50 / 182
第50話 スピード狂
しおりを挟む
私たちを乗せた魔動車はキエルナの町を出た。そこには見渡す限りの広大な畑が広がっており、その中を真っすぐな一本の道が地平線に向かって伸びている。
「ほな、ちゃんとつかまるんやで」
「え?」
「ニコラ! ダメって言いましたよね?」
「行っくでぇ~」
しかしニコラさんはエルドレッド様の声が聞こえていないのか、そう宣言すると魔動車を急加速させた。がくんと体が後ろに引っ張られる。
「え? え? え?」
「ホリーちゃん、黙っとらんと舌噛むでぇ~」
ニコラさんは楽しそうにそう言っているが、私はもうそれどころではない。
ものすごいスピードで景色が後ろに流れていく。まるで飛んで行っているかのようだ。
あまりの恐怖に、私はとなりに座っているニール兄さんの腕をぎゅっと掴んだ。しかしそれは魔動義手で、ごつごつしたその感触が伝わってくる。
「ホリー、大丈夫だよ」
「うん」
ニール兄さんがそう声をかけてくれるが、ニール兄さんの表情もまた強張っている。
そんなニール兄さんのまだ残っている二の腕に手を移動させると、服越しにニール兄さんの逞しい筋肉の感触が伝わってきた。
するとニール兄さんは私の手に右手をそっと重ねてくれたのだった。
◆◇◆
「いや~、中々爽快やったろ?」
キエルナを出てからしばらくは真っすぐな道だったが、次第に坂道が現れ、ついには九十九折の山道にもなった。しかしニコラさんの運転する魔動車はスピードを落とすことなく、すさまじい速さでそれらの道を駆け抜けた。
当然だが、後ろからついて来ていたはずの貨物魔動車の姿は当然ない。
私はというと腰が抜け、動けなくなってしまった。
「なんや、降りて来んのか? 休憩やで。外の空気を吸って体を伸ばしときや」
「は、はい」
「ホリー、ほら」
「ありがとう。ニール兄さん」
私は自分の命がある幸運に感謝しつつ、ニール兄さんの助けを借りて魔動車から降りた。
「あの峠を超えればボーダーブルクやで」
ニコラさんがそう言って目の前の山々で少し低くなっている部分を指さした。普通に歩いていたらそれなりの時間がかかりそうだが、この魔動車であればきっとすぐに着いてしまうのだろう。
ただ、ニコラさんの運転だということを考えるとどうにも気が重い。
それから持ってきたサンドイッチを食べて小腹を満たすと、再び出発となった。
私たちが先に乗り込んでエルドレッド様とニコラさんが乗り込んでくるのを待っていると、なんと二人が言い争いを始めた。
「ニコラ、今度は私が運転しますよ!」
「え? 何言うとるんや? こっから先も運転のし甲斐があるええ道なんやで?」
「そうではなくて! あんなスピードで突っ込んだら最悪、ゾンビの群れに突っ込むかもしれないじゃないですか!」
「大丈夫やって。この子は熊に殴られても大丈夫なように作ってあるんや。ちょっとやそっと囲まれたところで問題あらへん」
「ですが!」
ホワイトホルンのときのようなゾンビの群れが襲ってきているのであれば、たしかにこれはエルドレッド様のいうとおりだ。
私もエルドレッド様に加勢しようと思ったのだが、ニール兄さんのほうが早かった。
「ニコラさん、すみません」
「ん?」
「もしホワイトホルンと同じような状態であれば、いくら魔動車でも突っ込むのは不可能です」
「どういうことや?」
「ホワイトホルンでは、燃やしたゾンビの灰で五メートルはあろうかという街壁が埋まりました」
「は?」
「最悪の事態を想定するなら、ここから先は慎重に行ったほうがいいと思います」
「……」
真剣な面持ちでそう訴えるニール兄さんにニコラさんもまた神妙な面持ちとなった。
「せやな。わかったで。そういうことなら、なおさらアタシが運転するわ。エル坊の腕じゃスピード出して逃げられへん」
「ちょっと!」
「エル坊、決めたことや。ニール君の言うとるんが正しいなら、そうするべきや。ええな?」
「く……」
エルドレッド様は悔しそうにそう呟き、俯いてしまった。
「そう悔しがらんでええで。町ん中入ったら運転変わってやるさかい」
「……運転したいわけではありませんが、わかりました。くれぐれも! 逃げる時以外は三十キロまでですよ!」
「ん? ああ、せやなぁ。考えとくわ」
ニコラさんは飄々とした様子でそう言うと、素早く乗り込んで運転席に座った。
「出発やで?」
するとエルドレッド様が渋々乗り込んできた。
「とりあえず、攻撃は任せるで。ホリーちゃんの奇跡は遠くに撃てるんか?」
「いえ、近づかないとダメです」
「なら燃やすんが先決やな。エル坊、頼むで」
「分かっています」
