7 / 12
7 ルイ視点
しおりを挟むベイクが部屋を出て行く時に言った。
「よく見て下さい。見えない何かをきっと探し出せます。私はそう信じています」
と。
俺は彼女を観察した。微笑みは俺を不安にさせない為かもしれない。エマの事も嘘ではなかった。ベイクも同じ事を言った。彼女は信じられないがベイクは信じられる。時に優しく時に厳しいベイクだが嘘はつかない。それは俺が一番良く分かってる。
なら彼女が本当に俺の妻なのか?愛していないのにか?
確かに政略結婚なら愛はない。だがそれでも愛を育み過ごしたはずだ。何故何も思わない。愛しいと思わなくても好ましいと思っていてもおかしくないはずだ。
それが忘れた記憶なのか?
庭を散歩しようと俺は車椅子を自分で動かす。足は動かなくても手や腕は動く。それでも途中疲れ止まろうとしたら少し後ろを付いてくる彼女が当たり前のように車椅子を押してくれた。
俺への気遣いなのか?
庭に出てみると車椅子が通れるように板が敷いてあった。その上を通り庭の散歩をしようとした時、庭で遊ぶ二人の子供が目に入った。
子供達を見た時、何故か目を奪われた。男の子は俺の子供の頃に似ていた。髪の色、雰囲気、なんだろう言葉で表せられない何かだ。
一緒にいるのは男の子の妹だろう、まだたどたどしい足取りを見ているとこっちまでハラハラしてしまう。それでも女の子の笑顔を見ていると心が温かくなる。あの笑顔をいつまでも見ていたい、そう思った。
男の子の後ろに隠れる女の子、彼女を母様と呼び話しかけている。女の子が恥ずかしそうに俺に花をくれた。
「おーちゃに」
おじさん、間違えではない。この子から見ればおじさんだ。だが心がズキリとした。
子供達はまた走り回って遊んでいる。その姿を見ている時に、
「お前の子供達か?」
そう聞いた。
「父親は?」
そう聞いた時、彼女から微笑みが消え、遠い目をしていた。その顔が寂しそうな辛そうな、おもわず抱きしめたくなった。
「今はちょっと…」
きっと彼女の夫は亡くなった。俺はきっと一人で子供達を育てる彼女を憐れみ妻にしたんだろう。エマと結婚出来なくなった俺は自暴自棄になっていたんだと思う。妻にするのはもう誰でも良い、なら未亡人の彼女を助けるつもりで妻にしたのかもしれない。子供達を見て目が奪われたのは俺はきっと子供達を自分の子のように可愛がっていたからだろう。
記憶はない。それでも心が覚えていた。きっとそうだ。
この光景も怪我をする前はいつもの日常だったのかもしれない。庭で遊ぶ子供達を眺め、一緒に遊び少しずつ親子になっていたのかもしれない。
こんなに可愛い子達だぞ。ロイスと呼んでいた男の子の無邪気に走り回る姿は俺の幼い頃を思い出す。ロリーナと呼んだ女の子の笑顔を見て癒やされる。
なんて可愛い子達なんだ。
子供達と一緒にお茶をした。俺の大好きなチョコ入りのクッキーとバタークッキーだった。色々なクッキーを食べたがチョコ入りのクッキーに勝るものはない。
ロイスが手を伸ばしたのもチョコ入りクッキー。
俺達は似ていたのかもしれない。いや、もしかしたら俺を父親と慕ってくれて同じクッキーを好きになってくれたのかもしれない。
俺はロイスの手にクッキーを持たせた。
こうして俺はロイスに俺の好きなクッキーを渡し一緒に食べていたんだろう。記憶はないが父親らしい事をしたい。
剣の稽古を一緒にやる。それも父親らしく俺が教えてやらないとな。この足では騎士にはなれないが、元騎士として教えてやれる事は沢山ある。基礎、日々の鍛錬、剣を振り剣を交える。それが父親としての役目だ。
愚図るロリーナの声にロリーナを見た。
その時俺はドクンと胸が高鳴った。
木漏れ日を浴び、ロリーナを抱っこし寝かしつける彼女の姿。その姿に目を奪われた。
綺麗だ
まるで女神のように美しい
ロリーナに向ける顔は、慈しみ優しい顔だった。優しく笑いかけるその顔に俺は惹きつけられた。
ロリーナの寝顔を見た時、可愛いと思った。おもわず頭を撫で頬を撫でた。この子の寝顔を見た時、この子には憂いなく育ってほしい、そう思った。
ロイスと二人きりで剣の稽古をしていたら突然ロイスが俯き、
「ぼく、ひとりでけいこする」
と言ってロイスが走って行った。俺はロイスの後ろ姿を見つめた。どこか寂しそうな悲しそうな顔をしたロイスを追いかけて抱きしめてあげたい、抱きしめないといけない、そう思った。この足さえ動けば直ぐに走って追いかけた。
この足さえ…、この足さえ動けば…。
俺はロイスにあんな顔をさせたかった訳じゃない。ロイスには笑顔でいてほしい。いつも笑っていてほしい。俺の子が産まれたらロイスみたいな子になるんだろうか。ロイスは俺の髪と目と同じ色だ。だからかロイスが我が子のように思えてくる。
きっと俺はリリーの亡くなった夫と髪と目の色が一緒なんだろう。だからリリーは俺と結婚したのかもしれない。夫の面影を探して。
俺は亡くなった夫に嫉妬した。俺には作った微笑みしか見せてくれない。ロリーナに見せた微笑みがリリーの本当の微笑みなんだろう。その微笑みを亡くなった夫は向けられていた。いつまでもリリーの心を離さない亡くなった夫に俺は嫉妬した。
そしてロイスは亡くなった夫にそっくりなんだろう。
俺は記憶をなくした。それでもロイスとロリーナの父になりたい。もう一度父として築いていきたい。そして彼女の、リリーの夫になり支えたい。
俺は心からそう思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
565
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる