異世界で奴隷になったら溺愛されました。

つかさ

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(30)ウルリック2

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「な…何言ってるんですか?冗談はやめてください!」

 私は彼の手を振りほどいて、椅子から立ち上がった。

「私はガイア様のものだって、あなたも知ってますよね?あなたとなんて、無理に決まってるじゃないですか!」
「勘違いしないでください。私は別に主からあなたを寝取ろうなんて思っているわけではありません」
「じゃあ、何なんですか?」
「実験だと言ったでしょう」
「だから何の実験なんですか!どういうつもりでそんなこと言ってるの!?」

 私は怖くなって咄嗟にその場から逃げようとした。
 ところが片手を彼に取られてしまった。

「逃げないでください。ちゃんと説明しますから」
「…説明?」
「まあ、お掛けなさい。乱暴はしませんから」
「本当ですか?」
「ええ」

 私は疑いの目でウルリックを見ながら、渋々元の席についた。

 ウルリックは本を脇に抱え、上着の懐ポケットから例の黒い箱を取り出した。
 その箱を開けて中の銀色の球体を見せた。

「先日、これであなたの魔力を測定しましたね」
「…はい」
「私はこの測定器で、最初に我が主の魔力を測定しました」
「…ガイア…様の…?」
 測定したところ、驚くべき数値になっていたのです。一体いくつになっていたと思います?」
「まさか…増えてたんですか?」
「その通りです。しかも100や200どころの騒ぎじゃない。なんと6800もあったのですよ?」
「え…!」
「尋常じゃない値です。もちろん間違いかと思い、何度も測定し直しました。我が主はこの変化にとっくに気付いておられたようで、改めてこの数値を見て納得されていました」
「6800って…」

 6800って数字、それってまさか…。
 狼狽えている私の様子に気付いたウルリックは、鋭い視線を私に送った。

「この6800という数値に心当たりがあるんですか?」
「…私がこの世界に来た時、最初に測定してもらった時の数値と同じ…だと思います」
「…なるほど、そういうことですか」

 どういうことなんだろう…。
 ガイアの魔力が以前の私と同じ水準まで上がった?
 まさか、私とエッチしたから…?

「ということは、あなたも最初に測定した時から、魔力が三倍以上に上昇していたということになりますね」
「…あ!…そ、そうですね」
「そして、我が主には魔力が上がったことの原因は、あなたと同衾したこと以外に心当たりがないとおっしゃっています」

 ウルリックは箱を懐に仕舞って、脇に抱えていた本を手に開いた。

「ここに書かれているもう一つの推測というのは、この世界の人間は、異界人の女性と同衾するとその魔力を得られる可能性がある、ということです。つまり、あなたとセックスした男はあなたから魔力を授けられるかもしれない、ということなのです」
「…!」
「ですが、いまのあなたのお話から、私はもうひとつそこに条件があった可能性を考えています。それは、あなたが処女だったという条件です」
「…ガイアが私の処女を奪ったから、魔力が授けられたっていうんですか?」
「ええ。実際、あなたの魔力は処女を喪失して倍増したと考えられる。あなたの処女を奪った主は、その恩恵としてあなたから魔力の一部を受け取ったんです」
「そんなことって…あるんですか?」
「事実、数値が証明しています。一つ、伺いますが、サヤカという異界人は召喚された時から、処女ではなかったのでしょうね?」

 ウルリックは真面目な顔で聞いてきた。
 他人の性事情なんて興味はないけど、サヤカに関してはハッキリしている。

「…そうだと思います。出会った時から、初体験がいくつだったとか聞かされてましたから…」
「これでハッキリ証明できます。そのサヤカという異界人よりあなたの魔力が劣っていたのは、あなたが処女だったからです」
「えっ?」
「その理由は定かではありませんが、たとえば処女膜があることで本来あるべき魔力の生成を阻害されていたとか、そういったことがあったのかもしれません」
「私とサヤカの魔力の差は処女か非処女かってこと?」
「ええ。その証拠に、処女を失ってからあなたの魔力は三倍以上に上がりました。つまり、処女であったことが本来の魔力をセーブしていたんです。解放された今のあなたの魔力なら、もう一人の異界人に劣りはしないのではありませんか?」

 確かに、あの時サヤカは私の魔力の数値を聞いて、自分よりずっと低いと言った。
 だとしたら、今の私の魔力は彼女と同等かそれ以上になってる…?

「破瓜の痛みを与えた相手に魔力を分け与えるなんて、まるで女神の慈悲のようです。その慈悲にすがるように、主はあなたにぞっこんです。あんな主は今まで見たことがない。あなたと主は魔力を介してのような間柄になったのかもしれません。おそらく千年前の異界人たちもそうして力と仲間を得て、敵の異界人を葬ったのでしょう」

 ウルリックは自分の分析結果に、少し感動しているようだった。

「で、ここからが本題です」

 彼は急に真顔になった。

「私が実験したいというのは、処女で無くなったあなたとセックスしても、魔力が増えるのかどうなのかということなんです。実験というより検証ですね」
「…え」
「この本には、この世界の人間は、異界人の女性と同衾するとその魔力を得られる、とだけしか記載がなく、そのあたりの詳細については書かれていません」
「どうして女性って限定なんですか?異界人て女性だけなの?」
「いいえ、割合的には男性女性ちょうど半々くらいだそうですよ。男性と寝ても何も起こらなかったということなんでしょうね」

 ウルリックは本を私に見せながら言った。

「事実として、我が主はあなたの処女をいただいて魔力をもらった。あなたが魔力を与えるのは初体験の相手だけなのか、それ以外の者とではどうなのか?肉体の結びつきだけなのか、それとも精神的な結びつきが必要なのか?これらのことを確かめてみたいんです」

 不気味に微笑むウルリックが突然怖くなった。

「どうです?私とセックスして確認してみませんか?」
「ダ、ダメに決まってるじゃないですか!」

 そういえば、ガイアが言ってた。
 ウルリックが私を抱かせろって言って来たって…。
 それはこの実験のためだったんだ。
 そんなので体を許せだなんて、あり得ない。

「そうおっしゃらずに」
「嫌です!だいたい、そんな実験して何になるっていうんですか!」

 私が叫ぶと、彼は眉をひそめた。

「サラさん、これがどれだけ大変なことなのか、わかっていないようですね」
「大変なこと…?」
「考えてもごらんなさい。もし、あなたとセックスするだけで、どんな男でも魔力が手に入るなんてことがわかったら、どうなります?私が軍事国家の野心的な王だったなら、あなたを拘束して国中の兵士とセックスさせますよ。そうして強力な魔法師軍団を作って他国に侵略戦争を仕掛けます」
「は!?な、何言ってるんですか!」

 国中の兵士と…って何?
 めちゃくちゃ怖い事言ってるんだけど…!

「これは決して冗談ではありません。これが事実なら、あなたの存在は希少石よりも貴重な存在になり、あなたを奪い合って人々は争うでしょう」
「…!」
「そうなれば国際条約機構だって黙ってはいない。我が主はそういった連中からあなたを守るために身を盾にする。私は下僕としてその危険性があるのかどうか見極めねばなりません」
「その本に書かれていることを鵜吞みにするんですか?」
「本の内容などどうでもいい。私は可能性の問題を言っているんです。千年前には今のような測定器がなかったからわからなかっただけで、もしかしたら潜在的な魔力向上者がもっと大勢いたかもしれない。それが今は測定器で確認することができるんです。ならば確かめるべきではありませんか?」

 その鋭い目が、私を刺すように見る。
 この人は理論づくめで私に「うん」と言わせようとしている。
 だけどそんなの絶対に受け入れられない。

「実験の結果、測定値に変化がなければ、ここにいて構いません。ですがもし上がるようなことがあれば…」
「どうするんです…?」
「我が主はあなたに執心しています。あなたを主から引き離すことは難しいと思っていました。ですが状況が変わってくれそうですので、あなたの処遇が決まるまで、私が預かってもいいと思っています」

 ウルリックの意味深なものの言い方が妙に気になった。

「状況が変わるって、どういうことですか…?」
「主が結婚なさるからですよ」
「え?!結婚って…まだ先のことじゃないんですか?」
「おや、聞かされていないんですか?我が主が王都へ戻ったのは、婚約相手の誕生パーティーに出席するためなんですよ。どうやらそこで結婚式の日取りが発表されるようなんです」
「…!!」

 そんなこと、聞いてない。
 王都へは仕事で行くんだって…。

「それ、本当ですか?」
「ええ。先日主が街へ出かけたのも、婚約者への贈り物を選ぶためだったんですよ」
「…!嘘…。だって彼はあの日、私にくれたネックレスを受け取りに行ったって…」
「それはですよ」
「そんな…!」

 胸が鷲掴みにされたみたいにギュッ、と痛む。
 ついで?
 婚約者の…ついでなの?
 そうなの?

「我が主は結婚を機におそらく王都へ移り住むことになる。愛玩奴隷を新婚家庭へ連れて行くわけにはいきませんから、あなたをここからどこかへ隠そうとするでしょう」
「…それって、奥さんに、バレないようにってことですか?」
「ええ」

 私は無意識に膝に置いた手をぎゅっと握っていた。

「婚約者のルドヴィカ嬢は潔癖な方だそうで、愛玩奴隷の存在を許すはずがありません。好むと好まざるにかかわらず、一時的にでもあなたを手放さねばならなくなるでしょう」

 そうだ…ここは、夫の愛人を妻が売り飛ばしたり殺したりしても罰せられない世界なんだ。
 ガイアと離れたくないけど、私は奴隷で…。
 彼の奥さんの機嫌次第でどうにでもされてしまう存在なんだ。

 薄々、わかってた。
 いつかガイアが結婚したらきっと、そうなるんじゃないかって。
 それを、こんな形で突きつけられるなんて。

 心が…張り裂けそう。
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