2 / 15
亡霊の誕生
しおりを挟む
MiG-29から地上に降り立ったばかりの四人の元へ、伝令が走る。
「シュヴェーツィ中尉、コヴァーリ少尉、ボーンダル大尉及びトカーチ少佐は至急司令部へ出頭のこと」
伝令はそう言うと、四人を促すようにして基地の中へと入っていった。
「何だろうな」
「さあ」
「昇給ですかね」
「んな訳あるか、非常時だぞ」
「確実にそんな呑気な話をしてる場合ではないでしょうね。今この瞬間にも死ぬかもしれないのに」
そんな雑談をしながら司令部へと駆け足で向かう四人は、ウクライナ空軍の参謀に出迎えられた。
「君たちのうち一人の機体が撮影され、市民がそれに『キエフの亡霊、敵機六機を撃墜』とコメントをつけて拡散しているようだ。幸い、撃墜機数は確認済み戦果と一致している。つまり、その『キエフの亡霊』は四十年ぶりのエースパイロットだ」
「四機の戦果すべてが一機の戦果になっているというわけですか」
「そうだ。すでに世界的に拡散されている。これを利用して、我々は反撃のための烽火を高く上げなければならない。すなわち、六機撃墜を『キエフの亡霊』の単独戦果として発表するのだ」
「つまり、プロパガンダ戦略の一環というわけですか」
「そうだ。君たちは今後『キエフの亡霊』として、先ほどの戦闘と同様の戦術で戦い抜いてくれ。それから『キエフの亡霊』はすでに反撃の嚆矢を放った存在だ。つまり、今後は攻撃を受ける可能性が高い。であるから、なるべく攻撃を受けないように防空システムをスタンバイし、各機はキエフ西一〇〇キロの堅牢な地下設備に移送する。そして、『キエフの亡霊』というコードネームを小隊名として使用し、今後も引き続き防空任務に当たってもらう」
「了解」
「それからキエフ攻略が始まったら君たちには低空飛行で動員市民兵を勇気づけつつ防衛戦闘を支援してもらうことになる。いいな」
「はい」
「では、移送にかかってくれ」
「了解」
四人は整備及び弾薬の再装填を済ませたMiG-29に再び乗り込むと、整備兵たちに見送られて飛行場を飛び立った。トカーチ少佐は低空飛行するMiG-29のコックピットで不気味なほど静かなキエフの空を警戒するように見回す。キエフの空はだんだんと曇りはじめ、雲が日の出から五時間の明るい太陽を隠していった。
「あの日もこんな曇り空だったな」
トカーチ少佐がそんなことを思い出したのは、地下設備の入り口に到着したときだった。トカーチ少佐は2014年のあの日、警戒任務を帯びて同じような空の下を飛んでいたのだ。あの日とは比べ物にならない危機が迫る今そんなことを思い出す自分に「比べ物にならない祖国の危機だぞ」と気合を入れ、トカーチ少佐は地下設備に格納された機体を降りた。冬の空気よりも一段と冷めた空気が、ライトに照らされて鈍く光っていた。午後になったばかりのキエフ市街に、再びサイレンが鳴り響く。しばらくして未明に落とされたクラスター爆弾の不発弾となっていた子爆弾が爆発したのを攻撃と見間違えただけだったという報告が入り、サイレンは止んだ。
「この静けさはあと何時間続くんだろう」
トカーチ少佐は静寂が訓練と違って予告も何もない耳をつんざくばかりの砲声とミサイルの爆発音によって破られる様を何度も見てきた。その記憶は恐ろしいばかりの現状をさらに悪い方へと持って行かれてしまう様を彼に容易に想像させた。
「チェルノブイリが制圧された。職員は人質にされている可能性がある」
司令部員がそう話しているのを聞いたボーンダル大尉がトカーチ少佐に尋ねる。
「大丈夫ですかね」
「さあな。いまできるのは祈ることと捨て身の戦いをすることだけだ」
トカーチ少佐はそう答えてうつむき、キエフ市街の方角を仰いだ。
