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科学施設の陰謀
ジェームズ、謎の説教
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「まず、この依頼には主にチャックにとって都合が悪い点がある──どうやら、かなり長い間滞在する必要があるらしい。さらに言えば、途中の外出は断じて許されない」
そんな威圧的に言わなくても……
「なら、パス」
やはり乗り気になれない様子のチャックに、ジェームズがスッと迫り、細長い指を曲げて、額を指した。
「君は、負うべき責任を間違えている。自分の人生をふいにして、弟を育てる責任をがむしゃらに、何の考えもなく果たそうとしている。君は現状に甘んじて、自身はもちろんのこと、弟の未来を考えることを放棄している」
「な、なにふざけたことを言って──あんたに僕の何が分かる!」
「では聞くが、君は自分自身のことを知り尽くしているのか? 違うだろう。君は、僕と同じく人と恋愛をしない。僕はただ異性に興味がないだけだが、君は違う。仲良くなったのち、その人物を失うことを恐れているんだ!」
「話がずれまくってるぞ! なぜいま恋愛の話をするんだよ!」
俺が唖然として佇む中、ジェームズは感情を前面に出して口を開く。
「君は、他人に支配されている! 喪失を恐れて、苦痛かつ平凡な現実から脱し、幸福と冒険に満ちた世界へ行こうとしない。方法はいくらでもあるはずなのに、だ」
「僕の幸せは、今ある家族と平和に暮らすことだ!」
「その幸せというのは、今現在叶っているのか?」
チャックはふいに、度肝を抜かれたような目つきをした。地団太を踏もうと足を上げるが、大きく息を吸った後ゆっくりと降ろした。
「いい加減にしてくれ」
チャックは顔を染め、先ほどのリーパーよろしく足音荒く立ち去ろうとした。
「職務放棄か、やはり子供だな」
チャックは険しい顔で振り返り、ジェームズをにらんだ。
「僕は滞在なんか、しない。もっと気軽な仕事はないんですかね!」
「ハッ、君は選り好みできる身分じゃないだろう」
すかさずジェームズが嫌みたらしく返した。チャックは今にも彼に殴りかかりそうだ。
「──オーケー、百歩譲ってそこに僕が行ったとして、それなりの報酬はもらえるんでしょうね?」
「恐らくな。今回の役どころは、護衛というよりスパイ──無論、開発センターに対するものではない。陰謀を企むスパイに対するスパイだ。基本悪い扱いは受けないし、何よりフェリシアが適当に仲介してくれるだろう」
「考える時間をくれませんか……」
「いいだろう。出発は二日後だ──ゆっくり策を練るといい」
チャックは息荒く扉を超えようとするが、ジェームズが手をスルリと伸ばし、彼の肩を掴んだ。
「まったく。今も勤務時間だぞ」
探偵助手としての通常勤務は、これが初めてだ。ジェームズはときおり謎の書類を印刷し、整頓している。俺の仕事はというと、「掃除」。この一言に限る。オフィス以外で唯一出入りを許されているトイレの床や壁を、モップでこする──カカオ豆色の床を、これまたモップで黙々とこする──チャックも同じことを近くでしていて、まるっきりバカみたいだ。
そんなくだらないことを延々と続け、就業時間目前になったとき、ジェームズが前触れもなく言い出した。
「訓練をするぞ」
「『何だって?』」
チャックと共に疑念の表情を浮かべた。
「君たちを勧誘したとき『身を守る術を教えられる』と言っただろう」
そう語りながら、ジェームズは顎をクイッとひねり、オフィスから出ていくよう示した。
廊下では小さなシャンデリアが揺れている。ジェームズはオフィス隣の鉄製扉を開けた。重々しい摩擦音がし、その先の光景に俺たちは仰天した。
〈これ、自宅ジムじゃないか!〉
その部屋はかなり広く、手前の方には、プラ製の箱に詰め込まれたダンベル。さらに──この手の器具には詳しくないので、名前も用途もさっぱり分からないが──鉄棒のようなもの、ランニングマシン、バネのついた引き延ばして使うあれ──あとは何とか・グリップ。奥の方にはネットで仕切られ、マットの敷かれた謎の空間がある。
