魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第7話 終わらない襲撃

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 かれこれ一時間以上経っているのだが、ゾンビが堀に落ちていくペースは全く落ちない。

 今のところ良く燃えているので衛兵さんたちも魔法を撃っているわけではないが、これはあまりにも不気味だ。

 一体どこにこれほどの動物の死体があったというのだろうか?

「ねえ、絶対あんなにたくさんいるのおかしいよね?」

 アネットは不安そうな面持ちで私にそう尋ねてきた。

「うん、そう思う。やっぱり変だよね」
「大丈夫かな?」
「……ザックスさんたちが堀、作るの頑張ってくれたし」
「堀が埋まるなんてこと、無いよね」
「うん。そうだよ。埋まるわけないもん。きっと大丈夫」

 そうは答えたものの、私だって不安だ。あんな数のゾンビなんて見たことがない。

 これはどう考えても異常事態で、何が起きているのかなんてきっと誰にも分からない。

「おーい! 街壁に上がっているみんな! 衛兵以外はちょっと街壁から降りてくれるかい?」

 衛兵さんが街壁の上で見物している町の人たちに降りるよう促してきた。

「ああ、ホリーちゃんとアネットちゃん。二人も降りてくれるかい? ちょっと予想以上の長丁場になりそうだからさ」
「あの、大丈夫ですよね?」

 アネットが衛兵さんに不安げな様子で尋ねる。

「ああ、任せておきなって。みんなのことを守るのが僕たち衛兵の仕事だからね」
「はい!」

 アネットはその一言を聞いてぱっと表情を明るくした。

「じゃあ、私はお店に戻って差し入れを作ってきますね! ホリーも行こう?」
「うん」
「あ! ホリーちゃんは無理しないでくれよ? 奇跡はまだ使っちゃダメだからね?」
「はい。もう大丈夫ですけど、でもちゃんと温存しておきます」
「……あんまりわかってなさそうだけど、しっかり休むんだよ!」
「はい」

 こうして私たちは街壁から降り、アネットの食堂へと向かうのだった。

◆◇◆

 やがてホワイトホルンは日没を迎えた。お店の戸締りを確認した私は、暗くなり始めている町をアネットのお店へ向かって歩いている。

 今日は非常事態だからとアネットが気を遣ってくれて、泊めてもらえることになったのだ。

街壁からは大分距離があるというのに、ゾンビたちの「あ゛ー」という唸り声の合唱がここまで聞こえてくる。

 だがゾンビたちが堀を越えてきたという噂は聞こえてこないので、きっと今のところはきちんと食い止められているのだろう。

「ホリー!」
「あ、ニール兄さん」

 街壁の上からゾンビを燃やしていたはずのニール兄さんが私を見つけて声をかけてきた。

「ゾンビたちは?」
「今のところは大丈夫だ。それより、こんな時間にどうしたの?」
「アネットが泊りにおいでって言ってくれたの」
「そっか。じゃあハワーズ・ダイナーまで送るよ」
「え、でもお仕事は? それにすぐ近くだから大丈夫だよ?」
「それでもさ。こんなときだからね。それに仕事は交代で休憩をとることになってるんだ。今は休憩時間で家に帰って仮眠するつもり。それならちょうど方向も一緒だろ?」
「そっか。うん。じゃあお願いね」
「ああ」

 こうして私はニール兄さんと連れだってアネットのお店へと歩きだす。

 といっても私たちは全員ご近所さんなので、私のお店とアネットの食堂の距離は百メートルもない。

「アネット、来たよ」
「ホリー! あれ? ニールも? どうしたの?」
「休憩に戻ってきたらホリーに会ってさ。ついでだからここまで送ってきたんだ」
「そっか。それでゾンビはどうなってるの?」
「今のところ問題ないよ。ザックスさんたちが作ってくれた堀のおかげでやることほとんどないし。たまに火が消えるから、そこに火球を撃ち込むくらいしかやることないな」
「そっか……。あんなに深く掘ってくれたもんね」
「そうだよ。まだあと丸一日くらい今のペースでゾンビが来たってあの深さなら埋まらないはずだな」
「うん……そうだよね。あんなに深いんだもん。森にそんなにたくさん死体があるわけないよね?」
「そうだよ。大丈夫だから」

 ニール兄さんは不安がるアネットを安心させようと優しく声をかけている。

「じゃあ、もう帰って寝るよ」
「あ、待って! 食事は?」
「食べた。それより早く寝て体力を回復させたいから」
「そっか。ニール、頑張ってね」
「ああ、任せておけって」

 ニール兄さんはそう言って優しい笑顔を浮かべた。

「ニール兄さん、気をつけてね」
「ああ、もちろん。心配ないさ。ちゃんと俺たちがゾンビどもを退治するから」

 ニール兄さんはそう言うと、きびすを返してアネットの食堂から出ていった。

 ニール兄さんは私たちを不安にさせないようにああ言っているが、どこまでが本当の話なのかはわからない。

 衛兵以外を街壁の上から追い出したのだって、きっとパニックを避けるためだと思う。

 だってあのペースでゾンビを燃やしていたのなら、もうすでに山に住んでいる動物が全てゾンビになったとしても余りあるほどのゾンビが退治されているはずだ。

 だから普通ではない何かが原因で、あれほどのゾンビがこの町に押し寄せてきているのだ。生憎あいにくその理由はさっぱり見当がつかないが、異常事態であることだけは間違いない。

 安心できる材料とすれば、ニール兄さんの口ぶりから察するに堀はまだ半分も埋まっていないということだろう。

 とはいえ、このままゾンビが二日三日と押し寄せ続けたらどうなるのだろうか?

 こうして私たちはゾンビの呻き声の大合唱と腐肉の焼ける不快な臭いに包まれながら、不安な夜を過ごすのだった。
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