魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
30 / 182

第30話 年越し

しおりを挟む
 ついに大晦日がやってきた。おじいちゃんが逝ってしまい、ゾンビの大群に襲われ、今年一年は本当に色々なことがあった。

 そんな激動の一年も今日で終わり、明日からはまた新しい年が始まる。

 今年は例年よりも雪が降り始めるのが早く、しかも積雪だって多い。おかげで街の外には五メートル以上も雪が積もっており、ホワイトホルンは完全に雪に閉ざされている。

 そして吹雪の日も多かったのでアンディさんが五回、ボビーさんが三回、ポールさんが二回、そしてサンドラさんはなんと七回も酔っぱらって外で寝て風邪をひいた。

 その度に解熱剤や喉と鼻のお薬、咳止めなど症状に応じて処方したわけなのだが、毎年同じことをしているというのにどうしてあの全裸四人組は学習してくれないのだろうか。

 とはいえ、今日はその心配は全くない。

 なんと今日は気持ちがいいほどの快晴なのだ。だからきっと今晩は女神のヴェールが見られるはずだ。

 女神のヴェールというのは、夜空に様々な色の淡い光のカーテンが現れる冬特有の現象だ。

 なんでも大気中に漂う魔力が地面を覆う雪に反射されて空に上がり、とても高いところで別の種類の魔力(?)とぶつかることで起きている現象なのだという。

 そして女神のヴェールは雲より高いところに現れるため、曇っていると見ることはできない。

 だから今日のような冬の快晴の日にしか見ることができないのだ。

 そんな年越しの日を私はアネットとハワーズ・ダイナーで過ごすつもりだ。お店は一昨日で年内の営業を終え、家の大掃除も昨日のうちに済ませてある。

 だから今日一日は目いっぱい羽を伸ばすことができるのだ。

 ちなみにハワーズ・ダイナーも昨日で年内の営業を終えているので、今日は全裸四人組のお世話をする必要はない……はずだ。

 私はアネットとニール兄さんの二人を誘って女神のヴェールを見物するため、昼下がりのハワーズ・ダイナーにやってきた。

「あら、ホリーちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔します」

 すっかり片付いている店内に入ると、シンディーさんが迎えてくれた。

「アネットー! ホリーちゃんが来たわよー!」
「はーい。ちょっと待っててー!」

 お店の奥からアネットの声が聞こえてきた。

「ごめんね、ホリーちゃん。ちょっと待っててくれる?」
「はい、大丈夫ですよ。このあとニール兄さんも待たないといけないですから」
「ああ、ニールねぇ。ちゃんと来るかしらねぇ? 昨日は衛兵の皆さんとずいぶん遅くまで飲んでいて、その、大変だったから……」
「あ、そうなんですね」

 そういえばニール兄さんがお酒に弱いという話は聞いたことがないけれど、実際はどうなんだろう?

 そんなことを考えつつもシンディーさんとおしゃべりをしていると、お店の奥からアネットがやってきた。

「ごめーん、遅くなっちゃった。あれ? ニールは?」
「まだ来ていないみたいです」
「ほら、アネット。ニールは昨日……」
「あ……」
「ねえ、アネット、何かあったの? 昨日遅くまで飲んでいたっていう話はさっき聞いたけど……」
「ああ、あのね……。昨日は衛兵の人たちが今年最後の飲み会だってうちに飲みに来てたの。それで、その費用は町長が払ってくれるらしくて、その……」
「え? どういうこと? 払ってもらえるなら良かったんじゃないの?」
「うちとしてはそうなんだけど、でも、ほら。衛兵の人たちって、ものすごく強いじゃない。それでニールも張り合っちゃって……」
「飲みすぎて酔いつぶれたの?」
「あ、そうじゃなくて……あ、でもそうかも?」
「???」
「アネット、どうせバレるんだから……」
「そっか。そうだよね」
「???」
「ホリー、ショックを受けないでほしいんだけど……」
「なあに? もったいつけないでよ」
「あのね。ニール、号泣したうえに全裸になって外に走って出ちゃったの」
「えっ!?」

 私は思わず固まってしまった。

 まさか全裸四人組の仲間入りしたってこと!?

 いつも優しくて私のことを気にかけてくれるあのニール兄さんが!?

 そんな……!

「ねえ、ホリー? 大丈夫? ホリー?」
「え? あ、うん。大丈夫。あれ? えっと?」

 何とか返事をするが、頭が真っ白になって上手く考えがまとまらない。

「ホリー? ニールのところ、行ってみる? お見舞いになるかもしれないけど」
「お見舞い? あ! うん。そうだね。行く!」

 こうして私たちはニールの家に向かうこととなったのだった。

◆◇◆

「あらあらあら! アネットちゃん、ホリーちゃん、よく来てくれたわねぇ」

 ハワーズ・ダイナーからすぐの場所にあるニールの家に行くと、ニールのお母さんであるスーザンさんが出迎えてくれた。

「申し訳ないけど、うちのバカ息子は今風邪ひいてるからね。うつしちゃまずいし、また今度にしてくれるかい?」
「……やっぱり風邪ひいちゃったんですね」
「そうだよぉ。隊長さんにも迷惑をかけたみたいでねぇ隊長ったら昨晩遅くにバカ息子をうちまで担いで運んでくれたんだよ。どういうわけか体がものすごく冷えていてさ。案の定、朝起きたら熱出しててね。ホントに……」
「……」

 どうやらニール兄さんが全裸になって外で凍えたというのは間違いないようだ。

 私の中のニール兄さん像がガラガラと音を立てて崩れていく。

「ああ、そうだ。ホリーちゃん、前に貰った熱さましを飲ませたほうがいいのかい?」
「熱が高くて苦しそうなら飲ませてあげてください。他にどういう症状がありますか?」
「あとは鼻水が出ているみたいだね」
「それでしたら、こっちの薬を朝晩にスプーン一杯分ずつ飲ませてあげてください。とりあえず三日分お出ししますね」

 私は携帯しているお薬バッグから去痰剤を取り出すと、スプーン六杯分を小瓶に入れて手渡した。

「あとは暖かくして栄養を取って、良く寝てください」
「ありがとう、ホリーちゃん」
「はい。お大事に」

 こうして私たちはニールの家を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

処理中です...