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第44話 ニコラ
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「おやぁ? エル坊がどうして人族の可愛い女の子と一緒におるんや?」
そう言って私たちに気付いたニコラさんがずかずかとテーブルの前までやってきた。ぼさぼさの髪の毛と丸眼鏡にヨレヨレの白衣という出で立ちで、お化粧は全くしていない。それどころか緑色の得体の知れない汚れが頬にべったりとついている。
「やあやあ、アタシはニコラや。お嬢ちゃんは?」
「ホリーと言います。ホワイトホルンから来ました」
「ホワイトホルン? ああ、エル坊が言っていた件やな。アンタ、奇跡とかいうのを使えるんやろ? なあ、見せてもらえへんか?」
「え? 今ですか?」
「もちろん! 奇跡は魔法なんか? それとも別のなんか? ああ、ワクワクするで」
「ニコラ、今は食事中なんですから後にしてください」
「ん? エル坊がそれを言うんか? いつも研究しながら食べとるくせに」
「なっ! それはっ!」
エルドレッド様が顔を真っ赤にして絶句している。
「なぁ、ホリーちゃん。エル坊は外面だけはいいけど中身はただの魔道具オタクやからな。騙されちゃあかんで」
「え? そうなんですか?」
「せやせや。三度のメシよりも魔道具、それがエル坊や。ホワイトホルンに行ったのだって、珍しい魔道具があるって聞いてその足ですっ飛んでいったんや。アタシが先に聞いてればアタシが行ったんやけどなぁ。そしたら奇跡っちゅうんが見れたんやろ? ああ、失敗しわたぁ」
そういってニコラさんは心底悔しそうな表情を見せる。
「なっ? ニコラ、あなたが研究室から一週間出てこなかっただけじゃないですか」
「なんや。あないに面白そうな話があるんやったら教えるんが人情ってもんやないか? それを独り占めするなんて、人でなしやで?」
「そうしたらあなたは研究を放り出すでしょうが。たまたま予定が空いていたのが私だっただけです」
よく分からないが、どうやら二人は仲がいいようだ。
「せや! せっかく来たんだからうちの研究室に来いや。アタシも奇跡を研究したいねん」
「え? あ、はい。いいですよ」
「ホンマか? やりぃ!」
ニコラさんはまるで子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びしている。
「ホリーさん、ニコラの言うことは無視してください。一つでも頼みを聞けばあれもこれもとなって帰れなくなりますよ」
「えっ? それはちょっと……」
「エル坊! 余計なことは言うもんやない。それにアタシだって実け……協力者はちゃんと家には帰しとるで」
「用が済んだらでしょう? 昔ニコラに騙された男は十か月研究室に閉じ込められていたじゃないですか」
「ん? ああ、そないなこともあったなぁ。懐かしい。でも、あれはあいつが自分から協力してたんやで?」
それを聞いてエルドレッド様は深いため息をついた。
「とにかく、ダメです。そもそもホリーさんは私の研究に協力してもらうという約束でお呼びしたんです。私の研究の協力者を横取りしないでください」
「ええやんええやん」
「ダメです」
「ほなら、アタシがエル坊の研究室に行くで!」
「それもダメです。あなたが来たら収拾がつかなくなります」
「ケチ!」
「ケチじゃありません。ニコラはもっと常識というものをですね」
「常識なんて研究の邪魔でしかあらへん。研究は常識を捨てるとこから始めるんやで」
「何を子供みたいなことを言っているんですか! いい年してるんですから、礼儀の一つくらい覚えてください!」
「礼儀なんぞ、研究してもなんもおもろないねん」
「なっ! ニコラ、あなたはいつだってああ言えばこう言う……」
エルドレッド様がまるで子供のように言い合っている。
完璧な王子様だと思っていたエルドレッド様にもこんな一面もあったというのがとても意外だ。ニール兄さんも食べる手を止め、呆然と二人のやり取りを見つめている。
「せやかて、ホリーちゃん。明日からよろしゅうな」
「ちょっと! ニコラ、私はいいだなんて言っていませんよ!」
「ええやん。減るもんやないんやし」
「あなたが関わると減ります」
「大丈夫大丈夫。そんないなことないねんから。多分な」
「多分ってなんですか! ホリーさんはお忙しいんですよ!」
そんなあたしたちをよそに子供のような言い争いが延々と続いています。
「あの、エルドレッド様。大丈夫ですから。ニコラさん、私はホワイトホルンで薬屋をしているので雪解けまでには帰らないといけないんです。それまででよければ……」
「なっ!? ホリーさん?」
「おお、おおきに! あー、めっちゃ楽しみやわぁ」
「ニコラ! 私が先約ですよ!」
「えー? ホリーちゃん、同じ女のアタシと一緒に研究したいやろ?」
「え?」
「ニコラ!」
「ホリーちゃん、さっきも言うたけどエル坊は魔道具オタクやねん。外面に騙されちゃあかんで?」
「ニコラ! あなたという人は……!」
ニコラさんの話になるとエルドレッド様がずっとバツの悪そうな表情をしていたのはこのせいだったようだ。
「あの、ニコラさん、すみません。エルドレッド様と先にお約束していましたから」
「ん? さよか。ほな、明後日はウチに来てもらうで」
「わかりました」
そのやり取りにエルドレッド様が深くため息をつきましたが、ニコラさんはどこ吹く風で今度はニール兄さんのところに行きました。
「なあ、兄ちゃん。その左腕は義手やな? エル坊の試作品かいな?」
「えっ? あ、その……」
