ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎

文字の大きさ
117 / 124
第二章

第二章第60話 ディーノとエレナ(前編)

しおりを挟む
 最後の MP ポーションを飲んで回復すると、床に横たわるエレナの隣に腰を下ろした。

 たしかに断魔の聖剣はエレナを斬った。斬ったはずでその時の生々しい感覚もこの手に残っているにもかかわらず、エレナの体には傷一つない。悪魔が作り出したであろうあの黒い服も消えていて、何日か前に別れたあの時の服装に戻っている。

「なあ、フラウ。エレナは大丈夫かな?」
『うん。きっと大丈夫だよ。だって、エレナは悪魔に体を乗っ取られてもずっと、ずっとがんばってくれてたんだよ?』

 それはそうだ。もしあの悪魔がエレナの力を完璧に使いこなしていたら、と考えるとゾッとする。

「でも、俺。エレナを斬ったんだよな……。その時の肉を斬った感覚がさ。まだこの手に残ってて……」
『……ディーノ』
「それに、フリオはデーモンハントで元の姿に戻ったけどさ。まだ意識が戻ってないじゃないか。エレナがもしそんなことになったら……」
『きっと、きっとエレナなら大丈夫だよ。デーモンハントは悪魔の魂を斬るアーツだもの』
「だがフリオは!」
『あいつは、悪魔の誘惑に負けて自分から悪魔の力を受け入れちゃったから……。多分、フリオの魂にもきっと悪魔の力が染みついてたんだと思うの。でも、エレナは違ったでしょ?』

 それは……そうだ。もしもエレナがフリオのように悪魔の誘惑に乗っていたならば、俺では逆立ちをしたって勝てなかっただろう。それに、悪魔の言っていたあの計画が実行されていたらそれこそサバンテの街が滅亡していたかもしれない。

『だからね。最後まで負けずにずっとがんばってくれてたエレナの綺麗な魂を断魔の聖剣が傷つけるはずないよ。ね?』
「あ、ああ。それはそうだけど……」

 理屈ではわかるけれど、やはり心配なものは心配なのだ。

「う……」
「エレナ!?」

 うめき声を上げたエレナがゆっくり目を開けた。

「あ……れ? どう、して……? あたし、悪魔に負けて……それから……あれ?」
「エレナ! エレナなんだな? 大丈夫か?」
「ディー……ノ? あ、やっぱり夢ね……。こんなところに来れるはずないもの……」

 う。まあ、そういう評価をされていることは知っていたが……。

 こうして面と向かって言われるとなんとも複雑な気分だ。

 まあ、それでもいい。きちんとエレナであることが確認できたのだから。

 それに、この様子だと悪魔に体を乗っ取られていたときのことは覚えていなそうだ。

「エレナ。お前を苦しめていた悪魔は俺とフラウで倒した。だからもう安心してくれ。あとはここから脱出するだけだ」

 しかしエレナは何とも胡散臭いものを見るかのような表情で俺を見てくる。

「……もしかして、あんた。あの悪魔が化けてる? そうよね。ディーノが悪魔を倒せるわけないもの。ディーノは弱っちいんだから!」

 エレナはそう言って何とか起き上がろうとしているが、どうやら力が入らないのか上手く起き上がれていない。

『ディーノっ! あたしを召喚してよっ!』
「あ、そうだったな。フラウも話をしたいよな」
「あ……フラウ!」

 召喚されたフラウを見てエレナは一瞬困惑の表情を浮かべ、それからようやく笑顔になった。

「フラウがいるってことはこれ、本物なわけ?」
「そうだよっ! エレナを助けたくて、全財産をなげうってガチャを引いたんだよっ! ディーノの愛だねっ!」
「お、おい! フラウ! そんな話は今!」
「えへへー」

 フラウはてへぺろと言わんばかりに後頭部を掻きながら可愛らしく舌を出した。

 まったく。この天然妖精は。

 一方のエレナはというと顔を真っ赤にしていた。

「な、なあ。エレナ?」
「……あ、うん。えっと、その……ありがと」
「あ、ああ」

 エレナが、感謝の言葉だと!?

 俺が驚愕しているとエレナはさらに言葉を続ける。

「そ、それとね」
「ああ」

 そう言ったきり、エレナは沈黙してしまった。

「……」
「……」
「あのね?」

 その何とも言えない微妙な空気を破ったのはエレナだった。

「何だ?」
「その、今まで、ごめんなさい」
「え?」
「あたし、ディーノのことずっと殴ったりして。ごめんなさい」
「???」

 い、一体何が起こっているんだ?

 突然エレナが謝るなんて!

 しかも、涙まで流している!?

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「あ、いや。エレナ」

 あまりの事態に一瞬フリーズしてしまったが、この間とは違ってどうやら本気でエレナは謝っているようだ。

「良いから、そんなこと。俺、別に怒ってないからさ。謝ってくれてありがとう」
「……うん」

 エレナはそう言って鼻をすすった。

 どうしよう。こんな殊勝なエレナにどうやって接したらいいのかわからないぞ。

『まったく。ディーノったらホントに鈍いんだからー。いい? 泣いている女の子は、優しく抱き寄せてねっ。それから優しい王子様のキスをあげるんだよっ』
「なっ!? フラウ!?」

 いつの間にか召喚状態を解除していたフラウが爆弾発言をしてきた。

『えへっ。ちょっと周りを見てくるね~』
「え? あ、おい! フラウ!」

 そう言うとフラウは俺が呼び止めるのも聞かずに出口のほうへと飛び去ってしまった。

「ディーノ? フラウがどうしたの?」
「なんか、周りの様子を確認してくるって」
「そう……」

 エレナはそう呟くと、また少しの間黙り込んだ。そしてまたエレナのほうから口を開いた。

「ねえ、ディーノ」
「ん?」
「あのね。どうしても話したいことがあるの」

 そう言ったエレナの表情はとても真剣なものだった。

==============
次回「第二章第61話 ディーノとエレナ(後編)」の更新は通常通り、2021/06/03 (木) 21:00 を予定しております。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...