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第七章
伝説上の人物
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帝国大学内では、学生たちが校舎の一角にあるサロンに、校内で一番上等な学長の椅子やらテーブルやらを持ち込み、魔王のための滞在場所を作っていた。
このサロンは元々貴族の子弟のために作られたもので、学費とは別に使用料を払えば、授業の合間に軽食などをとりながら談話ができるという特別室である。
大学とは思えない豪華な装飾の施された部屋なので、魔王の滞在には相応しい場所だろうということになって調度品などを運び込んだのだ。
ユリウスは、女子生徒らと生活学部棟で市民から持ち込まれた食料を使って調理を行っている。立てこもっている状況とは思えない程の豪華料理の数々が学食に並んでいるのを見て、学生たちは歓喜した。
テスカはキャンパス内外を飛び回ってパトロールをしていて、反乱軍のスパイを見つけては毒攻撃で撃退していた。
カムラが魔王のいるサロンの部屋に入ってきた。
「魔王様、失礼します。今、情報が入って…」
と、云いかけて彼は、サロンの中に魔王以外にまた別の知らない魔族がいることに気付いた。
「あの、この方は…?」
「僕はアスタリスと言います。お見知りおきを」
「え、は、はい、カムラ・クルーゼと言います、こちらこそよろしくお願いします」
カムラが頭を下げた相手は、自分と同じくらいの年齢に見える、目の奇麗な魔族だった。
魔王が空間転移でゴラクドールから連れてきた部下だと説明した。
「僕の能力は遠くを見ること、ターゲットを絞れば透視することもできます。お役に立ちますよ」
アスタリスはカムラにそう自己紹介した。魔王と共に行動することの多い彼は、いつしか自分の能力に自信を持つようになっていた。他人と比べることをやめて自分の能力を磨くことを心掛けるようになったのだ。
「す、すごい…!」
カムラは驚愕した。
最初に連れて来た2人の魔族たちの能力もすごかったが、サラッとこんな人材を連れて来てしまう魔王に尊敬の念を抱いたのだ。きっと国元へ帰ればもっと多くの有能な部下がいるに違いない。
「…で?こちらの方は?」
カムラが注目したのはもう1人の黒髪長髪の魔族だった。色白で、クセのある黒髪から尖った白い耳が覗いている。白い上下のスーツを着ているため、異様に目立つ。真っ赤な唇のせいか、黒衣の魔王とはなんとなく真逆の存在に見えた。
「…まったく、どうしてこんなところに…」
彼はその特徴でもある紅唇で、ブツブツと文句を言っていた。
「ザグレム様が空間転移を体験したいって無理矢理くっついてきたんじゃないですか。あ、すいません、ご紹介が遅れました。こちらは魔公爵ザグレム様です」
「ま、魔公爵っ!?」
人間の国においても魔王の他、6人の魔貴族の存在は有名だったらしく、カムラはその名を聞いて飛び上がった。
だがザグレムは人間の男などに興味はないようで、カムラの方をチラリとも見なかった。
「す、すごい…、伝説の人物にこんな一度にお目にかかれるなんて!」
カムラは感動のあまり目を潤ませていた。
「で、報告とは何だ?」
「あ、すいません。えと、帝国騎士団の宿舎を見張っている仲間から連絡がありまして、動きがあったみたいです。大規模な軍が編成されているらしく、近々大学に大攻勢をかけるのではないかと」
「ふむ。アスタリス、注意をしていてくれ」
「わかりました。お任せください」
魔王の命にハキハキと返事をするアスタリスに、カムラは頼もしく思った。
そこへユリウスがワゴンを押して入ってきた。
「魔王様、失礼します」
彼はお茶の支度をしてきたようで、ワゴンの上には高価な茶器とお茶菓子が乗せられていた。
聖魔騎士団の黒い制服の上から着用している白いエプロンがやけに上品に見えた。
ザグレムはそのユリウスと目が合った。
「…どなたです?」
ユリウスはザグレムを見て、アスタリスに尋ねた。
「そっか、ユリウスは初対面だっけ。こちらは魔公爵ザグレム様だよ」
「魔公爵ザグレム様…?そのような方がなぜここに?」
「たまたま僕と一緒にいたから転移して…。あ、ザグレム様、こちらは僕の仲間のユリウス…」
