魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

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第52話 仕組まれた災害

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「その宝玉は、どうやらシェウミリエ帝国の連中によって設置されたものらしい」
「なっ!? オリアナ町長! その話は本当ですか!?」

 あまりの驚きからか、エルドレッド様は声を荒らげた。

「ええ、殿下。間違いありません。我々の調査隊がシェウミリエ帝国軍工作部隊の連中がその赤い宝玉を持って国境を越え、侵入してきたのを確認しています」
「なっ! そいつらはどこに?」
「連中は我々に発見された時点で全員自害しました」
「シェウミリエはまた戦争をするつもりなのか? 勝てないことは分かっているだろうに……」

 エルドレッド様は険しい表情でそう答えた。

「はい。ですが、五十年もすればすっかり悲劇を忘れるというのが人族です。今回はおそらく、ゾンビをけしかけることで我々を疲弊させることができると考えたのでしょう」
「……そうですね。たしかに無限に発生し続けるゾンビなんてものがいるのであれば少なくない被害を受けそうですね」
「はい。しかも使われた赤い宝玉は判明しているだけで四つです」
「四つもですか。発見が遅れていたらひとたまりもなかったかもしれませんね」
「はい」
「ですが、私たちは幸運なことにホリーさんにご同行いただいています。彼女の力があれば無効化できます」
「おいおい、アタシが研究する分は残すんやで? シェウミリエのアホにまた同じことされたとき、ホリーちゃんがおらへんからなんもでけへんってわけにはいかんで」
「それはそうですが、ゾンビが出るものを研究するなんて……」

 エルドレッド様がそう言うと、ニコラさんは大きくため息をついた。

「エル坊、あんたはいつまでそんなお堅いことを言うとるんや。そのために隔離施設をわざわざ町の外に作ったんやろうが」
「いや、それは別に――」
「それにな。アタシがなんにも対策してへんと思うとるんか? エル坊、MMマナ・魔力変換回路っちゅうとったやろ? ほならマナの供給を遮断してやればええんや」
「ですがそんなものは……」
「できるんやな。これが。しかも簡単に」

 ニコラさんはドヤ顔で鞄の中から箱を取り出した。箱の上部には、なにやら小さな石が取り付けられている。

「これは……試作品の発光素子?」
「せや。箱の中にこれでもかとMM回路を入れとるんや。せやから、箱ん中のマナは常時ほぼゼロや」
「っ! こんな発想が……」


エルドレッド様とニコラさんが魔道具の話を始めてしまい、私はさっぱりついていけなくなってしまった。そこで私は気になったことをオリアナ町長に質問してみる。

「あの、オリアナ町長」
「敬称はいらん。単にオリアナでいいよ。私は君の上司ではないからな」
「あ、はい。それじゃあ、オリアナさん」
「なんだ?」
「戦争って、そんなに何度もしてるんですか? 」
「ん? ああ、なるほど。ホワイトホルンは山脈のおかげで戦争に巻き込まれることはないからな」
「はい。キエルナの動物園で初めて三百年前に戦争があったって知りました」
「動物園? ああ、シロクログマやシマロバのことだな? あの戦争は魔族がもっとも人族の領域に攻め入った戦争だったからな。私も野生のシマロバをこの目で見たときは驚いたものだ」
「え? オリアナさんがシマロバを捕まえたんですか?」
「いや、私ではないが戦友が動物好きでな。珍しいからと色々捕まえていて、それを連れ帰ってキエルナに動物園を開いたのだ。今ではかなり増えているそうだな」
「はい」
「それで、戦争をどれくらいやっているか、という質問だったな」
「はい」
「戦争の頻度自体はそれほど高くないぞ。だいたい十年に一度くらいで、前回はたしか三十年くらい前だったかな。まあ、戦争といっても人族が領土侵犯してきたのでそれを追い払う程度なので、我々からすれば小競り合いだな。とはいえ、毎回一万を超える兵を送ってきている。人族の連中からすれば戦争だろう」
「え? そんなにですか?」
「ああ。私としては正直いくら追い払っても無駄なのだから、徹底的に叩き潰したほうがいいと思うが……」
「私たち、あまり争いが好きじゃないですからね」
「そうだな」

 オリアナさんはそう言って複雑な表情で笑った。

「ん? ホリーは人族なのだろう?」
「はい。そうですけど、魔族のおじいちゃんが赤ん坊だった私を拾って育ててくれたので私は魔族です」
「ああ、そういうことか。ということはやはり教育の問題なのだろうな」
「教育ですか?」
「ああ。なんでも人族の町では、我々魔族は人族を滅ぼそうと考えている恐ろしい存在だと教えているそうだ」
「え? そんなわけないじゃないですか」
「全くだ。我々はゾンビとは違うのだがな」

 オリアナさんはそう言ってふっと表情を緩めた。

 すると魔道具の話が終わったらしく、ニコラさんが唐突なことを言いだした。

「あ、ホリーちゃん。出発するで?」
「え?」
「町長さんもええな? ちょいとその宝玉、回収しに行くで」
「え? ニコラ博士、今から行くのか?」
「善は急げ、やで。ビルベリー号なら多少の荒れ地もなんのそのや」

 ニカッと笑ったニコラさんの表情に今日の悪夢が蘇る。

「あ、あの、明日にしません? 私、ちょっと疲れちゃいました」
「えー? ほなら一個だけでも回収せぇへんか?」
「そ、それはちょっと……」
「ほら、ホリーさんもお疲れですし。やっぱり今日はやめにしましょう」
「うー、エル坊、さっきはええって言うとったやん」
「やっぱりダメです。休みましょう」
「ちぇー。でも、明日は朝一やで? 日の出に出発やからな?」

 ニコラさんはまるで子供のようにそう確認してくるのだった。
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