聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第二章

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「テストは合格だ。おまえたちの実力ならば我の旅に同行させても問題なかろう」

 魔王は聖魔騎士団全員を集めて、玉座の間でそう云った。
 聖魔騎士団員たちは「やったー!」と声を上げ、ハイタッチした。
 魔王のやり方に納得はいってなかったけど、アスタリスの話を聞いて多少は理解したつもりだった。
 それで私は、少し嫌味を込めて魔王に尋ねた。

「だけど砦を落とす必要ってあったの?」
「もちろんあるさ」

 魔王は、大きすぎる玉座のひじ掛けにもたれかかりながら片膝を立てるという、ちょっとお行儀悪そうな姿勢で答えた。

「あれだけ砦が跡形もなく破壊されたとなれば、人間たちは警戒するだろう。そして砦を再建する間は、奴らは警備に手を取られてこちらへ手出しはできない。その間、こちらも前線基地に人員や物資を送ったりできる。我も安心して魔王都へ旅ができるというものだ」
「そんなこと考えてたの…」
「前の戦いで、おまえがサレオスや魔族たちの怪我を癒してくれなかったら、落ちていたのはこの基地の方だったやもしれぬ。我とおまえが留守の間に再びそのようなことにならぬよう、準備をする必要があったのだ」
「そ、それならそうと、言ってくれれば良かったのに」

 あのあとサレオスから、状況を見て魔王はカイザーを援軍に出そうと考えていたことを知らされた。魔王が、彼らをむざむざ死なせようなんて思っていなかったことはわかった。
 だけど、あんなに怒った手前、振り上げた拳をそのまま下すことは難しいのだ。あー、もう今の私、意地を張りすぎでかなりカッコ悪い。

「もー、あんなに怒った私がバカみたいじゃない…」
 
 そんな後悔を口にすると、

『素直に謝ったらどうだ』とネックレスからカイザーの声が聞こえた。

「うっさいわね…。わかってるわよそんなこと」

 そう、わかっているんだけど、なぜかアスタリスに謝った時みたいに素直になれない。
 だけどこのままってのも大人げない気がする。

「あー、えー、ゴホンゴホン。あのー、魔王さん?意地悪だなんて言って怒って悪かったわ。気を悪くしたのなら謝るから…」

 玉座の魔王を見ると、なんだかすごくニヤニヤしていた。
 なんかその顔見たら腹が立ってきた。

「ちょっとそこ!ニヤニヤしない!謝ってるんだからちゃんと聞きなさいよ!」

 私が魔王を指さして叫ぶと、その隣に立っていたサレオスがビックリした顔でこちらを見つめた。
 背後から、聖魔騎士団の連中がクスクス笑っている声が聞こえた。

「それが謝っている態度なのか?」

 と、魔王も声を出して笑ったので、またサレオスがビックリしていた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一方、こちらは敗戦した砦の兵士たち。

「恐ろしく強い連中だったね。この前戦った魔族とは全然違った」

 優星がぼそっと呟いた。

「国境砦が落とされるなんて、前代未聞です…」

 アマンダは震えながら云った。
 将は無言だった。
 プライドをへし折られて、かなりの精神的ダメージを負っていたのだ。

 馬車を失った勇者候補パーティは、砦から脱出してきた他の兵士らと共に、徒歩でアトルヘイム帝国軍の駐屯地を目指して移動していた。
 元々北の国境砦は、アトルヘイム帝国の直轄であり、そこへ兵士や食料を確保する兵站を結ぶために帝国領内やその属領の各地に駐屯地を設置しているのだ。
 ゾーイはとりあえずそこへ行って、馬か馬車を貸してもらい、大司教公国へ帰国するつもりだと云った。幸いなことに彼はいくらかの金貨を持っていた。

「あいつら、物理や魔法攻撃の耐性スキルを持ってたみたいだ。こちらの攻撃がまったく当たらなかったね」
「エリアナ様の魔法も吸収されてしまっていました。あんなの初めてみました」

 優星の言葉に答えていたのは回復士のアマンダだった。

「耐性スキル持ちの相手にはどうやって対抗したらいいんだい?」

 優星の疑問に、アマンダが答えた。

「物理耐性や無効には貫通スキルが有効ですよ。魔法耐性や無効には、難しいことですが無属性魔法を取得して対抗するしかありません。しかし通常、物理無効と魔法攻撃無効は両立しないはずなんですが…」
「でもあの魔族たちは両方持ってた感じだったよ」
「そんなスキル持ち、聞いたことがありません。恐ろしい…。これも魔王の力なのでしょうか…」

 アマンダは不安気な表情になった。

「そういえば武技スキルって魔法耐性には有効なのか?」
「武技スキルは物理扱いになりますから効きますよ。将様のような魔法属性を伴う武技スキルなら物理無効でも魔法ダメージが乗った分だけは有効になります」
「あんな敵がいるとなれば、こちらも戦い方を考えないといけなくなるね」
「そうですね。より実戦的なスキルが必要になってくると思います」

