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ジェームズトンプソンと深紅の男
深紅の男
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「フェリシア!」
あろうことか、レオンは叫び声を上げてしまった。深紅の仮面の男は、大して驚く様子もなく、暗闇から低い声を響かせる。
「騒がしいなぁ」
灰色のローブを翻らせ、こちらに顔を向ける。
「君たちは、トンプソンの弟子か。彼も私と同じ大物になったのだな」
感慨深そうに天を仰ぎ、一人笑い声をあげる。僕はそろそろ彼に近づき、攻撃のタイミングを見計らう。
「妙なことはよしてくれ。君らの背後に、部下が待機している。私が命ずれば、すぐに君たちを葬れるぞ」
顔を戻さぬまま、冷静なトーンで言われた。
「だが……君たちを傷つけることに関心はないんだ。むしろ、君たちの存在を快く受け入れようじゃないか。トンプソンの記憶と肉体は、私の計画に必要なのだよ。我らの最大の敵を倒す鍵──我ら共通の、巨大な敵だ。長いこと待っていたそいつを倒すチャンスが、彼なのだ」
「お前は、何者なんだ?」
レオンが歯をむき出しにして問うた。
「私は──ブラッドという」
ふいにジェームズがこちらを真顔で見つめていることに気づいた。あまり目立ってはいないが、顔に殴打の跡がいくつかある。教授は気絶していて、隣にいるレオンの憤りが、ひしひしと伝わってくる。彼はうなりながら、ブラッドという人物に向かって叫んだ。
「あんたの敵がだれであれ、決して許さないぞ!」
「許さない、という言葉を安易に使い過ぎではないか? 私が君たちに、一体どんな悪いことをしたというんだ?」
「ふざけるのも大概にしろ」
自分でも意外なことに、そう言い放ったのは、レオンではなく僕だった。僕は考えを巡らす前に、ブラッドに飛び掛かっていた。すぐさま、背後から多数の足音が響いてきた。
〈大丈夫──レオンが片付けてくれるだろう〉
根拠のない自信が脳内に蔓延る中、ブラッドの仮面に拳を突き出し、振るう。しかし、あろうことか、拳は彼の飾ったローブに触れることすらかなわなかった。腕をはたかれ、みぞおちに相手の手刀が迫っていた。すんでのところで、もう片方の拳で防御した。
「熱い少年だな、嫌いじゃない」
ブラッドは笑う。構える間もなく、重たい蹴りを胸部に入れられ、僕は地面に倒れ込んだ。そのとき初めて気がついたのだが、レオンは4人の護衛に銃を突き付けられ、息荒く手を上げている。
〈ここまでかッ──〉
突然、辺りにかなり聞き覚えのあるかん高い声が響いた。
「ブラッド、警察の部隊が迫っている!」
「リアム……か?」
心の中だけで考えるつもりが、思わず彼の名を呟いていた。
ブラッドが舌打ちする。
「警察にこの一件を信じ込ませたか……やるじゃないか」
ブラッドは意味ありげに僕、レオン、ジェームズを指さし、すぐに逸らした。
「仕方がない!」
ブラッドはふいに大声を上げた。
「さっきも言った通り、君たちを殺すつもりはない。ここは潔く撤退しよう」
護衛は皆、彼の言うことを疑う様子を見せず、レオンを突き離して船底から出ていった。
ブラッドはドアをくぐり、物惜しいとばかりにトンプソンをしげしげと見据えている。
「トンプソン、君が生きている限り、敵を倒す機会は残っている。また会うことになるだろう」
そして、僕とレオンを一瞥する。
「もちろん、君たちのことも忘れてはいないぞ。レオン・ペレス君、チャック・マーティン君」
ブラッドは扉を閉め、ガチッ、ズドンという音と共に、彼の姿が消えていった。
しばらく唖然として横たわっていた。数十秒ほどして、レオンが教授に駆け寄り、縄をほどくのが目に入った。
「ありがとね」
意識が薄い様子の彼女が、レオンに軽く抱きついた。彼の顔は真っ赤だ──良かったな、いい女性と関係を持てて。
ふらつきながら、しゃがんでトンプソンの拘束を解こうとした。
「ウアァッ……」
彼は痛々しげなうめき声を上げた。予想以上に怪我がひどい。
「今回で、確実に分かっただろう? 君たちは狙われている。もう後戻りは許されない」
「この期に及んで、よくそんなこと言えるな、あんた」
そう言い捨てて彼を助け起こした。
少しすると、外から扉を激しく叩く音がした。
「おうい、そこにいるのか?」
「君ら、リーパーを説得できたのか──感心だ。あのキザで人の話を無視する男に、言うことを聞かせるには、少々コツがいるんだ」
辛辣な表情で囁かれた。
「ブラッドの計画は、終わらない。彼の言う強大な敵が何者かは知らないが、そいつを倒すためならブラッドは手段を択ばないだろう」
「これからは常識の範囲で従うよ」と僕は無表情で誓った。
ジェームズが薄笑いを浮かべる。
「『常識の範囲内』か。ずいぶんと、卑怯な言葉だな」
まもなくドアが開き、暗い部屋に鮮やかな朝日が差し込んできた──
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます! ついに第二編「ジェームズ・トンプソンと深紅の男」完結です! いやぁ疲れた・・・けど「少年刑事レオンの冒険」シリーズとしてはまだ全然序盤なので、乞うご期待! いいね・お気に入り登録、お願いします!
