悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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89 終結

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国王の首を落としたからと皇帝の気が晴れる訳ではなかった。

皇帝は笑いながら残った騎士達を斬っていく。


血に飢えた獣、その姿はまさしく悪魔。返り血を浴び、それでも笑いながら剣を振る。黒い髪、黒い瞳、黒い服、黒い悪魔の由縁だ。

帝国の騎士達は『后の仇だ』と士気を高めた。王宮にいる騎士達、貴族達を男性女性関係なく斬っていった。

皇帝のマント、それは婚姻式で皇后に纏わせるマント。皇帝が妻と認めた、それを意味する。それが例え亡骸でも皇帝が妻と認めた以上、帝国の騎士達は亡骸を『皇后』と認めた。

我等の母、皇后を死に追いやった者達へ仇討ち、それが帝国騎士達の使命になった。

敵には容赦はしない、それが帝国騎士の誇り。



王宮はあっという間に帝国の手に落ちた。



皇帝が国王を裁いている間、違う所では、


ある男性は己の両親と妻の両親を殺した。


「ローレン、良かった。ここから逃げるのを手伝ってくれ」

「私が?なぜ?」

「なぜだと?それは勿論私達がお前の親だからだ」

「私には両親はいません。私の両親は私がお仕えしこの身を盾にしてでも護る姫君を裏切り死にました」

「ま、待て!」


騎士は己の両親、妻の両親を斬りつけた。騎士の胸には帝国の紋章が付けられていた。


そしてある者は、


「父上、王族の隠し通路で何をしているんです」

「イーサン、良い所に居た。私を護衛しろ」

「護衛…、まぁいいでしょう。ですが王はまだ宴会場にいます。王の元へ向かいましょう」

「あそこは駄目だ。少し落ち着くまで私は身を隠す。それにこれからのこの国の王は私だ。あれはもう用済みだ。馬鹿の首は帝国にくれてやる。

イーサン、お前を王直属の騎士に戻してやる。お前は息子として私を護る盾になるんだ」

「そうですか」


騎士は諸悪の根源の己の父の首を落とした。騎士の腰には紫色の布が巻かれていた。


「妃殿下、父は、この男は私利私欲に溺れた悪魔。この男を生かせておけばこの世の破滅になったでしょう。ですがこれからの世はこれで明るくなります。

妃殿下、申し訳ありません。私もお供致します。そしてあの世で貴女にお詫び致します。貴女を排除しようと手を貸した事、お詫び致します。ですが、貴女の死を望んだ事は一度もありません。

妃殿下、あの世で貴女に会える事を…」


騎士は己で己の腹を刺し、その手には紫色の布を握りしめ一筋の涙を流し息絶えた。


王宮は血の雨が降り注ぎ俺の祖国は一夜で帝国の属国となった。





2ヶ月後の夕方、


「皇帝陛下」


領地を回って最後に湖に立ち寄った際、皇帝陛下が湖を眺め立っていた。


「お主がリリーアンヌから引き継いだ者か」

「はい」

「確か湖は干からびていたはずだが」

「はい、リリーアンヌ様がお亡くなりになった日からこのように」

「そうか」

「あの、少しお待ち頂けますか?どうしても皇帝陛下に会わせたい者がおります」


俺は急いでルシーを呼びに行き、ルシーを抱え湖に戻った。


「とうしゅさま、このひとがおにいさま?」

「そうだよ」


ルシーは皇帝陛下の元まで向かい両手を握った。


「おにいさま、おねえちゃんからのでんごん」

「お姉ちゃん?」

「信じられないかもしれませんが、リリーアンヌ様です。この子はその、」


皇帝陛下が俺を手で制した。

皇帝陛下は片膝をつきルシーと目線を合わせた。


「おにいさま、わたしはおにいさまのこころのなかにいつもいます。そしてあのときいっしょにみたこのけしきをまもるためにいのります。もしおにいさまがやみにおちたとき、このけしきからひかりがきえます。このみずうみはおにいさまそのもの。そしておにいさまはていこくみんのひかり。ひかりはかがやくもの。かがやきみちびくもの。

このみずうみがひかりかがやいているようにおにいさまのひかりにみちびかれおにいさまをささえるものはとなりに、しんかやたみはおにいさまのうしろをついていきます。

だからきえないで。わたしのたいせつなおにいさまをけさないで。いきて。

おにいさまはわたしがいなくてもずっとみんなのひかりとしていきてきた。だからていこくはさかえくにがあんていしているの。それはおにいさまじしんのちからよ。

いつか、いつか、おにいさまとかぞくのきずなをきずくものがあらわれるまで。そしてあらわれるのをわたしはねがっています。だからそれまでまってて。そしてみちびいて。そのこにおうとはなにか、おしえられるのはおにいさましかいないから」


ルシーは皇帝陛下の首に手を回し抱きついた。


「お兄様ごめんね、大好きよ」


皇帝陛下はルシーを抱きしめた。消えそうな声で『リリーアンヌ』と囁いた。

その声がとても切なく、とても辛く、とても深い悲しみを含む声だった。

その声を聞いた時、俺の目から溢れる涙が頬を伝った。

皇帝陛下は一週間男爵領に滞在した。一日中湖を眺め、時に4人の鬼神と共に湖を眺めていた。

きっと俺には、いや、誰にも分からない、彼等しか分からない絆があるんだろう。

一週間誰も湖には近寄ろうとはしなかった。皇帝陛下だからではなく、彼等だけの空間、それを邪魔したくない、何となくそう感じた。





俺は毎日領地を周り最後に湖に立ち寄りこの景色を眺める。10年変わらない景色に安堵し、そして空に祈る。

そちらでは笑顔で暮らせていますか?

そちらでは幸せですか?

と毎日話しかける。この湖が変わらない限り貴女は笑顔で幸せにしているとそう願っています。

俺が崇拝し敬意を払う尊い貴女の処刑の日を忘れた日はない。

10年、まだたったの10年です。

貴女が処刑されると知っていたら俺は例え殺されても貴女の元に、そして貴女を助けたかった。

あの塔を出た夜、貴女に何かあった時は今度は俺が必ず手を差し伸べる、そう心に誓ったんです。

俺が尊敬する人はこの世を旅立っていく。父上も貴女も、どうしてですか、どうしてそんなに早く旅立ったんですか…。




「ちちうえ、みてみて、とてもきれいね」


その声に俺は顔を向ける。


「あぁ、綺麗だ…」


次世代へ繋ぐ新たな光…

見えていますか?



10年経っただけでは無くならない、皆の心に今も尚鮮明に残る貴女の存在。


リリーアンヌ様、

あなたさまに見せたかった。あなたさまに託されたこの領地を領民達の笑顔を、見て欲しかった…。

そして今も光輝く湖を、帝国の光を、

あなたさまに見て欲しかった…。




今も語り継がれる一つの物語

悪女と呼ばれた王妃の最期の時

皆の心に悲しみを残した

そして今も皆の心に鮮明に残る最期の顔

神々しいそのお顔はまさに女神そのもの

慈愛を宿したお顔

優しく微笑んで幸せそうな安らかなお顔


そして最期に残した言葉…

首が落とされる寸前に皆に残した言葉…



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