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第25話 修了試験
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それから一か月、午前中は剣の、午後は魔法と付き人の教育を受ける。そして夜になると気が滅入っているのかベッドで弱音を吐く陽菜を元気づけてやるという精神修行を続けた。
いやはや、よく襲わなかったものだと自分を褒めてやりたいくらいだ。
そのおかげかどうかは分からないが、魔法についてはかなりの腕前になったと思う。魔法を使うには雑念を捨て、魔法を発動することだけに精神を集中するのが重要なのだそうで……。
その話はさておき、今日は隊長に特訓の成果を確認してもらう試験の日だ。ここで合格を貰えなければ、もう一か月修行が延長になってしまう。
「陽菜、行ってくるよ」
「うん。試験なんでしょ? 頑張ってね」
「ありがとう」
俺はドレス姿の陽菜に見送られ、訓練場へと向かうのだった。
◆◇◆
「ようし! ではショータよ。この一か月の訓練の成果を見せてみろ!」
「はい!」
訓練場に着くと、すぐに試験が始まった。他の騎士や見習いたちが見守る中、俺は隊長と一対一で対峙する。
試験なので当然ではあるが、魔法料理によるドーピングはしていない。
「いきます!」
俺は身体強化を発動し、一気に隊長との間合いを詰める。
「ぬん!」
俺の渾身の一撃は隊長に防がれるが、習った連続技を次々と繰り出していく。
「そんな程度か!」
余裕で受けきられてしまった。やはりこの程度では、百戦錬磨の隊長を倒すことはできそうにない。
「まだまだです!」
そうは言ったものの、俺は別に戦いの経験がたくさんあるわけでも、武術をやっていた経験があるわけでもない。ましてや格闘技や剣術のファンですらない。
だから俺にできることは習ったことを思い出し、それをできるだけ高いレベルで出しきることだけだ。
俺はさらに身体強化のレベルを上げ、フルパワーの一歩手前まで引き揚げる。
「うおおおおお!」
「ぬっ!」
俺は渾身の力を込め、剣を振り下ろす。
ゴスン!
鈍い音と共に木剣同士がぶつかり合う。
「ぐぬぬ。このっ!」
隊長が木剣を押し返そうと力を込めたその瞬間、俺は隊長の足元に魔法を放ち、地面をドロドロにした。
「うおっ!?」
突然力が抜けた隊長はバランスを崩す。
「はあっ!」
俺は木刀を使って剣を弾き、隊長の首筋に剣を差し当てた。すると訓練場はシンと静まり返る。
「ぐっ……見事だ、ショータ。俺の負けだ」
「……やった! ありがとうございます!」
やった! 初めて隊長から一本取った!
「そうか。あの身体強化はショータの全力ではなかったのだな」
「はい。余力を少しだけ残しておきました」
「ははは、見事にしてやられたぞ。合格だ!」
「ありがとうございます!」
俺は隊長に頭を下げ、隊長も満足げな表情を浮かべる。
「俺も聖女様より賜った任務を達成できたことを嬉しく思うよ。聖女様は本当にすごい。一体どうやってショータがこれほどの魔力の持ち主だと見抜かれたのか……」
「やっぱり聖女様ですし、一目見て分かるんじゃないですか?」
「そうかもしれんな。やはり聖女様は、俺たちごときでは到底理解できぬところまで見えていらっしゃるのだろうな」
「かもしれません」
陽菜も聖女様の能力については話さないので、きっとそのあたりは何も教えてもらっていないのだろう。
……そういえば陽菜は今、何をしているのかな?
今日はいい報告ができ……あれ? そうか。試験に合格したってことは、俺はもう少ししたら隊長と魔窟とやらに行かなきゃいけないのか。
となると陽菜は一人になっちゃうけど……ああ、やっぱり心配だ。このところずっと参っているようだし、気晴らしに散歩ができるようにお願い……は無理か。聖女様は男の俺になんて会ってくれないだろうしなぁ。
「ん? どうしたんだ? ショータ」
「あ、いえ。陽菜、あ、同室の女の子のことが心配になってきたんです。これから魔窟の攻略に行かなきゃいけないじゃないですか」
「ん? ああ、そうだったな。お前はその女性の彼氏なんだったな。ま、お前の心配も分かるが、男の俺たちにはどうしようもないことだ」
「え?」
「女性は自由に男を選べるからなぁ。でも彼氏にまでしてもらったんなら、堂々としておけ。じゃないと捨てられるぞ」
「……はい。って、そうじゃなくて!」
「ん? 違うのか?」
「違います。散歩とか、自由に気分転換させてあげられたらって思ってたんです」
「ん? そうなのか? 警備上の理由で宮殿から出るのを禁止しているという通達はあるが、散歩なんかは自由なはずだぞ?」
「えっ? そうなんですか?」
「当たり前だろ。女性の自由を理由もなく奪って軟禁したなんて知られたら、この町から女性の方々が出ていってしまうからな」
「な、なるほど……言われてみればそうですね」
このあたりの感覚はどうにも慣れない。
「まあ、女性の悩みはよく分からないが、精々頑張れよ。彼氏様」
「は、はい……」
と、そんなわけで、なんとも締まりのない形で俺の試験は終了した。
「ようし! それじゃあお前ら! 今後は魔窟攻略の準備に入る! 前回の失敗の教訓を活かし、今度こそ魔窟を攻略するぞ!」
「「「「はい!」」」」
「ショータ! お前もだぞ!」
「はい!」
「ようし! なら、まずは訓練場を十周だ!」
こうして俺たちは今日の訓練を始めるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/29 (木) 18:00 を予定しております。
いやはや、よく襲わなかったものだと自分を褒めてやりたいくらいだ。
そのおかげかどうかは分からないが、魔法についてはかなりの腕前になったと思う。魔法を使うには雑念を捨て、魔法を発動することだけに精神を集中するのが重要なのだそうで……。
その話はさておき、今日は隊長に特訓の成果を確認してもらう試験の日だ。ここで合格を貰えなければ、もう一か月修行が延長になってしまう。
「陽菜、行ってくるよ」
「うん。試験なんでしょ? 頑張ってね」
「ありがとう」
俺はドレス姿の陽菜に見送られ、訓練場へと向かうのだった。
◆◇◆
「ようし! ではショータよ。この一か月の訓練の成果を見せてみろ!」
「はい!」
訓練場に着くと、すぐに試験が始まった。他の騎士や見習いたちが見守る中、俺は隊長と一対一で対峙する。
試験なので当然ではあるが、魔法料理によるドーピングはしていない。
「いきます!」
俺は身体強化を発動し、一気に隊長との間合いを詰める。
「ぬん!」
俺の渾身の一撃は隊長に防がれるが、習った連続技を次々と繰り出していく。
「そんな程度か!」
余裕で受けきられてしまった。やはりこの程度では、百戦錬磨の隊長を倒すことはできそうにない。
「まだまだです!」
そうは言ったものの、俺は別に戦いの経験がたくさんあるわけでも、武術をやっていた経験があるわけでもない。ましてや格闘技や剣術のファンですらない。
だから俺にできることは習ったことを思い出し、それをできるだけ高いレベルで出しきることだけだ。
俺はさらに身体強化のレベルを上げ、フルパワーの一歩手前まで引き揚げる。
「うおおおおお!」
「ぬっ!」
俺は渾身の力を込め、剣を振り下ろす。
ゴスン!
鈍い音と共に木剣同士がぶつかり合う。
「ぐぬぬ。このっ!」
隊長が木剣を押し返そうと力を込めたその瞬間、俺は隊長の足元に魔法を放ち、地面をドロドロにした。
「うおっ!?」
突然力が抜けた隊長はバランスを崩す。
「はあっ!」
俺は木刀を使って剣を弾き、隊長の首筋に剣を差し当てた。すると訓練場はシンと静まり返る。
「ぐっ……見事だ、ショータ。俺の負けだ」
「……やった! ありがとうございます!」
やった! 初めて隊長から一本取った!
「そうか。あの身体強化はショータの全力ではなかったのだな」
「はい。余力を少しだけ残しておきました」
「ははは、見事にしてやられたぞ。合格だ!」
「ありがとうございます!」
俺は隊長に頭を下げ、隊長も満足げな表情を浮かべる。
「俺も聖女様より賜った任務を達成できたことを嬉しく思うよ。聖女様は本当にすごい。一体どうやってショータがこれほどの魔力の持ち主だと見抜かれたのか……」
「やっぱり聖女様ですし、一目見て分かるんじゃないですか?」
「そうかもしれんな。やはり聖女様は、俺たちごときでは到底理解できぬところまで見えていらっしゃるのだろうな」
「かもしれません」
陽菜も聖女様の能力については話さないので、きっとそのあたりは何も教えてもらっていないのだろう。
……そういえば陽菜は今、何をしているのかな?
今日はいい報告ができ……あれ? そうか。試験に合格したってことは、俺はもう少ししたら隊長と魔窟とやらに行かなきゃいけないのか。
となると陽菜は一人になっちゃうけど……ああ、やっぱり心配だ。このところずっと参っているようだし、気晴らしに散歩ができるようにお願い……は無理か。聖女様は男の俺になんて会ってくれないだろうしなぁ。
「ん? どうしたんだ? ショータ」
「あ、いえ。陽菜、あ、同室の女の子のことが心配になってきたんです。これから魔窟の攻略に行かなきゃいけないじゃないですか」
「ん? ああ、そうだったな。お前はその女性の彼氏なんだったな。ま、お前の心配も分かるが、男の俺たちにはどうしようもないことだ」
「え?」
「女性は自由に男を選べるからなぁ。でも彼氏にまでしてもらったんなら、堂々としておけ。じゃないと捨てられるぞ」
「……はい。って、そうじゃなくて!」
「ん? 違うのか?」
「違います。散歩とか、自由に気分転換させてあげられたらって思ってたんです」
「ん? そうなのか? 警備上の理由で宮殿から出るのを禁止しているという通達はあるが、散歩なんかは自由なはずだぞ?」
「えっ? そうなんですか?」
「当たり前だろ。女性の自由を理由もなく奪って軟禁したなんて知られたら、この町から女性の方々が出ていってしまうからな」
「な、なるほど……言われてみればそうですね」
このあたりの感覚はどうにも慣れない。
「まあ、女性の悩みはよく分からないが、精々頑張れよ。彼氏様」
「は、はい……」
と、そんなわけで、なんとも締まりのない形で俺の試験は終了した。
「ようし! それじゃあお前ら! 今後は魔窟攻略の準備に入る! 前回の失敗の教訓を活かし、今度こそ魔窟を攻略するぞ!」
「「「「はい!」」」」
「ショータ! お前もだぞ!」
「はい!」
「ようし! なら、まずは訓練場を十周だ!」
こうして俺たちは今日の訓練を始めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/02/29 (木) 18:00 を予定しております。
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