こうして私たちは休憩を終え、ボーダーブルクへの道を再び進むのだった。
「ほな、ちゃんとつかまるんやで」
「え?」
「ニコラ! ダメって言いましたよね?」
「行っくでぇ~」
しかしニコラさんはエルドレッド様の声が聞こえていないのか、そう宣言すると魔動車を急加速させた。がくんと体が後ろに引っ張られる。
「え? え? え?」
「ホリーちゃん、黙っとらんと舌噛むでぇ~」
ニコラさんは楽しそうにそう言っているが、私はもうそれどころではない。
ものすごいスピードで景色が後ろに流れていく。まるで飛んで行っているかのようだ。
あまりの恐怖に、私はとなりに座っているニール兄さんの腕をぎゅっと掴んだ。しかしそれは魔動義手で、ごつごつしたその感触が伝わってくる。
「ホリー、大丈夫だよ」
「うん」
ニール兄さんがそう声をかけてくれるが、ニール兄さんの表情もまた強張っている。
そんなニール兄さんのまだ残っている二の腕に手を移動させると、服越しにニール兄さんの逞しい筋肉の感触が伝わってきた。
するとニール兄さんは私の手に右手をそっと重ねてくれたのだった。
◆◇◆
「いや~、中々爽快やったろ?」
キエルナを出てからしばらくは真っすぐな道だったが、次第に坂道が現れ、ついには九十九折の山道にもなった。しかしニコラさんの運転する魔動車はスピードを落とすことなく、すさまじい速さでそれらの道を駆け抜けた。
当然だが、後ろからついて来ていたはずの貨物魔動車の姿は当然ない。
私はというと腰が抜け、動けなくなってしまった。
「なんや、降りて来んのか? 休憩やで。外の空気を吸って体を伸ばしときや」
「は、はい」
「ホリー、ほら」
「ありがとう。ニール兄さん」
私は自分の命がある幸運に感謝しつつ、ニール兄さんの助けを借りて魔動車から降りた。
「あの峠を超えればボーダーブルクやで」
ニコラさんがそう言って目の前の山々で少し低くなっている部分を指さした。普通に歩いていたらそれなりの時間がかかりそうだが、この魔動車であればきっとすぐに着いてしまうのだろう。
ただ、ニコラさんの運転だということを考えるとどうにも気が重い。
それから持ってきたサンドイッチを食べて小腹を満たすと、再び出発となった。
私たちが先に乗り込んでエルドレッド様とニコラさんが乗り込んでくるのを待っていると、なんと二人が言い争いを始めた。
「ニコラ、今度は私が運転しますよ!」
「え? 何言うとるんや? こっから先も運転のし甲斐があるええ道なんやで?」
「そうではなくて! あんなスピードで突っ込んだら最悪、ゾンビの群れに突っ込むかもしれないじゃないですか!」
「大丈夫やって。この子は熊に殴られても大丈夫なように作ってあるんや。ちょっとやそっと囲まれたところで問題あらへん」
「ですが!」
ホワイトホルンのときのようなゾンビの群れが襲ってきているのであれば、たしかにこれはエルドレッド様のいうとおりだ。
私もエルドレッド様に加勢しようと思ったのだが、ニール兄さんのほうが早かった。
「ニコラさん、すみません」
「ん?」
「もしホワイトホルンと同じような状態であれば、いくら魔動車でも突っ込むのは不可能です」
「どういうことや?」
「ホワイトホルンでは、燃やしたゾンビの灰で五メートルはあろうかという街壁が埋まりました」
「は?」
「最悪の事態を想定するなら、ここから先は慎重に行ったほうがいいと思います」
「……」
真剣な面持ちでそう訴えるニール兄さんにニコラさんもまた神妙な面持ちとなった。
「せやな。わかったで。そういうことなら、なおさらアタシが運転するわ。エル坊の腕じゃスピード出して逃げられへん」
「ちょっと!」
「エル坊、決めたことや。ニール君の言うとるんが正しいなら、そうするべきや。ええな?」
「く……」
エルドレッド様は悔しそうにそう呟き、俯いてしまった。
「そう悔しがらんでええで。町ん中入ったら運転変わってやるさかい」
「……運転したいわけではありませんが、わかりました。くれぐれも! 逃げる時以外は三十キロまでですよ!」
「ん? ああ、せやなぁ。考えとくわ」
ニコラさんは飄々とした様子でそう言うと、素早く乗り込んで運転席に座った。
「出発やで?」
するとエルドレッド様が渋々乗り込んできた。
「とりあえず、攻撃は任せるで。ホリーちゃんの奇跡は遠くに撃てるんか?」
「いえ、近づかないとダメです」
「なら燃やすんが先決やな。エル坊、頼むで」
「分かっています」
こうして私たちは休憩を終え、ボーダーブルクへの道を再び進むのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる