「みんな無事です。ピーちゃんの治療は必要になっちゃいましたけど」
「そっか。でもよく考えたらローザの班は光属性が二人いるようなものだもんね」
「そういえばそうですね」
「とにかく無事でよかったよ」
ヴィーシャさんはリリアちゃんごとあたしのことを抱きしめてきました。
「ロクサーナ、ローザ大変でしたわね。無事で何よりですわ」
「レジーナ様、ありがとう存じます」
「ありがとうございます」
二人に抱きつかれて身動きが取れないので、あたしはなんとかそう返事だけします。
「一体何があったんですの?」
「はい。わたくしたちが野営をしていると――」
ロクサーナさんがあの夜のことを説明します。
「それは、本当に大変な目に遭いましたわね」
「は、はい。あの、リリアちゃん、ヴィーシャさん」
「あっ、ごめん」
「ごめんごめん」
二人はようやくあたしを放してくれました。
「あなたの従魔のホーちゃんだったかしら? あの子に偵察をしてもらうことはできますの?」
「え? できるとは思いますけど……」
「ならば、今すぐ森を広く確認させるべきですわ。特に、貴女たちの班がキャンプをしていた方向を
中心に」
「えっと、はい。ホーちゃん、もうちょっと頑張ってもらえますか?」
「ホー」
ホーちゃんはお安い御用だとばかりに片方の翼を上げます。
「あの、戦わなくていいですからね? 偵察だけ、お願いします」
「ホー!」
ホーちゃんはまだまだ元気そうです。
窓から外に出してあげると、音もなく夜の森へと飛び立っていきました。
「あの、どうしたんですか?」
「わたくしたちは、ゴブリンに襲われてなどいないのですわ」
「えっ? あんなにいたのにですか?」
「ええ、そうですわ。おかしいと思いませんこと?」
「えっと……」
レジーナさんの言わんとしていることがよく分かりません。
「ではリリア、貴女の班はゴブリンに襲われて?」
「いえ。でもゴブリンが一匹いたので、それは倒しました」
「襲われてはいなんですのよね?」
「はい」
「そういうことですわ」
「えっと……」
「要するに、貴女たちの班だけが狙われたということですわ。たまたまゴブリンの群れが貴女たちの班を見つけたというのであれば、ゴブリンは貴女たちの班がキャンプしていたほうにいるということになりますわ。その他にも、貴女たちの班の何かを狙ってゴブリンがやってきたという可能性もありますわね」
「何か?」
「ええ。ゴブリンを誘引するような何か、ですわ。物なのか人なのか、あるいはまったく別のモノなのかは分からないですけれど」
「……」
よく分かりませんが、そんなものがあるんでしょうか?
ゴブリンが村を襲うということはよく知っていますけれど……。
「レジーナ君、憶測で話しても始まらないだろう。ロクサーナ君の班はたき火をし、肉を焼いていた。その匂いを斥候役のゴブリンが嗅ぎつけ、本隊を呼んだというのが我々の見立てだ」
「斥候役?」
「そうだ。ゴブリンの変異体と言っても色々と種類があり、中には知能が大きく発達する場合がある。そのような変異体に率いられた群れは非常に手ごわい存在となるが、群れのリーダーらしき変異体はローザ君の従魔が暗殺している。だからレジーナ君が心配するような事態にはならないと踏んでいる。こちらに襲ってきたとしても、精々十匹程度だろう。そしてこの小屋の周りには特製の防御用ゴーレムを配置してあるため、ゴブリンの群れに抜かれる可能性は極めて低い」
「そうだったのですね。余計なことを申し上げましたわね」
「いや、だがレジーナ君の着眼点は素晴らしい。断片的な情報を繋ぎ合わせ、最悪の結果を予測した行動は見事だ。さすがマレスティカ公爵家のご令嬢と言わざるを得ない」
「お褒めに与り光栄ですわ」
「ローザ君、君の従魔も適当な範囲で引き返させて構わない。恐らく今ごろゴブリンの死体に獣が群がっているころだろう」
「はい」
ふとホーちゃんと視界を共有して確認してみようかと思いましたが、止めておきました。
そんな光景なんて見たくないですし、今はMPも残り少ないですからね。
途中で何回かゴブリンに襲われましたが、先生たちがすべて倒してくれました。
それとあたしは女の子だからという理由で小屋の中に入れてもらいましたが、前線で戦っていてくれたコンラートさんたちは外で夜が明けるのを待つことになります。
あたしたちが言っても交代はしないと思いますけど、なんだか複雑な気分です。
それからしばらく待っていると、他の二班も戻ってきました。ゲラシム先生の指示で、先生たちがキャンプ地から連れてきたみたいです。
「ローザちゃん!」
「リリアちゃん!」
あたしたちは抱き合って再会を喜び合います。
「大丈夫だった? ゴブリンの群れが出たんでしょ?」
「はい。ものすごい数でもうダメかと思いましたけど、先生が助けに来てくれました」
「そっか。そっかぁ。ああ、良かったぁ」
リリアちゃんはぎゅっとあたしのことを抱きしめてきます。
「うん……」
「ローザ! 無事でよかった!」
「ヴィーシャさん……はい。なんとか無事です」
「先生がいきなり来て撤収を指示するからさ。何事かと思ったよ。ゴブリンの群れがまた襲われるだなんてね」
「はい」
「ローザが無事でよかったよ。他の人たちは?」
「みんな無事です。ピーちゃんの治療は必要になっちゃいましたけど」
「そっか。でもよく考えたらローザの班は光属性が二人いるようなものだもんね」
「そういえばそうですね」
「とにかく無事でよかったよ」
ヴィーシャさんはリリアちゃんごとあたしのことを抱きしめてきました。
「ロクサーナ、ローザ大変でしたわね。無事で何よりですわ」
「レジーナ様、ありがとう存じます」
「ありがとうございます」
二人に抱きつかれて身動きが取れないので、あたしはなんとかそう返事だけします。
「一体何があったんですの?」
「はい。わたくしたちが野営をしていると――」
ロクサーナさんがあの夜のことを説明します。
「それは、本当に大変な目に遭いましたわね」
「は、はい。あの、リリアちゃん、ヴィーシャさん」
「あっ、ごめん」
「ごめんごめん」
二人はようやくあたしを放してくれました。
「あなたの従魔のホーちゃんだったかしら? あの子に偵察をしてもらうことはできますの?」
「え? できるとは思いますけど……」
「ならば、今すぐ森を広く確認させるべきですわ。特に、貴女たちの班がキャンプをしていた方向を
中心に」
「えっと、はい。ホーちゃん、もうちょっと頑張ってもらえますか?」
「ホー」
ホーちゃんはお安い御用だとばかりに片方の翼を上げます。
「あの、戦わなくていいですからね? 偵察だけ、お願いします」
「ホー!」
ホーちゃんはまだまだ元気そうです。
窓から外に出してあげると、音もなく夜の森へと飛び立っていきました。
「あの、どうしたんですか?」
「わたくしたちは、ゴブリンに襲われてなどいないのですわ」
「えっ? あんなにいたのにですか?」
「ええ、そうですわ。おかしいと思いませんこと?」
「えっと……」
レジーナさんの言わんとしていることがよく分かりません。
「ではリリア、貴女の班はゴブリンに襲われて?」
「いえ。でもゴブリンが一匹いたので、それは倒しました」
「襲われてはいなんですのよね?」
「はい」
「そういうことですわ」
「えっと……」
「要するに、貴女たちの班だけが狙われたということですわ。たまたまゴブリンの群れが貴女たちの班を見つけたというのであれば、ゴブリンは貴女たちの班がキャンプしていたほうにいるということになりますわ。その他にも、貴女たちの班の何かを狙ってゴブリンがやってきたという可能性もありますわね」
「何か?」
「ええ。ゴブリンを誘引するような何か、ですわ。物なのか人なのか、あるいはまったく別のモノなのかは分からないですけれど」
「……」
よく分かりませんが、そんなものがあるんでしょうか?
ゴブリンが村を襲うということはよく知っていますけれど……。
「レジーナ君、憶測で話しても始まらないだろう。ロクサーナ君の班はたき火をし、肉を焼いていた。その匂いを斥候役のゴブリンが嗅ぎつけ、本隊を呼んだというのが我々の見立てだ」
「斥候役?」
「そうだ。ゴブリンの変異体と言っても色々と種類があり、中には知能が大きく発達する場合がある。そのような変異体に率いられた群れは非常に手ごわい存在となるが、群れのリーダーらしき変異体はローザ君の従魔が暗殺している。だからレジーナ君が心配するような事態にはならないと踏んでいる。こちらに襲ってきたとしても、精々十匹程度だろう。そしてこの小屋の周りには特製の防御用ゴーレムを配置してあるため、ゴブリンの群れに抜かれる可能性は極めて低い」
「そうだったのですね。余計なことを申し上げましたわね」
「いや、だがレジーナ君の着眼点は素晴らしい。断片的な情報を繋ぎ合わせ、最悪の結果を予測した行動は見事だ。さすがマレスティカ公爵家のご令嬢と言わざるを得ない」
「お褒めに与り光栄ですわ」
「ローザ君、君の従魔も適当な範囲で引き返させて構わない。恐らく今ごろゴブリンの死体に獣が群がっているころだろう」
「はい」
ふとホーちゃんと視界を共有して確認してみようかと思いましたが、止めておきました。
そんな光景なんて見たくないですし、今はMPも残り少ないですからね。
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