キエフの亡霊――Phantom of Kyiv――

古井論理

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キエフの亡霊

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 亡霊ファントムは空を翔け、敵機を狩っては屠る。隣にいたはずの戦友ともは知らぬ間に消えていた。自身も幾多の弾を受け、キャノピーは血に濡れている。垂直尾翼は欠けた。フラップは脱落しかけ、エンジンは黒煙を吹いている。並のパイロットならとっくに墜ちていてもおかしくない。その瀕死の姿、この今にも戦場の霧となって消えそうな亡霊こそ、ただ一つだけ一直線に立ち昇る祖国奪還の希望のろし。祖国の祈りの生み出した幻想が具現となって空を征く。キエフの亡霊は、不死鳥や幽霊のごとき不死身のエースはまだ飛んでいる。
「『キエフの亡霊』だ!」
 「キエフの亡霊」と伝えられていた識別番号をつけたウクライナ空軍のMiG-29が奮戦しているのが雲間から見え、地上でゲリラ戦を続けるキエフ守備隊だった兵士たちは歓声を上げた。ロシア兵に死力を尽くして反撃する彼らは、ロシア兵を圧倒する。キエフに突入してきたウクライナ装甲旅団もロシア軍相手に奮戦した。
 ロシア軍Su-35戦闘機二機、MiG-29戦闘機一機に対しただ一機残るウクライナ空軍のMiG-29戦闘機は、ミサイルを撃ち尽くし残る弾薬も八六発の機関砲弾のみの旧式機は、戦場でまだ敵を狩る。その左翼側から火箭が吐き出され、ミサイルを発射したばかりのSu-35の一機を撃ち落とした。電子パルスが荒れる衝撃波とともに戦場を揺する。核戦争が現実のものになった、という可能性を知らせるその電子の風にミサイルは狂い、空中で爆発した。そしてMiG-29は単機でSu-35一機のコックピットに一発の機関砲弾を撃ち込んだ。Su-35は制御を失い、地面に突っ込む。残るロシア軍のMiG-29を追うウクライナ空軍のMiG-29は、ゆっくりと照準を敵に合わせた。空中で光る火箭の最後の四発が敵を貫き、最後に勝者になったMiG-29はキエフの西へ去った。

「本日未明、ウクライナ軍の攻撃を受けキエフ東二百キロに墜落したロシア軍の爆撃機が搭載していた二百キロトンの戦術核爆弾二発が爆発、ロシア軍地上部隊本隊が壊滅した模様です。この爆発は両軍のいずれかにより意図的に引き起こされたものではなく墜落の衝撃で爆弾本体が破損して引き起こされたものとのことです。このことについてアメリカのバイデン大統領は……」
 ニュースが流れる中、NATOの即応部隊がキエフ奪還を開始。ウクライナのゲリラ部隊や機甲部隊とともに二日後となる三月九日にはキエフを解放し、ロシア国内で発生した戦闘機パイロットを中心とするクーデターによりプーチン政権は瓦解した。そして、ウクライナはロシアに勝利した。戦闘が第三次世界大戦に発展しなかったことを安堵する世界の人々の脳裡には、全てを守り、世界の終焉を防いだウクライナの不死鳥、キエフの亡霊の名はもはやなかった。
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