「う…」
ユリウスを紹介しようとしたアスタリスは、ザグレムの様子がおかしいことに気付いた。彼はユリウスを注視したまま固まっていた。
「う…」
「あの、ザグレム様?どうしました?」
「う…美しいっ!!」
「へ?」
アスタリスは呆気にとられた。
ザグレムはユリウスの前に文字通り飛び出て跪き、彼の手を取った。
「ああ、美しい人!まさに私の理想だ!ずっと探していた…!私の理想の人…!!」
ザグレムは思いの丈を吐き出すように叫んだ。
しかしユリウスは冷静に、その手をペッと振りほどき、汚いものでも触ったかのようにその手をエプロンで拭った。
「何なんですか、あなた」
「はうっ!声も素敵だ…!!」
ザグレムはユリウスの前で、まるで求婚者のように片膝をついた。
「ユリウスと言うのか…!ユリウス、美しい名だ。どうか私のパートナーになって欲しい!」
突然の告白に、周囲にいた者は唖然としていた。
カムラだけは珍しい光景に立ちあえたと内心ワクワクしていた。
「次の繁殖期には女性体化して、私の子供を産んで欲しい!」
「ザ、ザグレム様、唐突すぎますよ…」
アスタリスはそう忠告したが、ザグレムはまったく悪びれない。
ザグレムは勝手に自分の妄想の中に入り込んでしまったようだ。彼は極度のナルシスト故に、自らのスキルを使う必要もないほど、妄想にのめり込みやすい体質なのだ。
「恋に落ちるのは一瞬あれば十分だ。そう、私は今まさに恋に落ちたのだよ…!」
ユリウスが呆気にとられたまま魔王を見ると、彼は口元を手で押さえながら笑いをこらえていた。
ユリウスは少しムッとした表情になってザグレムに向き直った。
「あなたがトワ様に悪さをしたことは私の耳にも入っています。そんな人をこの私が受け入れるとお思いですか?」
「そ、それは…!魔王様には謝罪した。罰も食らったのだよ!」
「あなたがトワ様ご自身に直接謝罪なさって許されるまでは、認められません」
ユリウスは辛らつだった。
そして彼を完全無視して魔王の前のテーブルにティーカップを置いてお茶をサーブし始めた。
「あの、トワって…まさかあの伝説の人のことですか…?」
「伝説?」
カムラがふと漏らした言葉を魔王は聞き逃さなかった。
魔王がカムラを問い詰めると、彼は恐る恐る話し始めた。
「僕、歴史とか伝承を学んでいるんですけど、そのトワって名前は旧オーウェン王国創成期の伝説上の人物の名なんです」
「伝説上の人物だと?」
「えっと、最近大学に寄稿された考古学者カッツ氏の論文によれば、旧オーウェン王国の王国記に何千年という長い間同じ人物の名前が何度も登場しているそうなんです。王族の決まりで、過去の王族と同じ名前を名乗ることはできないはずなんですが…」
歴史を研究しているカムラのグループは、大司教公国の考古学者ナルシウス・カッツと交流を持っていた。カッツも帝国大学の出身で、論文を帝国大学にたびたび寄稿しているという。
「通常、同じ名の人は二世とか三世とかつけて区別するので、最初は記述ミスなんじゃないかって無視されていたんですが、その人は初代の女王なので、そんなミスはありえないんです」
「フン、何かの間違いだろう。数千年も生きる人間などおるまい。魔族でもレアなケースだぞ」
ザグレムは鼻で笑った。
カムラは「ですよね~」と云いつつ話を続けた。
「考古学者のカッツ氏は、その人物を人間の神だったのではないかと考察しています。僕らはそんなバカな話はないと否定していました。先日の魔王様のお話を聞くまでは」
「神は人間に近しい存在だという話か」
「はい。オーウェン王国の始祖は神様だったんじゃないかっていう伝承は昔からあったんです。誰もまともには信じていませんでしたけど」
「トワ様の名は人間の国ではありふれた名前なのですか?」
ユリウスが尋ねると、カムラは首を横に振った。
「非常に珍しいと思います。僕も今まで生きて来て、その名前を持つ人を知りません。たぶん、旧オーウェン王国では始祖の名をつけるのは禁忌だったのではないでしょうか。それがいつしか人間の世界に広がっていったのかもしれません。そのトワという方は始祖の血縁とか何か関係がある可能性が…」
「…偶然ですよ。トワ様は異世界からいらした方ですし、オーウェン王国と関係があるとも思えません」
