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雲より高い場所
十話 : 広がる雲の上の晴れ
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渦波直樹。そこにはそう書かれていた。それは少しだけ暴力的だったけど、受け入れやすかった。絶望することだって、なかった。
「だめだったか」
本当に珍しく独り言を空に向かって投げた。
室内からじゃ見えないが、どうやら今は分厚い雲が大きな雷を鳴らしているらしい。
轟いている音はまるで僕を祝福をしているようだった。
僕は教室に向かって、邪魔になりそうな程に堂々と歩き始めた。
廊下はいつもより多くの人がいた。
そして教室の前につき、古びたドアを音を立てて開けた。
教室には眩しく光るランプが吊るされていた。
そして、光の先に朝陽がいた。
「おはよう」
「おはよう」
互いに挨拶を交わした。
「せっかく応援演説してもらったのに、負けてしまってすまないな」
「気にしなくていい。なんというか、残念だったな。でも、萩人はすごく頑張ってたと思うぞ」
朝陽は気を使っているようで、珍しく言葉に詰まっていた。
「ありがとう。あまり気を使わないでもいいよ、そこまで落ち込んでいないから」
「そうなのか」
「うん。なんか晴れやかな気分で、すごく気持ちがいい。革命を起こしたみたい。朝陽のおかげだよ、本当にありがとう」
僕はありがとうという言葉に強い思いを込めてそう言った。
「お礼を言われるのはむず痒いけど、努力して変わった萩人に謙遜はしたくないから、どういたしましてと言っておくよ」
朝陽は笑った。つられて、僕も。
気がつけば、かなり時間が経っており、僕達は席に着いた。
今日は時間が流れるのが異様に早かった。
瞬く間に授業が終わり、あっという間に昼休みがすぎ、気づいた時には放課後になっていた。
僕は学校が終わると、すぐにある場所へ向かった。
夕方だった。今日の夕陽は、懸命に雲の上を照らし続けていて、僕たちのことを忘れてしまったようだった。でも僕には、隠れているはずの夕陽が眩しくて、輝かしくて、とてもとても、尊い光に見えた。
暗くも明るい山央町をただ一人駆けていく。足は速くないけど、全て打ち砕くように駆け抜けてゆく。
周りの建物が、まるで生きているかのように視界から移り変わってゆき、山は押し固められた土のように動かなかった。その様子が、なんだかおかしいような気がして、息切れして少し苦しい中笑った。
すでに目的地は眼前にあった。
そこへ段々と近づいてきて、ある種の迫力を感じた。
山の麓にたどり着いた僕は、道から外れ、あの場所を目指して歩き始める。一歩一歩、着実に。
走り始めた頃から、時間はかなり経っていた。でも、焦りは感じなかった。
僕はあの場所を渇望し、高く昇って行った。今は本当に気分がよくて、以前のことなんて、覚えていなかった。
そして、ついに、望んだ所にたどり着いた。
ここだ。今はここが最高だ。
しばらく、夢中だった。
僕は空を見上げた。
濃い鉛色が広がっていた。
空高くにいるような感じがして、淡く力強い蜜柑色も見えた。
僕は目を瞑った。次をめざして。
広がる雲の上の晴れ。
それを見ることが出来るのは、自分の鎖を壊して、翼を創った人だけだ。
自分を壊すことを躊躇っていたら、見ることが出来ない。
お前は、自分をぶっ壊したいのか。
答えはもちろんイエスだ。
だってこんなにも美しい景色が見ることが出来るのだから。
僕は壊す。次は自力で。
自分も、大きな水の塊も。
「だめだったか」
本当に珍しく独り言を空に向かって投げた。
室内からじゃ見えないが、どうやら今は分厚い雲が大きな雷を鳴らしているらしい。
轟いている音はまるで僕を祝福をしているようだった。
僕は教室に向かって、邪魔になりそうな程に堂々と歩き始めた。
廊下はいつもより多くの人がいた。
そして教室の前につき、古びたドアを音を立てて開けた。
教室には眩しく光るランプが吊るされていた。
そして、光の先に朝陽がいた。
「おはよう」
「おはよう」
互いに挨拶を交わした。
「せっかく応援演説してもらったのに、負けてしまってすまないな」
「気にしなくていい。なんというか、残念だったな。でも、萩人はすごく頑張ってたと思うぞ」
朝陽は気を使っているようで、珍しく言葉に詰まっていた。
「ありがとう。あまり気を使わないでもいいよ、そこまで落ち込んでいないから」
「そうなのか」
「うん。なんか晴れやかな気分で、すごく気持ちがいい。革命を起こしたみたい。朝陽のおかげだよ、本当にありがとう」
僕はありがとうという言葉に強い思いを込めてそう言った。
「お礼を言われるのはむず痒いけど、努力して変わった萩人に謙遜はしたくないから、どういたしましてと言っておくよ」
朝陽は笑った。つられて、僕も。
気がつけば、かなり時間が経っており、僕達は席に着いた。
今日は時間が流れるのが異様に早かった。
瞬く間に授業が終わり、あっという間に昼休みがすぎ、気づいた時には放課後になっていた。
僕は学校が終わると、すぐにある場所へ向かった。
夕方だった。今日の夕陽は、懸命に雲の上を照らし続けていて、僕たちのことを忘れてしまったようだった。でも僕には、隠れているはずの夕陽が眩しくて、輝かしくて、とてもとても、尊い光に見えた。
暗くも明るい山央町をただ一人駆けていく。足は速くないけど、全て打ち砕くように駆け抜けてゆく。
周りの建物が、まるで生きているかのように視界から移り変わってゆき、山は押し固められた土のように動かなかった。その様子が、なんだかおかしいような気がして、息切れして少し苦しい中笑った。
すでに目的地は眼前にあった。
そこへ段々と近づいてきて、ある種の迫力を感じた。
山の麓にたどり着いた僕は、道から外れ、あの場所を目指して歩き始める。一歩一歩、着実に。
走り始めた頃から、時間はかなり経っていた。でも、焦りは感じなかった。
僕はあの場所を渇望し、高く昇って行った。今は本当に気分がよくて、以前のことなんて、覚えていなかった。
そして、ついに、望んだ所にたどり着いた。
ここだ。今はここが最高だ。
しばらく、夢中だった。
僕は空を見上げた。
濃い鉛色が広がっていた。
空高くにいるような感じがして、淡く力強い蜜柑色も見えた。
僕は目を瞑った。次をめざして。
広がる雲の上の晴れ。
それを見ることが出来るのは、自分の鎖を壊して、翼を創った人だけだ。
自分を壊すことを躊躇っていたら、見ることが出来ない。
お前は、自分をぶっ壊したいのか。
答えはもちろんイエスだ。
だってこんなにも美しい景色が見ることが出来るのだから。
僕は壊す。次は自力で。
自分も、大きな水の塊も。
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