悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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79 隠し通す真実

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立ち上がったジェイデンはマックスを呼んだ。


「マックス運んでくれ」


ジェイデンの声にマックスが運んできたもの。


「後、一人ずつ健康状態を診察してもらう」


温かいスープと肉を挟んだパン。


「私のパンはコナーに渡して」

「リリーアンヌも食べないと」

「夕食はもう食べたもの。私はスープだけで十分だわ」

「牢屋の食事なんて食事とは言えないだろ」

「お腹は満たされるわ」


ただ一日座っているだけ。お腹は空かない。


「妃殿下、少し診察をします」


元ジェイデンの主治医で現グレイソンの主治医のトムソン。


「私より先にコナーを診てくれない?コナーは怪我をしているの」

「分かりました」


王宮へ戻るまでの間は塗り薬や包帯を交換していたけど、牢屋に入りそれもない。お兄さん馬に乗り王宮まで来たから安静にもしていない。傷が塞がっていると良いけど。

私は温かいスープを一口飲んだ。温かいスープは体を温めてくれる。牢屋で出されるスープは冷たく体が冷えていくのが分かる。

牢屋に入って5日。まだ拷問は始まっていない。きっとこれから『なぜ子を殺した』と拷問を受けると思う。タイラー達は『なぜ手を貸した』かしら。


トムソンはコナーを診察し包帯を替えている。ボビー、ミーナやマイラ、タイラーを診察し私の牢屋の中に入ってきた。


「妃殿下、食事は取れていますか」

「ええ」

「疲れなどは」

「一日座っているから少し足が痛いくらいよ」

「同じ体勢は良くありません。横に寝転がりながら体勢をこまめに変えて下さい」

「分かったわ」

「この中を歩いて体を動かすのも良いと思います」

「ええ、これからは気をつけるわ」

「では少し体に触れます。横になって頂いてもよろしいですか」


私は寝転がり、トムソンは手や足に触れた。


「膝は痛くありませんか」

「膝は大丈夫よ」

「少し足が赤くなっています。やはり同じ体勢はやめて下さい。

妃殿下、少しお腹に触れます」


トムソンは私のお腹に触れた。


「やはり…」


その声に私はトムソンと目が合った。牢屋に入り灰色の薄手のワンピースに着替えた。ドレスとは違い薄手の布、寝転がれば少しだけ膨らんだお腹が分かる。

私はトムソンの手を握り顔を横に振った。


「妃殿下!」


私はトムソンを見つめて顔を横に振った。


「ですが!」

「どうしたトムソン」

「ジェイデン殿下、」


私はトムソンの手をギュッと握った。


「いえ、何でもありません」


トムソンは誰にも聞こえないように私の耳元近くで小声で話してきた。


「いつお気づきに」

「少し前よ」

「陛下の、子、ですか?それとも…」

「アルバートとの子よ。その理由は言いたくないわ」

「なら、尚更、」

「良いの、これで良いの」


私はお腹を撫でた。


街で医師の診察を受けた時、


『馬に乗り剣を振ったと聞きましたが』

『はい』

『貴女は母親の自覚がないのか!』

『え?』

『貴女のお腹には子が宿っています。もしかして気付いていなかったんですか?』

『元々月のものも不順でした。それに、その事を忘れるくらい毎日必死でしたから…』

『はあぁ、これからは自覚して下さい。それにしてもこの子は強い子だ。必死に貴女から離れないとしがみついていたんでしょう。馬に乗り剣を振る、普通なら流れていてもおかしくなかった。それでもこの子は貴女のお腹で育っています。

大事にして下さい。貴女の子です』


この時初めて知った。

あの夜に出来た子。もう少し早く、ナーシャ様を側に置く前に出来ていたら…、何度も思った。

どうして今なの…


アルバートに言うか、それとも黙っているか、王宮に着くまで毎日考えた。

今更私との間に子が出来てもアルバートは喜ばない。それに私はナーシャ様と間違えられただけ。アルバートの中では私とは性交をした覚えもないはず。

アルバートが自分の子だと認める訳がない


それでもこの子の命だけは護りたかった。

だからアルバートに話そうと決めた。それでもアルバートは私の話を聞く気はなかった。

あの謁見の間の扉が閉まった時、私はこの子の事を隠す事を決めた。そして誰にも知られず闇に葬る事を決めた。

私と一緒にこの世を去ろう

と……。

真実を知っているのは私とトムソンだけ。
トムソンは医師。患者の意思を尊重する。


「妃殿下…」


トムソンはお腹の上に置いていた私の手に手を重ねた。


「これは私の胸に、そうお望みなのですね」

「ええ、ごめんなさい」

「神よ、お導きを、どうか救えぬ命に御慈悲を与えて下さい……。我の主よ、どうか慈しみ、お迎え下さい…」


トムソンの辛い顔。

男児か女児かは分からない。それでも王の子。次期王になるかもしれない子。

私は本当に王の子を殺す事になる。

自分のお腹に宿った、私の子。

本来なら皆が待ち望み祝福されるはずの子。もう少し早ければ…、それでも神が与えたのは今。

これは残酷な罰か、

共に旅立つ者を与えた慈悲か、

それともその両方か、


最後に与えられた親子の時間。今はその時間を大切にしよう…



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