「シュヴェーツィ中尉、コヴァーリ少尉、ボーンダル大尉及びトカーチ少佐は至急司令部へ出頭のこと」
伝令はそう言うと、四人を促すようにして基地の中へと入っていった。
「何だろうな」
「さあ」
「昇給ですかね」
「んな訳あるか、非常時だぞ」
「確実にそんな呑気な話をしてる場合ではないでしょうね。今この瞬間にも死ぬかもしれないのに」
そんな雑談をしながら司令部へと駆け足で向かう四人は、ウクライナ空軍の参謀に出迎えられた。
「君たちのうち一人の機体が撮影され、市民がそれに『キエフの亡霊、敵機六機を撃墜』とコメントをつけて拡散しているようだ。幸い、撃墜機数は確認済み戦果と一致している。つまり、その『キエフの亡霊』は四十年ぶりのエースパイロットだ」
「四機の戦果すべてが一機の戦果になっているというわけですか」
「そうだ。すでに世界的に拡散されている。これを利用して、我々は反撃のための烽火を高く上げなければならない。すなわち、六機撃墜を『キエフの亡霊』の単独戦果として発表するのだ」
「つまり、プロパガンダ戦略の一環というわけですか」
「そうだ。君たちは今後『キエフの亡霊』として、先ほどの戦闘と同様の戦術で戦い抜いてくれ。それから『キエフの亡霊』はすでに反撃の嚆矢を放った存在だ。つまり、今後は攻撃を受ける可能性が高い。であるから、なるべく攻撃を受けないように防空システムをスタンバイし、各機はキエフ西一〇〇キロの堅牢な地下設備に移送する。そして、『キエフの亡霊』というコードネームを小隊名として使用し、今後も引き続き防空任務に当たってもらう」
「了解」
「それからキエフ攻略が始まったら君たちには低空飛行で動員市民兵を勇気づけつつ防衛戦闘を支援してもらうことになる。いいな」
「はい」
「では、移送にかかってくれ」
「了解」
四人は整備及び弾薬の再装填を済ませたMiG-29に再び乗り込むと、整備兵たちに見送られて飛行場を飛び立った。トカーチ少佐は低空飛行するMiG-29のコックピットで不気味なほど静かなキエフの空を警戒するように見回す。キエフの空はだんだんと曇りはじめ、雲が日の出から五時間の明るい太陽を隠していった。
「あの日もこんな曇り空だったな」
トカーチ少佐がそんなことを思い出したのは、地下設備の入り口に到着したときだった。トカーチ少佐は2014年のあの日、警戒任務を帯びて同じような空の下を飛んでいたのだ。あの日とは比べ物にならない危機が迫る今そんなことを思い出す自分に「比べ物にならない祖国の危機だぞ」と気合を入れ、トカーチ少佐は地下設備に格納された機体を降りた。冬の空気よりも一段と冷めた空気が、ライトに照らされて鈍く光っていた。午後になったばかりのキエフ市街に、再びサイレンが鳴り響く。しばらくして未明に落とされたクラスター爆弾の不発弾となっていた子爆弾が爆発したのを攻撃と見間違えただけだったという報告が入り、サイレンは止んだ。
「この静けさはあと何時間続くんだろう」
トカーチ少佐は静寂が訓練と違って予告も何もない耳をつんざくばかりの砲声とミサイルの爆発音によって破られる様を何度も見てきた。その記憶は恐ろしいばかりの現状をさらに悪い方へと持って行かれてしまう様を彼に容易に想像させた。
「チェルノブイリが制圧された。職員は人質にされている可能性がある」
司令部員がそう話しているのを聞いたボーンダル大尉がトカーチ少佐に尋ねる。
「大丈夫ですかね」
「さあな。いまできるのは祈ることと捨て身の戦いをすることだけだ」
トカーチ少佐はそう答えてうつむき、キエフ市街の方角を仰いだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる