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第26話 魔窟の情報
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午前の訓練を終え、隊長に呼び出された俺は壁に本棚が並ぶ小さな部屋にやってきた。俺たちは小さなテーブルを挟み、向かい合うようにして着席する。
「さて、ショータ。今日は魔法の訓練は無しで、俺たちが攻略する魔窟について話そう。知っていることも多いだろうが、まずはどこまで知っているのか認識を合わせよう」
「はい。じゃあさっそく質問、いいですか?」
「いいぞ」
「そもそも、魔窟ってなんですか? イメージとしては魔物がいっぱいいる場所って感じなんですけど……」
「まあ、ちょっと浅いが一般人ならそのくらいの認識だろうな。お前のいた国に魔窟はなかったのか?」
「はい」
「そうか。それは良かったな」
「ええと……」
「ああ、すまない。まず魔物の話をするか。魔窟というのはな。その魔物が無限に湧き出る場所だ」
「え? 無限ですか?」
「ああ。魔窟は生きていて、常に成長するんだ。成長すればするほど魔窟はより深く、より複雑になって、強力な魔物を多く生み出すようになる」
「な、なるほど?」
「そしていずれ、魔窟が魔物を生み出すペースを魔窟が広がる速さが上回るんだ。そうなったとき、どうなるか分かるか?」
「いえ……」
「魔窟の外に魔物が溢れ出てくるようになるんだ。その状態を放置し続けると大量の魔物が地上に溢れかえり、やがて近隣の町や村を飲み込んでいく」
「魔物が……町を……」
「ああ。それを魔窟の暴走と呼ぶ。そうなれば結界を持たない町は、たとえ聖女様を戴いていたとしても守り切れない」
「……」
「アニエシアに残っている記録だと、これが最後に起きたのは今から二十七年前の春、ここから北東にある山脈の奥で起きたそうだ」
「……そのときはどうなったんですか?」
「記録にあるだけで村が十三、町が五、そして国が一つ滅んだそうだ。もちろん生存者はゼロだ」
「な、なるほど……。だから魔窟をなんとかしようとしているんですね」
「ああ、それもある。ずっと放置するとアニエシアはいずれ全滅してしまうからな。だが、アニエシアが魔窟を攻略しようとしている理由はそれだけじゃない」
「どういうことですか?」
「魔窟のコアを手に入れるためだ」
「コア?」
「ああ。魔窟の最深部にあり、魔窟の心臓とも言うべきものだ」
「それって危険なんじゃないんですか? どうして壊さないんですか?」
「壊さないんじゃなくて、壊せないんだ」
「ええと? それじゃあどうするんですか?」
「聖女様が、魔窟のコアを浄化なさるんだ。そうすると魔窟は活動を止め、コアは聖杯へと変化する」
「聖杯?」
「ああ、そうだ。聖杯があれば聖女様は町を守る結界を張れるようになる。そうすればアニエシアは魔物の脅威に怯えなくても済むようになるんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね」
「ああ。だから俺たちの任務は魔窟内にいる魔物を徹底的に駆除し、聖女様が魔窟のコアまで行かれるときの道の安全を確保することだ」
「わかりました」
すると隊長は満足げな表情で頷いた。
「ようし。じゃあ、説明を続けるぞ。前回魔窟にアタックしたのは半年前だ。建国百周年に合わせようとしたが、失敗した。これが魔窟のマップだが……」
それから隊長は前回の探索で得た情報を事細かに教えてくれた。
どうやら魔窟が想定以上に深かったため、物資不足に陥って三か月で攻略を断念し、撤退したらしい。
「食料と水ですか……」
「ああ。特に問題なのは、魔窟の魔物は食料にならないということだな」
「え? どういうことですか?」
そもそも魔物って食べられるの?
「魔窟の魔物はな。死ぬとなぜか跡形もなく消えるんだ。そうじゃなきゃ、食料で困ることはない」
な、なるほど。どうやら食べられるらしい。言われてみればたしかに牛とか豚の魔物だったら食べられそうな気はする。
だが、俺がいれば食料については問題ない。
「あの……」
「どうした?」
「いや、その、俺、魔法で食材を出して、料理を作れるんですけど……」
「あん? なんだ? それ?」
「ええとですね。実は俺、料理人志望なんです。で、神様がそれを叶えてくれたみたいで、魔法で食料を出せるんです。あ! ただ、ちゃんと料理にしないと持ちだせないんですけど……」
「はぁっ!? お前! 固有魔法持ちだったのか!?」
固有魔法? なんとなく意味は分かるけど……。
「なるほどなぁ。その歳で彼氏になれるなんておかしいと思ってたが、そりゃそうか……」
隊長はがっかりしているような羨ましがっているような、なんとも複雑な目で俺を見てきた。
「あ、その、すみません。別に隠すつもりはなかったんですけど……」
「いや、いいぞ」
そう言うと隊長は自分の頬をピシャリと叩いた。
「で、その力でどのくらいの飯が作れるんだ?」
「うーん? どうでしょう? 限界まで試したことがないんで分からないんですけど、サンドイッチならたぶん百食くらいは余裕で作れると思います。あ、そうだ! あと、飲み物も水は無理ですけどお茶とかジュースとか、一回調理の手間を挟まむやつなら作れますよ」
「ショータ!」
隊長は突然俺の肩を掴んできた。
「お前が今回の攻略の鍵だ。お前は戦わなくていいから荷物持ちと料理番をやってくれ! 頼む!」
「え? あ、はい」
今までの努力はなんだったんだという気もするが、危険な最前線で戦うよりもそっちのほうが安全だろう。
俺だって陽菜を残して死にたくはない。ちゃんと一緒に日本に帰るんだ。
「わかりました。任せてください。俺としてもそっちのほうが助かりますし」
「ああ! 頼んだぞ」
================
次回更新は通常どおり、2024/03/01 (金) 18:00 を予定しております。
「さて、ショータ。今日は魔法の訓練は無しで、俺たちが攻略する魔窟について話そう。知っていることも多いだろうが、まずはどこまで知っているのか認識を合わせよう」
「はい。じゃあさっそく質問、いいですか?」
「いいぞ」
「そもそも、魔窟ってなんですか? イメージとしては魔物がいっぱいいる場所って感じなんですけど……」
「まあ、ちょっと浅いが一般人ならそのくらいの認識だろうな。お前のいた国に魔窟はなかったのか?」
「はい」
「そうか。それは良かったな」
「ええと……」
「ああ、すまない。まず魔物の話をするか。魔窟というのはな。その魔物が無限に湧き出る場所だ」
「え? 無限ですか?」
「ああ。魔窟は生きていて、常に成長するんだ。成長すればするほど魔窟はより深く、より複雑になって、強力な魔物を多く生み出すようになる」
「な、なるほど?」
「そしていずれ、魔窟が魔物を生み出すペースを魔窟が広がる速さが上回るんだ。そうなったとき、どうなるか分かるか?」
「いえ……」
「魔窟の外に魔物が溢れ出てくるようになるんだ。その状態を放置し続けると大量の魔物が地上に溢れかえり、やがて近隣の町や村を飲み込んでいく」
「魔物が……町を……」
「ああ。それを魔窟の暴走と呼ぶ。そうなれば結界を持たない町は、たとえ聖女様を戴いていたとしても守り切れない」
「……」
「アニエシアに残っている記録だと、これが最後に起きたのは今から二十七年前の春、ここから北東にある山脈の奥で起きたそうだ」
「……そのときはどうなったんですか?」
「記録にあるだけで村が十三、町が五、そして国が一つ滅んだそうだ。もちろん生存者はゼロだ」
「な、なるほど……。だから魔窟をなんとかしようとしているんですね」
「ああ、それもある。ずっと放置するとアニエシアはいずれ全滅してしまうからな。だが、アニエシアが魔窟を攻略しようとしている理由はそれだけじゃない」
「どういうことですか?」
「魔窟のコアを手に入れるためだ」
「コア?」
「ああ。魔窟の最深部にあり、魔窟の心臓とも言うべきものだ」
「それって危険なんじゃないんですか? どうして壊さないんですか?」
「壊さないんじゃなくて、壊せないんだ」
「ええと? それじゃあどうするんですか?」
「聖女様が、魔窟のコアを浄化なさるんだ。そうすると魔窟は活動を止め、コアは聖杯へと変化する」
「聖杯?」
「ああ、そうだ。聖杯があれば聖女様は町を守る結界を張れるようになる。そうすればアニエシアは魔物の脅威に怯えなくても済むようになるんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね」
「ああ。だから俺たちの任務は魔窟内にいる魔物を徹底的に駆除し、聖女様が魔窟のコアまで行かれるときの道の安全を確保することだ」
「わかりました」
すると隊長は満足げな表情で頷いた。
「ようし。じゃあ、説明を続けるぞ。前回魔窟にアタックしたのは半年前だ。建国百周年に合わせようとしたが、失敗した。これが魔窟のマップだが……」
それから隊長は前回の探索で得た情報を事細かに教えてくれた。
どうやら魔窟が想定以上に深かったため、物資不足に陥って三か月で攻略を断念し、撤退したらしい。
「食料と水ですか……」
「ああ。特に問題なのは、魔窟の魔物は食料にならないということだな」
「え? どういうことですか?」
そもそも魔物って食べられるの?
「魔窟の魔物はな。死ぬとなぜか跡形もなく消えるんだ。そうじゃなきゃ、食料で困ることはない」
な、なるほど。どうやら食べられるらしい。言われてみればたしかに牛とか豚の魔物だったら食べられそうな気はする。
だが、俺がいれば食料については問題ない。
「あの……」
「どうした?」
「いや、その、俺、魔法で食材を出して、料理を作れるんですけど……」
「あん? なんだ? それ?」
「ええとですね。実は俺、料理人志望なんです。で、神様がそれを叶えてくれたみたいで、魔法で食料を出せるんです。あ! ただ、ちゃんと料理にしないと持ちだせないんですけど……」
「はぁっ!? お前! 固有魔法持ちだったのか!?」
固有魔法? なんとなく意味は分かるけど……。
「なるほどなぁ。その歳で彼氏になれるなんておかしいと思ってたが、そりゃそうか……」
隊長はがっかりしているような羨ましがっているような、なんとも複雑な目で俺を見てきた。
「あ、その、すみません。別に隠すつもりはなかったんですけど……」
「いや、いいぞ」
そう言うと隊長は自分の頬をピシャリと叩いた。
「で、その力でどのくらいの飯が作れるんだ?」
「うーん? どうでしょう? 限界まで試したことがないんで分からないんですけど、サンドイッチならたぶん百食くらいは余裕で作れると思います。あ、そうだ! あと、飲み物も水は無理ですけどお茶とかジュースとか、一回調理の手間を挟まむやつなら作れますよ」
「ショータ!」
隊長は突然俺の肩を掴んできた。
「お前が今回の攻略の鍵だ。お前は戦わなくていいから荷物持ちと料理番をやってくれ! 頼む!」
「え? あ、はい」
今までの努力はなんだったんだという気もするが、危険な最前線で戦うよりもそっちのほうが安全だろう。
俺だって陽菜を残して死にたくはない。ちゃんと一緒に日本に帰るんだ。
「わかりました。任せてください。俺としてもそっちのほうが助かりますし」
「ああ! 頼んだぞ」
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