魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
57 / 182

第57話 高まる緊張

しおりを挟む
「ホリー、ありがとう。助かった。恩に着る」

 町庁舎に戻った私をオリアナさんがそう労ってくれた。

「私は薬師です。傷ついている人を助けるのは当然のことです」
「だが、我々だけではあれほどまでに素早く治療することはできなかった。どれだけ重症なのかは私も視察したので知っていたし、チャールズからも助からない者がかなり出る見込みだとの報告を受けていたのだ。にもかかわらず、全員無事に退院できたのだ。いくら礼をしても足りないくらいだ」
「……お役に立てて良かったです」

 正直ここまでお礼を言われるとは思わなかった。きっとオリアナさんは町の人たちのことを本当に考えているのだろう。

「ああ。本当に助かった。私も人族の中に奇跡と呼ばれる特別な力を使う女性がおり、彼女たちが聖女と呼ばれて崇められているのは知っていたが……」

 これまでずっと真剣な表情をしていたオリアナさんだったが、突然ふっと表情を緩めた。

「こんな奇跡を見せられたら、私もホリーのことを崇めたくなってしまうな」
「え?」
「魔族の聖女ホリー、なんてどうだ?」

 オリアナさんはまるでいたずらっ子のような笑顔でそう言ってきた。

 その様子が今までとあまりにギャップがありすぎて、ちょっと怖いと感じていた印象が一気に吹っ飛んだ。

「やだ。私が聖女なんて名乗ったら、きっとちゃんと修行した聖女の人たちに怒られちゃいますよ」
「ああ、それもそうか」
「そうですよ」

 私がクスクスと笑うと、オリアナさんも目を細めた。

 なんだ。オリアナさん、やっぱりすごく優しい人じゃないか。

「ああ、そうだ。ホリー」
「なんですか?」
「忙しくて伝えられていなかったが、エルドレッド殿下より伝言だ」
「はい」

 そういえばエルドレッド様とは私が病院で治療を始めた日以来会っていない。

「エルドレッド様はな。実は今回の件を受けてすでにキエルナへとお戻りになられた。エルドレッド様はホリーとニールに『最後まで同行できずに申し訳ない』と仰っていた」
「えっ?」

 まさかもうボーダーブルクにいなかったなんて!

 何も言わずに置いていかれたことはショックだったが、よく考えたら私はずっと病院に通い詰めていたのだ。

「殿下からは、ホリーとニールをキエルナの魔道具研究所まで送るようにと言付かっている。魔動車を出すので、出発する日を教えてほしい」
「わかりました。ありがとうございます」

 こうして私たちはキエルナまで送ってもらえることとなったのだった。

◆◇◆

 キエルナにある魔王城の一室で、エルドレッドは魔王とその側近たちに事の次第を報告していた。

「なるほど、シェウミリエの連中がゾンビを……。それは確かなのか?」

 そう厳しい表情でエルドレッドに質問した男こそがエルドレッドの父親である魔王ライオネルだ。

「はい。状況証拠ではありますが、オリアナ町長が実際にシェウミリエの兵士が魔道具を持ち運んでいる現場を押さえています」
「……」
「それから、こちらの地図をご覧ください」
「これは……」
「魔道具が設置されていた場所に印をつけてあります」
「……見事に道よりもシェウミリエの側だな」
「はい。この領域は人族との衝突を避けるために地元の魔族が滅多に立ち入らないのだそうです」
「……普段はゾンビのあまり発生しないボーダーブルクで起きた魔道具による人為的なゾンビの発生、そしてその魔道具は文献に無く、魔族領のどの研究所でも研究すらされたことがない。そんな魔道具をシェウミリエの連中が持って侵入してきた、と」
「はい」

 居並ぶ側近たちも厳しい表情をしている。

「エルドレッドよ。お前ならどう対応する?」
「……そうですね。状況証拠から考えると黒で間違いなさそうですが、魔道具は山中で拾ったと言い訳をされる可能性があります。我々は専守防衛を貫いて参りましたから、ひとまずはシェウミリエ帝国に対して領土侵犯への抗議までで留めるべきです。幸いなことに、今回のゾンビ事件で魔族に死者は出ていませんし」
「死者が出ていない? ボーダーブルクの薬師が手の施しようがないと匙を投げた者がいるそうだが?」
「いえ、大丈夫なはずです。ホワイトホルンに住む奇跡の使い手の少女を残して参りました」

 その言葉に会議室がざわついた。

「……魔族に奇跡は使えない。難民の中に聖女がいたというのか?」
「いえ、彼女はホワイトホルンで育ったのだそうです。本人はホワイトホルンに帰ることを希望していますので、治療が終わり次第そのようにと手配してあります」
「……そうか」

 魔王は何かを考えるような素振りをしたが、すぐに話題を戻した。

「まあ良い。お前たちはエルドレッドの意見についてどう考える? 宰相、どうだ?」
「そうですな。ゾンビの被害がシェウミリエ帝国の仕業と知られている以上、抗議だけでは終われないでしょう。他の町にも影響が及びますし、抗議だけではなく謝罪と首謀者の引き渡しを求めるべきです」
「ですがそれをすれば……」
「戦争になるでしょうな」
「ならば!」
「エルドレッド殿下、我々はすでに攻撃をされたのです。ゾンビを撒くなど、生きとし生けるものすべての敵です。本来であれば連中に死を与えてやるところですが、幸いなことに死者が出ていないとのこと」
「死者が出ていないのであればなおのこと、平和的に解決する道があるのではないか?」
「だからまずは抗議文を送るのですよ。どのみち、連中はこちらの自作自演だと言ってくるに決まっておりますがね」
「……」
「エルドレッド殿下、お優しいのはあなたの美徳です。ですが、お優しいだけでは同胞を守ることはできないのですよ」

 エルドレッドは悔しそうに唇を噛み、俯いた。

「宰相、もう良い。エルドレッドも宰相も、共に抗議をするという対応では一致している。異論のある者はいるか?」

 魔王の問いかけに誰もが首を横に振った。

「では抗議文を送るとしよう。宰相、文言は任せたぞ」
「ははっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...