聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第三章

怒りの矛先

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 カナンが調べたところ、マリエルの素性が真っ赤な嘘だったことがわかって、魔王をはじめ、全員が驚いた。
 マサラが入国証を調べてみると、マリエルの通行許可証はザグレムが発行したものだとわかった。

 これを知った魔王の怒りは頂点に達した。
 トワはマリエルを友人だと思っていたし、魔王もその認識を持っていたからだ。
 トワを攫ったのは3本傷の女だと思っていたが、敵はもっと身近にいたのだ。
 魔王はマリエルがトワを裏切って、その心を傷つけたことが許せなかった。
 マリエルの身辺調査もろくにせず、トワの近くに居させたのは自分のミスだと感じ、それに対して彼は自分自身にも腹を立てていた。
 マサラはマリエルが人に警戒心を抱かせないスキルを持っていたのではないかと魔王をフォローした。

 騎士団メンバーがマリエルの居住していた建物に乗り込んだが、既に逃げた後だった。
 魔王は王や治安維持機構にも協力を要請し、トワの行方を探させた。

 アリーがメトラと共に治安維持機構本部を訪れ、アザドーと人魔同盟のメンバーを動員してトワの行方を探すのに協力すると申し出た。

 城門にいたアスタリスが、奪われた治安部隊の馬車を見つけたと報告してきた。
 アザドーのメンバーがそれを追いかけ、馬車が街はずれの空き家前に止まっていると連絡してきた。
 騎士団が急行すると、そこにはマリエルと頬に傷のある女がいた。
 だがトワの姿はなかった。
 マリエルとヴィラという3本傷の女は連行される直前まで、お互いの不手際を攻める言い争いをしていて、騎士団のメンバーを辟易とさせた。

 機構本部の地下には罪人を拘留しておく牢や罪を自白させるための拷問部屋がある。
 そこは魔法やスキルが使用できないように何重にも防御壁が施されていた。

 その牢の中で、2人の魔族の女は両手を後手に縛られたまま座らされ、騎士団に囲まれながら、魔王からの尋問を受けていた。
 トワの行方を訊かれると、馬車から落ちたと云い、戻った時にはもういなかったとマリエルは話した。
 悪びれない様子に、皆は怒りを覚えたが、どうやら嘘ではないようだった。

 彼女らは目の前にいる少年がまさか本物の魔王だとは知らず、侮り、無礼極まりない態度を取った。
 そこにいたのは、魔王が知っているマリエルではなかった。
 マサラの云った通り、マリエルは<無警戒>という、人に不信感を抱かせないという特殊なスキルを持っていた。
 マリエルはザグレムを馬鹿にした態度を取ったトワにかなり怒っていたようで、彼女に対して罵詈雑言を並べ立てた。
 これには騎士団員たちの、特にカフェテリアでお昼を共にしていたユリウスの怒りを買うことになった。

「おまえは、トワの信頼を裏切った」

 魔王が静かな怒りをたたえて云ったが、マリエルはあっけらかんとしていた。

「あの子もそんなこと言ってたわねえ。でも、ケッサクだったな~!あのショックを受けた顔!アハハハ!いい気味!」
「貴様…」
「あんた、ユリウスだっけ?あんたの料理は良かったわよ。あんな女にはもったいないからザグレム様に言って、引き抜いてあげる。喜びなさい!」

 自分の立場もわきまえず、マリエルはそう云って高笑いする。
 彼女を見下ろすユリウスの美しい顔は、能面のように無表情だった。

「魔王様、この者、殺しても良いですか?もはや生かしておく価値を認めません」
「いや…この者はザグレムの罪を問うために生かしておく。だが命さえあればどう扱っても構わん」
「心得ました」

 魔王の言葉に、ユリウスは頭を下げた。
 再び顔を上げたユリウスは、残忍な笑みを浮かべ、唇を舐めた。
 その変貌ぶりに、さすがのマリエルも青ざめた。

「ひっ…な、何をするつもり?」
「死にたくなる程の痛みと生きるのが嫌になる程の苦しみと、どちらが良いですか?」
「や、やめて!ユリウスさん、お願いです!」

 マリエルはアカデミーにいた頃の口調で懇願した。

「もうその手は通用しない。自分のしたことがどれほど罪深いことだったか、その身を持って思い知るがいい」

 ユリウスはマリエルを引っ立てて拷問部屋へ連れて行った。
 これから一体どんな拷問が待っているのか彼女はその身をもって知ることとなる。

 そして、魔王はもう1人の、3本傷の女を見た。
 その女―ヴィラはもうとっくに覚悟しているようだった。

「おまえにはもう用はない」

 魔王がパチン、と指を鳴らすと、女の足元の床に黒い歪みが出来た。
 彼女は悲鳴を上げながら縛られた椅子ごとその歪みに吸い込まれていった。
 彼女のポニーテールの先が歪みに呑まれて消えると、歪みは跡形もなく消えてしまった。
 どうなったのかとネーヴェが聞くと、魔王は残忍に笑って説明した。

「魔獣のいる亜空間に放り込んでやった。あの女はそこで永遠に魔獣に食われ続けるのだ」

 亜空間には時間の流れの概念がない。
 時間に支配される世界で生きる者が、そこで何か行動するとしてもその結果を得ることはできない。
 魔獣と共にその空間に閉じ込められた女は、魔獣に食われる時間を延々ループすることになるのだ。