あろうことか、レオンは叫び声を上げてしまった。深紅の仮面の男は、大して驚く様子もなく、暗闇から低い声を響かせる。
「騒がしいなぁ」
灰色のローブを翻らせ、こちらに顔を向ける。
「君たちは、トンプソンの弟子か。彼も私と同じ大物になったのだな」
感慨深そうに天を仰ぎ、一人笑い声をあげる。僕はそろそろ彼に近づき、攻撃のタイミングを見計らう。
「妙なことはよしてくれ。君らの背後に、部下が待機している。私が命ずれば、すぐに君たちを葬れるぞ」
顔を戻さぬまま、冷静なトーンで言われた。
「だが……君たちを傷つけることに関心はないんだ。むしろ、君たちの存在を快く受け入れようじゃないか。トンプソンの記憶と肉体は、私の計画に必要なのだよ。我らの最大の敵を倒す鍵──我ら共通の、巨大な敵だ。長いこと待っていたそいつを倒すチャンスが、彼なのだ」
「お前は、何者なんだ?」
レオンが歯をむき出しにして問うた。
「私は──ブラッドという」
ふいにジェームズがこちらを真顔で見つめていることに気づいた。あまり目立ってはいないが、顔に殴打の跡がいくつかある。教授は気絶していて、隣にいるレオンの憤りが、ひしひしと伝わってくる。彼はうなりながら、ブラッドという人物に向かって叫んだ。
「あんたの敵がだれであれ、決して許さないぞ!」
「許さない、という言葉を安易に使い過ぎではないか? 私が君たちに、一体どんな悪いことをしたというんだ?」
「ふざけるのも大概にしろ」
自分でも意外なことに、そう言い放ったのは、レオンではなく僕だった。僕は考えを巡らす前に、ブラッドに飛び掛かっていた。すぐさま、背後から多数の足音が響いてきた。
〈大丈夫──レオンが片付けてくれるだろう〉
根拠のない自信が脳内に蔓延る中、ブラッドの仮面に拳を突き出し、振るう。しかし、あろうことか、拳は彼の飾ったローブに触れることすらかなわなかった。腕をはたかれ、みぞおちに相手の手刀が迫っていた。すんでのところで、もう片方の拳で防御した。
「熱い少年だな、嫌いじゃない」
ブラッドは笑う。構える間もなく、重たい蹴りを胸部に入れられ、僕は地面に倒れ込んだ。そのとき初めて気がついたのだが、レオンは4人の護衛に銃を突き付けられ、息荒く手を上げている。
〈ここまでかッ──〉
突然、辺りにかなり聞き覚えのあるかん高い声が響いた。
「ブラッド、警察の部隊が迫っている!」
「リアム……か?」
心の中だけで考えるつもりが、思わず彼の名を呟いていた。
ブラッドが舌打ちする。
「警察にこの一件を信じ込ませたか……やるじゃないか」
ブラッドは意味ありげに僕、レオン、ジェームズを指さし、すぐに逸らした。
「仕方がない!」
ブラッドはふいに大声を上げた。
「さっきも言った通り、君たちを殺すつもりはない。ここは潔く撤退しよう」
護衛は皆、彼の言うことを疑う様子を見せず、レオンを突き離して船底から出ていった。
ブラッドはドアをくぐり、物惜しいとばかりにトンプソンをしげしげと見据えている。
「トンプソン、君が生きている限り、敵を倒す機会は残っている。また会うことになるだろう」
そして、僕とレオンを一瞥する。
「もちろん、君たちのことも忘れてはいないぞ。レオン・ペレス君、チャック・マーティン君」
ブラッドは扉を閉め、ガチッ、ズドンという音と共に、彼の姿が消えていった。
しばらく唖然として横たわっていた。数十秒ほどして、レオンが教授に駆け寄り、縄をほどくのが目に入った。
「ありがとね」
意識が薄い様子の彼女が、レオンに軽く抱きついた。彼の顔は真っ赤だ──良かったな、いい女性と関係を持てて。
ふらつきながら、しゃがんでトンプソンの拘束を解こうとした。
「ウアァッ……」
彼は痛々しげなうめき声を上げた。予想以上に怪我がひどい。
「今回で、確実に分かっただろう? 君たちは狙われている。もう後戻りは許されない」
「この期に及んで、よくそんなこと言えるな、あんた」
そう言い捨てて彼を助け起こした。
少しすると、外から扉を激しく叩く音がした。
「おうい、そこにいるのか?」
「君ら、リーパーを説得できたのか──感心だ。あのキザで人の話を無視する男に、言うことを聞かせるには、少々コツがいるんだ」
辛辣な表情で囁かれた。
「ブラッドの計画は、終わらない。彼の言う強大な敵が何者かは知らないが、そいつを倒すためならブラッドは手段を択ばないだろう」
「これからは常識の範囲で従うよ」と僕は無表情で誓った。
ジェームズが薄笑いを浮かべる。
「『常識の範囲内』か。ずいぶんと、卑怯な言葉だな」
まもなくドアが開き、暗い部屋に鮮やかな朝日が差し込んできた──
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます! ついに第二編「ジェームズ・トンプソンと深紅の男」完結です! いやぁ疲れた・・・けど「少年刑事レオンの冒険」シリーズとしてはまだ全然序盤なので、乞うご期待! いいね・お気に入り登録、お願いします!
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