キエフの亡霊――Phantom of Kyiv――

古井論理

文字の大きさ
6 / 15

絶対防衛線

しおりを挟む
「キエフは今日午前二時に陥落した模様。大統領は安否不明、ロシア側からも逮捕あるいは殺害の情報は出されていない」
 そんな情報がキエフから西一〇〇キロにあり『キエフの亡霊』がいる基地に届いたのは、二七日の深夜二時三十分であった。
「キエフ陥落……となるとここも危ないな」
「『キエフの亡霊』を含む全部隊をさらに西へ移動させましょう。なんとか地上のロシア軍部隊を攻撃できて、敵の侵攻を食い止められる位置に下げて……」
「無駄だ。ここにいても五〇〇キロ下がって西側の国境付近に行っても状況は変わらないだろう」
「なぜです」
「キエフが落ちたということは、ロシア軍はここに攻撃を加えられるということだ。それは認めよう。だが、我々がここから退いてしまえば我々が退いた位置のすぐ手前までロシア軍は真空地帯を進んでくるだろう。今ロシア軍が我々の指揮系統を寸断しているのは知っていると思うが、この基地周辺にはウクライナ軍の機甲部隊がいる。その地上戦力を、機甲部隊を我々が守らなければ機甲部隊は瞬く間に潰され、すぐに我々が撤退する基地にロシア軍が迫る。だから、我々は砦を守る騎士としてここを死守しなければならない。まだ抵抗できる戦力があって、ウクライナ軍人になれる人が根絶やしにされていない今の状況を死守しなければ、ウクライナは滅ぶ。おそらくウクライナの未来は、我々の双肩にかかっているのだ」
「……わかりました」
「よし、それでは敵の攻撃に備えてありったけの迎撃ミサイルとフレア発射機を用意せよ!それからレーダー周辺の山岳に見張兵を立ててミサイルや攻撃機が接近していないか見張らせろ。歩兵師団に見張兵の護衛を要請する」
「はい」
 レーダーは三時五〇分に、ロシア軍の空挺部隊を乗せているであろう大型輸送機十機をキャッチした。基地には警報が鳴り、迎撃に第三小隊のMiG-29四機が出撃する。
「輸送機を捕捉、撃墜する」
 MiG-29四機は一斉に機関砲を射撃し、まず四機の輸送機を炎上させた。敵わぬとみて輸送機は逃亡しようとするが、MiG-29の機関砲弾が命中し次々と輸送機は空の藻屑と消えていく。輸送機を全て撃墜した第三小隊のレーダーが捉えたのは、ロシア軍のSu-35戦闘機一個小隊四機だった。これまでのSu-27よりも格上の、高機動機である。
「まずい!」
 第三小隊長が叫んだのと機上レーダーがミサイルをキャッチするのは同時だった。電波妨害装置を起動して曲芸飛行を行いつつなんとか回避したMiG-29に、今度はSu-35が襲いかかる。地上から対空砲が撃ちまくるが、Su-35がMiG-29までの距離を詰めたため射撃は中断せざるを得なかった。MiG-29はSu-35をかわしながら逃げる。追うSu-35がミサイルの照準を定めようとしたそのとき、突如暗闇を切り裂いた銃弾がSu-35を立て続けに三機射貫いた。一機はなんとかコブラ機動を行ってかわそうとしたが、回避に集中している隙に追われていたMiG-29が放ったミサイルによって撃墜された。接近していたMi-28攻撃ヘリコプターはなおも距離を詰め、レーダー基地を叩こうとする。と、トカーチ少佐が通常無線をオンにして叫んだ。
「ウクライナ空軍MiG-29黄色ゾーフティ中隊一三番機よりロシア全軍に告ぐ。キエフの亡霊はウクライナ空軍に健在なり。繰り返す、キエフの亡霊はウクライナ空軍に健在なり」
 もう一度「繰り返す、キエフの亡霊は……」とトカーチ少佐が言おうとしたところで、ロシア軍のMi-28は一八〇度回頭して後退していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...