ニコラさんはもう私からエルドレッド様の作ってくれた魔動義手に興味が移ったらしい。そのまま食事もとらずに根ほり葉ほり質問を繰り返し、私たちが解放されるまでに二時間ほどを要したのだった。
そう言って私たちに気付いたニコラさんがずかずかとテーブルの前までやってきた。ぼさぼさの髪の毛と丸眼鏡にヨレヨレの白衣という出で立ちで、お化粧は全くしていない。それどころか緑色の得体の知れない汚れが頬にべったりとついている。
「やあやあ、アタシはニコラや。お嬢ちゃんは?」
「ホリーと言います。ホワイトホルンから来ました」
「ホワイトホルン? ああ、エル坊が言っていた件やな。アンタ、奇跡とかいうのを使えるんやろ? なあ、見せてもらえへんか?」
「え? 今ですか?」
「もちろん! 奇跡は魔法なんか? それとも別のなんか? ああ、ワクワクするで」
「ニコラ、今は食事中なんですから後にしてください」
「ん? エル坊がそれを言うんか? いつも研究しながら食べとるくせに」
「なっ! それはっ!」
エルドレッド様が顔を真っ赤にして絶句している。
「なぁ、ホリーちゃん。エル坊は外面だけはいいけど中身はただの魔道具オタクやからな。騙されちゃあかんで」
「え? そうなんですか?」
「せやせや。三度のメシよりも魔道具、それがエル坊や。ホワイトホルンに行ったのだって、珍しい魔道具があるって聞いてその足ですっ飛んでいったんや。アタシが先に聞いてればアタシが行ったんやけどなぁ。そしたら奇跡っちゅうんが見れたんやろ? ああ、失敗しわたぁ」
そういってニコラさんは心底悔しそうな表情を見せる。
「なっ? ニコラ、あなたが研究室から一週間出てこなかっただけじゃないですか」
「なんや。あないに面白そうな話があるんやったら教えるんが人情ってもんやないか? それを独り占めするなんて、人でなしやで?」
「そうしたらあなたは研究を放り出すでしょうが。たまたま予定が空いていたのが私だっただけです」
よく分からないが、どうやら二人は仲がいいようだ。
「せや! せっかく来たんだからうちの研究室に来いや。アタシも奇跡を研究したいねん」
「え? あ、はい。いいですよ」
「ホンマか? やりぃ!」
ニコラさんはまるで子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びしている。
「ホリーさん、ニコラの言うことは無視してください。一つでも頼みを聞けばあれもこれもとなって帰れなくなりますよ」
「えっ? それはちょっと……」
「エル坊! 余計なことは言うもんやない。それにアタシだって実け……協力者はちゃんと家には帰しとるで」
「用が済んだらでしょう? 昔ニコラに騙された男は十か月研究室に閉じ込められていたじゃないですか」
「ん? ああ、そないなこともあったなぁ。懐かしい。でも、あれはあいつが自分から協力してたんやで?」
それを聞いてエルドレッド様は深いため息をついた。
「とにかく、ダメです。そもそもホリーさんは私の研究に協力してもらうという約束でお呼びしたんです。私の研究の協力者を横取りしないでください」
「ええやんええやん」
「ダメです」
「ほなら、アタシがエル坊の研究室に行くで!」
「それもダメです。あなたが来たら収拾がつかなくなります」
「ケチ!」
「ケチじゃありません。ニコラはもっと常識というものをですね」
「常識なんて研究の邪魔でしかあらへん。研究は常識を捨てるとこから始めるんやで」
「何を子供みたいなことを言っているんですか! いい年してるんですから、礼儀の一つくらい覚えてください!」
「礼儀なんぞ、研究してもなんもおもろないねん」
「なっ! ニコラ、あなたはいつだってああ言えばこう言う……」
エルドレッド様がまるで子供のように言い合っている。
完璧な王子様だと思っていたエルドレッド様にもこんな一面もあったというのがとても意外だ。ニール兄さんも食べる手を止め、呆然と二人のやり取りを見つめている。
「せやかて、ホリーちゃん。明日からよろしゅうな」
「ちょっと! ニコラ、私はいいだなんて言っていませんよ!」
「ええやん。減るもんやないんやし」
「あなたが関わると減ります」
「大丈夫大丈夫。そんないなことないねんから。多分な」
「多分ってなんですか! ホリーさんはお忙しいんですよ!」
そんなあたしたちをよそに子供のような言い争いが延々と続いています。
「あの、エルドレッド様。大丈夫ですから。ニコラさん、私はホワイトホルンで薬屋をしているので雪解けまでには帰らないといけないんです。それまででよければ……」
「なっ!? ホリーさん?」
「おお、おおきに! あー、めっちゃ楽しみやわぁ」
「ニコラ! 私が先約ですよ!」
「えー? ホリーちゃん、同じ女のアタシと一緒に研究したいやろ?」
「え?」
「ニコラ!」
「ホリーちゃん、さっきも言うたけどエル坊は魔道具オタクやねん。外面に騙されちゃあかんで?」
「ニコラ! あなたという人は……!」
ニコラさんの話になるとエルドレッド様がずっとバツの悪そうな表情をしていたのはこのせいだったようだ。
「あの、ニコラさん、すみません。エルドレッド様と先にお約束していましたから」
「ん? さよか。ほな、明後日はウチに来てもらうで」
「わかりました」
そのやり取りにエルドレッド様が深くため息をつきましたが、ニコラさんはどこ吹く風で今度はニール兄さんのところに行きました。
「なあ、兄ちゃん。その左腕は義手やな? エル坊の試作品かいな?」
「えっ? あ、その……」
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