 すると、それまで黙っていた将が口を開いた。

「俺はもう一度剣の腕を磨く。かならず奴にリベンジしてやる」
「そうだね。将ならもっと強くなれるよ」

 優星は彼に笑顔で云った後、その隣でけだるそうに溜息をつきながらトボトボと歩くエリアナを見た。
 彼はアマンダにそっと耳打ちする。

「彼女はどうしたんだい?さっきからずっとああして溜息ばっかりついているけど」
「ええ…。おそらく砦で会った魔族が原因かと」
「魔族?」
「エリアナ様が、砦の中で広範囲魔法を撃とうとしたのを止めた魔族がいて、その魔族が…」
「その魔族が?」
「すぅーーーーーーっごい美形だったんです!!」

 優星はずっこけそうになるのを必死にこらえた。

「まさかと思うけど、その魔族に一目惚れでもしたのかい?」
「たぶん…」

 アマンダはたぶん、と云ったけど、確信を持っていた。
 優星は、以前彼女が自分に云った言葉を思い出してこっそり呟いた。

「何が苦しい想いをするかもよ、だよ。その言葉、そっくり君に返すよ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 北の国境砦が魔族に落とされたことは、瞬く間に広まり、人間側の各国に相当な衝撃を与えた。
 砦が無くなったとなれば、人間の国への魔族の流入を簡単に許してしまうことになる。
 実際に魔族が侵入しても作物や家畜を奪っていく程度の被害なのだが、魔族に無知な田舎の人々は「魔族は人間を捕って食らう」などという恐ろしい噂を信じていたりする。
 そんな事情もあって、国境近くの国々ではちょっとしたパニックも起こって、それを諫めるのに警備隊が出動する騒ぎになったりもした。

 これを受けて、急遽各国の首脳会談が、中立国のグリンブル王国にて行われることになった。
 国境砦の状況調査のために、砦を管轄していたアトルヘイム帝国は、直ちに精鋭軍を組織した。
 その中心になったのはやはりアトルヘイム帝国の主力部隊である黒色重騎兵隊シュワルツランザーと、ペルケレ共和国の傭兵部隊であった。
 傭兵部隊に金を出しているのは北の国境に近い、周辺諸国である。
 また、魔族との中立を宣言している沿海州諸国やグリンブル王国などは、砦を修復するための物資や職人などの人的援助を表明している。

 グリンブル王国管轄の中央国境と、沿海州諸国管轄の南の国境砦でも同じように調査隊が派遣されることになった。双方とも特に魔族に襲われることもなく、平常通りだと報告された。
 それで、これはやはり、魔族とあからさまな敵対行動を起こしているアトルヘイム帝国と大司教公国のせいである、と各国からの批判が寄せられる結果となった。
 それと、もうひとつ話題に上ったのが、この会議に出席していないガベルナウム王国のことである。
 ガベルナウム王国から侵攻を受けているアトルヘイム帝国は、国内外から魔族討伐巡回隊を引き上げ、しばらくはガベルナウム王国との国境守備に専念すると宣言した。
 これに不安を抱いたのは、大司教公国と国境を接するビグリーズ公国である。
 ビグリーズ公国は北の国境にも近いため、魔族の侵入に常に脅かされている国の1つである。砦がない今、巡回隊を引き上げるなんて嫌がらせも甚だしい、と怒りをあらわにした。
 そこでアトルヘイム帝国は、兵站を確保してくれるならその周辺だけは巡回隊を残す、と提案してきた。
 ビグリーズ公国は渋々了承した。これは実質、傭兵を雇うようなものだったが、背に腹は代えられなかった。

 この会議に、大司教の名代として出席したのは、大司教公国のリュシー・ゲイブス祭司長だった。
 その場で彼は、この度の北の国境砦陥落の慰安として、大司教の全国行脚『大布教礼拝』を開始すると宣言した。
 これは、大司教が有能な回復士たちを引き連れて、人間の各国を2年もの年月をかけて巡る癒しの旅のことである。大司教公国の回復士は高額で有名なので、庶民には滅多に呼ぶことができないが、この『大布教礼拝』が行われている地では、運がよければ無料で回復士の治療を受けられるかもしれないのだ。
 そのため、『大布教礼拝』がやってくる都市では多くの人が集まり、ちょっとしたお祭りムードになる。大司教公国にとってはお布施や信者を獲得できるチャンスであり、その他の国においては人が集まることで経済効果も期待できる、一大イベントなのだ。
 魔族の流入の不安を、一時でも癒せるとあって、各国はこれを歓迎した。

 そして帰還した勇者候補パーティも、この『大布教礼拝』の警護として2年に渡る大司教の旅に同行することとなるのであった。
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