「ここの器具はいつでも好きに活用してくれて構わない。ただし、今日君たちにやってもらうのは、筋トレではない──それよりも遥かにためになり、爽快感のある訓練──僕との模擬戦闘だ」
あとがき
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そんな威圧的に言わなくても……
「なら、パス」
やはり乗り気になれない様子のチャックに、ジェームズがスッと迫り、細長い指を曲げて、額を指した。
「君は、負うべき責任を間違えている。自分の人生をふいにして、弟を育てる責任をがむしゃらに、何の考えもなく果たそうとしている。君は現状に甘んじて、自身はもちろんのこと、弟の未来を考えることを放棄している」
「な、なにふざけたことを言って──あんたに僕の何が分かる!」
「では聞くが、君は自分自身のことを知り尽くしているのか? 違うだろう。君は、僕と同じく人と恋愛をしない。僕はただ異性に興味がないだけだが、君は違う。仲良くなったのち、その人物を失うことを恐れているんだ!」
「話がずれまくってるぞ! なぜいま恋愛の話をするんだよ!」
俺が唖然として佇む中、ジェームズは感情を前面に出して口を開く。
「君は、他人に支配されている! 喪失を恐れて、苦痛かつ平凡な現実から脱し、幸福と冒険に満ちた世界へ行こうとしない。方法はいくらでもあるはずなのに、だ」
「僕の幸せは、今ある家族と平和に暮らすことだ!」
「その幸せというのは、今現在叶っているのか?」
チャックはふいに、度肝を抜かれたような目つきをした。地団太を踏もうと足を上げるが、大きく息を吸った後ゆっくりと降ろした。
「いい加減にしてくれ」
チャックは顔を染め、先ほどのリーパーよろしく足音荒く立ち去ろうとした。
「職務放棄か、やはり子供だな」
チャックは険しい顔で振り返り、ジェームズをにらんだ。
「僕は滞在なんか、しない。もっと気軽な仕事はないんですかね!」
「ハッ、君は選り好みできる身分じゃないだろう」
すかさずジェームズが嫌みたらしく返した。チャックは今にも彼に殴りかかりそうだ。
「──オーケー、百歩譲ってそこに僕が行ったとして、それなりの報酬はもらえるんでしょうね?」
「恐らくな。今回の役どころは、護衛というよりスパイ──無論、開発センターに対するものではない。陰謀を企むスパイに対するスパイだ。基本悪い扱いは受けないし、何よりフェリシアが適当に仲介してくれるだろう」
「考える時間をくれませんか……」
「いいだろう。出発は二日後だ──ゆっくり策を練るといい」
チャックは息荒く扉を超えようとするが、ジェームズが手をスルリと伸ばし、彼の肩を掴んだ。
「まったく。今も勤務時間だぞ」
探偵助手としての通常勤務は、これが初めてだ。ジェームズはときおり謎の書類を印刷し、整頓している。俺の仕事はというと、「掃除」。この一言に限る。オフィス以外で唯一出入りを許されているトイレの床や壁を、モップでこする──カカオ豆色の床を、これまたモップで黙々とこする──チャックも同じことを近くでしていて、まるっきりバカみたいだ。
そんなくだらないことを延々と続け、就業時間目前になったとき、ジェームズが前触れもなく言い出した。
「訓練をするぞ」
「『何だって?』」
チャックと共に疑念の表情を浮かべた。
「君たちを勧誘したとき『身を守る術を教えられる』と言っただろう」
そう語りながら、ジェームズは顎をクイッとひねり、オフィスから出ていくよう示した。
廊下では小さなシャンデリアが揺れている。ジェームズはオフィス隣の鉄製扉を開けた。重々しい摩擦音がし、その先の光景に俺たちは仰天した。
〈これ、自宅ジムじゃないか!〉
その部屋はかなり広く、手前の方には、プラ製の箱に詰め込まれたダンベル。さらに──この手の器具には詳しくないので、名前も用途もさっぱり分からないが──鉄棒のようなもの、ランニングマシン、バネのついた引き延ばして使うあれ──あとは何とか・グリップ。奥の方にはネットで仕切られ、マットの敷かれた謎の空間がある。
「ここの器具はいつでも好きに活用してくれて構わない。ただし、今日君たちにやってもらうのは、筋トレではない──それよりも遥かにためになり、爽快感のある訓練──僕との模擬戦闘だ」
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