「そ、そうですよね…。すいません、変なことを言って」
カムラは深く頭を下げた。
思い付きで話をしたことを後悔した。
「いや、おまえの説は興味深い。神はその名を持つ者に力を与える、と言うからな」
魔王はそう云ってカムラを労った。
褒められて気分を良くした彼はまたペラペラと話し出した。
「それ、神の名の一部を名に取り込んで、そのパワーを得るっていう古い云い伝えのことですね」
「そんな伝承があるのですか」
「はい、人間を創った神を除けば、人間の世界には古来から水や火など森羅万象すべてに神が宿るっていう考えがあるんです。僕の名前も教養の神カムールから取ったものなんです」
「興味深い話です。魔族の神は唯一神イシュタムのみですから、まったく違いますね。人間は自分で勝手に名前を付けるのですか?」
「え?いえ、僕の名前を付けたのは父親ですけど…」
質問の意味が分からないカムラは、頭の中がハテナでいっぱいになった。
そんな彼を見かねて魔王が助け舟を出した。
「わからぬのも道理だ。人間と違って魔族は生まれた時から名が決まっているからな」
「えっ!?そうなんですか?」
「魔族は持って生まれた魔法紋に名が刻まれているんですよ」
驚くカムラにユリウスが説明をした。
「…す、すごい…!勉強になるなあ…!!」
カムラは興味津々に目を輝かせた。
魔族の生体については一般の人間には秘匿されていて、特に魔族排斥を行っている国では魔族についての知識はほぼ公開されない。
知識の宝庫と云われる帝国大学ですらも、魔族に関する書物は禁書となっていて、カムラたち優秀な学生たちですら閲覧が一部制限されているため、独学で研究を行っていたのだ。
「もっともそれが気にいらず偽名を名乗る者もいるがな」
「へえ…そういうのもアリなんですね」
魔王はそう云ったが、カムラにはそれが誰のことなのかはわからなかった。
「そういえば、カッツ氏は旧市街の地下にその人物の古墳があるって云ってました」
「地下古墳…」
「遺体の入った棺を探していたみたいですが見つけられなかったみたいです」
ユリウスはイドラと会った場所を思い浮かべた。
そういえば地下神殿に棺があったことを思い出した。
彼は視線にチラツとザグレムが入ってくるたびに、うざったそうに視線を逸らしていた。
このサロンは元々貴族の子弟のために作られたもので、学費とは別に使用料を払えば、授業の合間に軽食などをとりながら談話ができるという特別室である。
大学とは思えない豪華な装飾の施された部屋なので、魔王の滞在には相応しい場所だろうということになって調度品などを運び込んだのだ。
ユリウスは、女子生徒らと生活学部棟で市民から持ち込まれた食料を使って調理を行っている。立てこもっている状況とは思えない程の豪華料理の数々が学食に並んでいるのを見て、学生たちは歓喜した。
テスカはキャンパス内外を飛び回ってパトロールをしていて、反乱軍のスパイを見つけては毒攻撃で撃退していた。
カムラが魔王のいるサロンの部屋に入ってきた。
「魔王様、失礼します。今、情報が入って…」
と、云いかけて彼は、サロンの中に魔王以外にまた別の知らない魔族がいることに気付いた。
「あの、この方は…?」
「僕はアスタリスと言います。お見知りおきを」
「え、は、はい、カムラ・クルーゼと言います、こちらこそよろしくお願いします」
カムラが頭を下げた相手は、自分と同じくらいの年齢に見える、目の奇麗な魔族だった。
魔王が空間転移でゴラクドールから連れてきた部下だと説明した。
「僕の能力は遠くを見ること、ターゲットを絞れば透視することもできます。お役に立ちますよ」
アスタリスはカムラにそう自己紹介した。魔王と共に行動することの多い彼は、いつしか自分の能力に自信を持つようになっていた。他人と比べることをやめて自分の能力を磨くことを心掛けるようになったのだ。
「す、すごい…!」
カムラは驚愕した。
最初に連れて来た2人の魔族たちの能力もすごかったが、サラッとこんな人材を連れて来てしまう魔王に尊敬の念を抱いたのだ。きっと国元へ帰ればもっと多くの有能な部下がいるに違いない。
「…で?こちらの方は?」
カムラが注目したのはもう1人の黒髪長髪の魔族だった。色白で、クセのある黒髪から尖った白い耳が覗いている。白い上下のスーツを着ているため、異様に目立つ。真っ赤な唇のせいか、黒衣の魔王とはなんとなく真逆の存在に見えた。
「…まったく、どうしてこんなところに…」
彼はその特徴でもある紅唇で、ブツブツと文句を言っていた。
「ザグレム様が空間転移を体験したいって無理矢理くっついてきたんじゃないですか。あ、すいません、ご紹介が遅れました。こちらは魔公爵ザグレム様です」
「ま、魔公爵っ!?」
人間の国においても魔王の他、6人の魔貴族の存在は有名だったらしく、カムラはその名を聞いて飛び上がった。
だがザグレムは人間の男などに興味はないようで、カムラの方をチラリとも見なかった。
「す、すごい…、伝説の人物にこんな一度にお目にかかれるなんて!」
カムラは感動のあまり目を潤ませていた。
「で、報告とは何だ?」
「あ、すいません。えと、帝国騎士団の宿舎を見張っている仲間から連絡がありまして、動きがあったみたいです。大規模な軍が編成されているらしく、近々大学に大攻勢をかけるのではないかと」
「ふむ。アスタリス、注意をしていてくれ」
「わかりました。お任せください」
魔王の命にハキハキと返事をするアスタリスに、カムラは頼もしく思った。
そこへユリウスがワゴンを押して入ってきた。
「魔王様、失礼します」
彼はお茶の支度をしてきたようで、ワゴンの上には高価な茶器とお茶菓子が乗せられていた。
聖魔騎士団の黒い制服の上から着用している白いエプロンがやけに上品に見えた。
ザグレムはそのユリウスと目が合った。
「…どなたです?」
ユリウスはザグレムを見て、アスタリスに尋ねた。
「そっか、ユリウスは初対面だっけ。こちらは魔公爵ザグレム様だよ」
「魔公爵ザグレム様…?そのような方がなぜここに?」
「たまたま僕と一緒にいたから転移して…。あ、ザグレム様、こちらは僕の仲間のユリウス…」
「う…」
ユリウスを紹介しようとしたアスタリスは、ザグレムの様子がおかしいことに気付いた。彼はユリウスを注視したまま固まっていた。
「う…」
「あの、ザグレム様?どうしました?」
「う…美しいっ!!」
「へ?」
アスタリスは呆気にとられた。
ザグレムはユリウスの前に文字通り飛び出て跪き、彼の手を取った。
「ああ、美しい人!まさに私の理想だ!ずっと探していた…!私の理想の人…!!」
ザグレムは思いの丈を吐き出すように叫んだ。
しかしユリウスは冷静に、その手をペッと振りほどき、汚いものでも触ったかのようにその手をエプロンで拭った。
「何なんですか、あなた」
「はうっ!声も素敵だ…!!」
ザグレムはユリウスの前で、まるで求婚者のように片膝をついた。
「ユリウスと言うのか…!ユリウス、美しい名だ。どうか私のパートナーになって欲しい!」
突然の告白に、周囲にいた者は唖然としていた。
カムラだけは珍しい光景に立ちあえたと内心ワクワクしていた。
「次の繁殖期には女性体化して、私の子供を産んで欲しい!」
「ザ、ザグレム様、唐突すぎますよ…」
アスタリスはそう忠告したが、ザグレムはまったく悪びれない。
ザグレムは勝手に自分の妄想の中に入り込んでしまったようだ。彼は極度のナルシスト故に、自らのスキルを使う必要もないほど、妄想にのめり込みやすい体質なのだ。
「恋に落ちるのは一瞬あれば十分だ。そう、私は今まさに恋に落ちたのだよ…!」
ユリウスが呆気にとられたまま魔王を見ると、彼は口元を手で押さえながら笑いをこらえていた。
ユリウスは少しムッとした表情になってザグレムに向き直った。
「あなたがトワ様に悪さをしたことは私の耳にも入っています。そんな人をこの私が受け入れるとお思いですか?」
「そ、それは…!魔王様には謝罪した。罰も食らったのだよ!」
「あなたがトワ様ご自身に直接謝罪なさって許されるまでは、認められません」
ユリウスは辛らつだった。
そして彼を完全無視して魔王の前のテーブルにティーカップを置いてお茶をサーブし始めた。
「あの、トワって…まさかあの伝説の人のことですか…?」
「伝説?」
カムラがふと漏らした言葉を魔王は聞き逃さなかった。
魔王がカムラを問い詰めると、彼は恐る恐る話し始めた。
「僕、歴史とか伝承を学んでいるんですけど、そのトワって名前は旧オーウェン王国創成期の伝説上の人物の名なんです」
「伝説上の人物だと?」
「えっと、最近大学に寄稿された考古学者カッツ氏の論文によれば、旧オーウェン王国の王国記に何千年という長い間同じ人物の名前が何度も登場しているそうなんです。王族の決まりで、過去の王族と同じ名前を名乗ることはできないはずなんですが…」
歴史を研究しているカムラのグループは、大司教公国の考古学者ナルシウス・カッツと交流を持っていた。カッツも帝国大学の出身で、論文を帝国大学にたびたび寄稿しているという。
「通常、同じ名の人は二世とか三世とかつけて区別するので、最初は記述ミスなんじゃないかって無視されていたんですが、その人は初代の女王なので、そんなミスはありえないんです」
「フン、何かの間違いだろう。数千年も生きる人間などおるまい。魔族でもレアなケースだぞ」
ザグレムは鼻で笑った。
カムラは「ですよね~」と云いつつ話を続けた。
「考古学者のカッツ氏は、その人物を人間の神だったのではないかと考察しています。僕らはそんなバカな話はないと否定していました。先日の魔王様のお話を聞くまでは」
「神は人間に近しい存在だという話か」
「はい。オーウェン王国の始祖は神様だったんじゃないかっていう伝承は昔からあったんです。誰もまともには信じていませんでしたけど」
「トワ様の名は人間の国ではありふれた名前なのですか?」
ユリウスが尋ねると、カムラは首を横に振った。
「非常に珍しいと思います。僕も今まで生きて来て、その名前を持つ人を知りません。たぶん、旧オーウェン王国では始祖の名をつけるのは禁忌だったのではないでしょうか。それがいつしか人間の世界に広がっていったのかもしれません。そのトワという方は始祖の血縁とか何か関係がある可能性が…」
「…偶然ですよ。トワ様は異世界からいらした方ですし、オーウェン王国と関係があるとも思えません」
「そ、そうですよね…。すいません、変なことを言って」
カムラは深く頭を下げた。
思い付きで話をしたことを後悔した。
「いや、おまえの説は興味深い。神はその名を持つ者に力を与える、と言うからな」
魔王はそう云ってカムラを労った。
褒められて気分を良くした彼はまたペラペラと話し出した。
「それ、神の名の一部を名に取り込んで、そのパワーを得るっていう古い云い伝えのことですね」
「そんな伝承があるのですか」
「はい、人間を創った神を除けば、人間の世界には古来から水や火など森羅万象すべてに神が宿るっていう考えがあるんです。僕の名前も教養の神カムールから取ったものなんです」
「興味深い話です。魔族の神は唯一神イシュタムのみですから、まったく違いますね。人間は自分で勝手に名前を付けるのですか?」
「え?いえ、僕の名前を付けたのは父親ですけど…」
質問の意味が分からないカムラは、頭の中がハテナでいっぱいになった。
そんな彼を見かねて魔王が助け舟を出した。
「わからぬのも道理だ。人間と違って魔族は生まれた時から名が決まっているからな」
「えっ!?そうなんですか?」
「魔族は持って生まれた魔法紋に名が刻まれているんですよ」
驚くカムラにユリウスが説明をした。
「…す、すごい…!勉強になるなあ…!!」
カムラは興味津々に目を輝かせた。
魔族の生体については一般の人間には秘匿されていて、特に魔族排斥を行っている国では魔族についての知識はほぼ公開されない。
知識の宝庫と云われる帝国大学ですらも、魔族に関する書物は禁書となっていて、カムラたち優秀な学生たちですら閲覧が一部制限されているため、独学で研究を行っていたのだ。
「もっともそれが気にいらず偽名を名乗る者もいるがな」
「へえ…そういうのもアリなんですね」
魔王はそう云ったが、カムラにはそれが誰のことなのかはわからなかった。
「そういえば、カッツ氏は旧市街の地下にその人物の古墳があるって云ってました」
「地下古墳…」
「遺体の入った棺を探していたみたいですが見つけられなかったみたいです」
ユリウスはイドラと会った場所を思い浮かべた。
そういえば地下神殿に棺があったことを思い出した。
彼は視線にチラツとザグレムが入ってくるたびに、うざったそうに視線を逸らしていた。
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