魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
157 / 182

第157話 ルーカスの最後

しおりを挟む
 サンプロミトの町は不安に包まれていた。

 ゾンビを操るとされる魔族に隣町のフォディナが落とされ、さらに町の警備に当たっていた聖騎士たちまでもがどこかへ行ってしまった。

 そのうえ大聖堂は現在一般信者の立ち入りが禁止されている。

 そのため、いよいよ魔族がサンプロミトにも攻めてくるのではないかという恐怖に人々はさいなまれているのだ。

 そんな町の裏路地を、音も立てず足早に進むローブ姿の人影があった。

 ルーカスである。

 本来、彼にはこの町の平和を守る責任がある。だが聖騎士たちを殺し、教皇を生贄に捧げてこの赤黒い雲の元凶を召喚した彼にその責任を果たすつもりはないようだ。

 するとそんなルーカスの行く先から赤黒いガスが突如噴出し、その行く手を遮った。

「な……」

 そのガスは徐々に人の形をなし、やがて一人の女性の姿となった。

 膝まである長いウェーブがかった赤黒い髪と赤黒い瞳、所々に血管の浮き出た青い肌、そして胸元には赤い宝玉が禍々しい飾りとともにめり込んでいる。

「ふふふ、あなたよね? 私を呼び出したのは」
「あ……!」

 ルーカスはすぐさま彼女にひざまずいた。

「あらら? 私を呼んでおいていなくなっているからてっきり裏切ったのかと思ったわ」

 くすくすと笑みを浮かべているが、禍々しいその容貌と相まって裏路地にいた数少ない人々は恐怖におののいている。

「あら? やあね。私はそんなに怖い存在じゃないわ。さあ、いらっしゃい」

 彼女がそう言うと、怖がっていたはずの人々がふらふらと彼女のもとへと歩いていく。

「そう。いい子ね。私が解放してあげるわ」

 そう言うと一人の男の唇を奪った。

 すると瞬く間に男の体は干からびていき、そのまま地面に崩れ落ちた。

「んー、イマイチねぇ。さあ、あなたたちも」

 残った人々にもキスをし、彼らはすべて干からびた遺体へと姿を変えた。その様子をルーカスは驚愕した様子で見守っていた。

「何を驚いているのかしら? あなたがこんなものを核に使ったせいで力が足りないの」
「そ、それは……」
「言い訳はいいの。私、力が必要だからあなたのももらうわね」
「邪神様! 私はまだ使命を果たしておりません! 今度こそ赤子のリリヤマール女王を手に入れ、邪神様の肉体として捧げてみせます! そのためにもう一度チャンスを!」
「ああ、いいのよ。もう」
「え?」
「別にね、赤ちゃんじゃなくてもいいのよ。自我さえなければね」
「な……」
「大体、こんな不完全な形で私を呼び出すなんて、あなた私を利用して生き残ろうとしたでしょ?」
「そ! それは使命を果たすため!」
「ダーメ。私、使えない道具は要らないの」
「邪神様! そんなっ!」

 ルーカスは絶望したように目を見開いた。

「だから貸してあげたその力、返してもらうわね」

 邪神は絶望するルーカスの頭を優しく胸に抱き寄せる。それはまるで母親が優しく我が子を胸に抱きしめているかのような光景であった。

 だがすぐにルーカスの体は赤黒いガスへと変化し、邪神はそのガスを躊躇ちゅうちょなく吸い込んだ。

 すると邪神の体を包む赤黒いガスが一気にその濃さを増す。

「ふふふ。いい子ね。さあ、これでちゃんと力が使えるようになったわ」

 邪神はすぐさま自分の体を赤黒いガスへと変え、側溝の中へと消えていったのだった。

◆◇◆

 邪神は大聖堂の地下にある祭壇の前にやってきた。ここはソフィアが自分の命と引き換えに聖域の奇跡を展開した場所である。

 祭壇はほんのわずかに金色のキラキラとした温かな輝きを放っている。

 ソフィアが展開した聖域の奇跡の残り香とでもいうべきだろうか。

 それを見た邪神は妖しい微笑みを浮かべた。

「ふふ。もう随分と使われていなかったみたいね。これからは私がしっかりと有効活用してあげるわ。生者が絶え間なく争い続けるこの世界はもう終わり。これからは亡者だけの世界となり、争いのない永遠の安寧がもたらされるのよ」

 邪神はそう言うと、祭壇に手をかざした。すると温かな輝きはすぐに消え、祭壇全体が赤黒く禍々しい色に染め上げられる。

 やがてそれは祭壇だけではなく部屋全体に広がっていく。

「ふふふ。さあ、解放してあげるわ」

 邪神は何かの魔法を発動した。すると祭壇からは禍々しい光が放たれ、その光は部屋の天井をすり抜けて天を貫く。

 やがて、大聖堂の上空に赤黒く禍々しい雲が出現した。それは少しずつ広がり、空全体を覆っていく。

 町の人々は突然の光と赤黒く禍々しい雲の出現に不安を隠しきれずにいた。

 ある者は我先にと外へ逃げようとし、またある者は家に閉じこもって固く扉を閉ざし、またある者は不安そうな表情を浮かべつつも普段と変わらない日常を送っている。

 そうしていると、禍々しい雲から真っ赤な血のような雨が降り始めた。

 はじめは大聖堂に、そこからゆっくりと雨の降る範囲は円状に広がっていく。

「え?」
「なんだ? こ……あ……」

 赤い雨を浴びた人々はすぐさま苦しみだし、うずくまる。赤い雨は苦しむ彼らを容赦なく襲い、その皮膚がどろりと溶け始める。

 そして……。

「「「「あ゛ー」」」」

 うめき声を上げて立ち上がった人々は皆、ゾンビと化していたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...