 その後、総出でトワの行方を捜したが、その姿を見つけることはできなかった。
 馬車から落ちた時に気を失っている間に、奴隷商人に売られてしまったとか、心ない者に監禁されているとか、マサラが魔王の不安を煽るようなことを口にしてたびたび叱責を受けていた。

「くそっ…」

 魔王は足を踏み鳴らして悔しがった。
 魔王、などと呼ばれて偉そうにしているが、好きな女の1人も守ることができないとは、なんと情けないことか。
 彼は怒りの矛先を見つけられずにいた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 グリンブル王国内の高級温泉別荘地ラエイラ。
 王都グリンブルからは、馬車で半日ほどの場所にある、超高級リゾート地だ。
 人間専用地と謳っている都市なので、国交のない大司教公国のお金持ちやアトルヘイム帝国の貴族たちがお忍びで遊びに来ている。そのため、魔族が侵入しないように高い塀で囲まれているし、都市の入口も警備が厳しいのだ。

 今、ここには大司教公国の『大布教礼拝』巡礼一行が来ていて、大勢の観光客や治癒を希望する者たちが訪れている。
 ラエイラに入るには、通常王都に入るよりも多額の保証金を払う必要があるのだが、今は『大布教礼拝』の最中なので、それにかかわる人々はすべてタダになるという大盤振る舞いになっている。ただし「人間に限って」だが。

 今この地には、『大布教礼拝』に同行してきた勇者候補たちも来ていた。
 勇者候補たちと、ゾーイ、アマンダは、ここへ来てから休暇を貰い、完全オフモードに突入している。
 勇者候補たちが泊まっているのは、カジノや温水プールなどのレジャー施設が充実しているレジャーホテルだ。
 大司教一行はそれとは別の最高級ホテルを貸し切りにしている。そのホテルの大ホールを解放して、回復士たちが治癒を行っている。

 水を得たようにいきいきし始めたのは優星だった。
 ホテルにはプライベートビーチもあり、そこでは人工的な波でサーフィンができるとあって、彼は真っ先に出かけて行った。
 久しぶりの波乗りに、テンションが上がった。
 彼にとって、ビーチに来ている女の子たちの目よりも気になるのは、将との関係だったが、あれから一向に進展しないし、友人としても認められているかどうかすら、自信がない。
 少々気持ちが腐っていたところへ、この休暇は良い気分転換となった。
 
 思いっきりサーフィンを楽しんだ後、ビーチからホテルに戻ろうとしていた優星を呼び止める者がいた。
 それは聖騎士のレナルドだった。
 
 ゾーイと将、エリアナとアマンダは水着になってホテルのプールにいた。
 エリアナはワンショルダーの真っ赤なワンピース、アマンダは黄色い花柄のビキニ姿だった。
 ゾーイはさすがに聖騎士なだけあって、見事な筋肉を見せていたが、鮮やかなブーメランパンツを着用していた。その姿に見とれているアマンダに、エリアナはすかさずツッコミを入れていた。
 彼らの水着はここへついてすぐ、ホテルのショップで買ったものだ。
 将はゾーイへの対抗心をあらわにし、細いながら鍛えられた腹筋をアピールしては、プールに遊びに来ていた他の女性客からの黄色い声を浴びていた。
 
「なあゾーイって、俺らよか年上だよな?結婚してるのか?」

 将が訊くと、アマンダがピクッと反応した。

「いえ。故郷に親の決めた婚約者がいますが、もうずいぶん帰っていないので向こうも他の者と結婚したでしょう」
「この休暇中に帰ってやったらいいのに」
「お気遣いはありがたいですが、故郷を出たときから帰る時は退役した時だと伝えてありますので」
「そうか…」

 アマンダはホッとした表情になった。
 ゾーイと将がまたプールへ泳ぎに行ってしまった後、アマンダにエリアナが声をかけた。

「アマンダって、ゾーイのことが好きなのね」
「えっ?!なななな、何をおっしゃっているのですか!そそそそんなことっっ!」
「わかりやすすぎなのよね」

 アマンダは真っ赤になったままうつむいた。

「わ、私はただ、尊敬申し上げているだけで…」
「別にあたしに言い訳しなくてもいいのよ?好きになるのに理由なんかいらないんだから」
「私なんかそんな、とてもそんなこと…第一ゾーイさんは女性に人気がありますし…」
「そうねえ、聖騎士で勲章も貰ってる超エリートだものね。んでカッコイイのに鼻にかけないし」
「そう!そうなんです!ゾーイさんはとっても気さくで、私なんかにもとてもよくしてくださっていて…」
「で、好きになっちゃったのね」
「ああ、もう!エリアナ様は意地悪です!」

 アマンダのあまりにも可愛らしい反応に、エリアナはニヤニヤが止まらない。
 不毛な恋愛に思いを馳せる自分とは対照的に、彼女の純な想いにはほっこりさせられる。

「んも~、可愛いんだから!この純情娘!」
「きゃあ」

 エリアナはアマンダを思いっきりくすぐった。
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