106 / 107
89 終結
しおりを挟む国王の首を落としたからと皇帝の気が晴れる訳ではなかった。
皇帝は笑いながら残った騎士達を斬っていく。
血に飢えた獣、その姿はまさしく悪魔。返り血を浴び、それでも笑いながら剣を振る。黒い髪、黒い瞳、黒い服、黒い悪魔の由縁だ。
帝国の騎士達は『后の仇だ』と士気を高めた。王宮にいる騎士達、貴族達を男性女性関係なく斬っていった。
皇帝のマント、それは婚姻式で皇后に纏わせるマント。皇帝が妻と認めた、それを意味する。それが例え亡骸でも皇帝が妻と認めた以上、帝国の騎士達は亡骸を『皇后』と認めた。
我等の母、皇后を死に追いやった者達へ仇討ち、それが帝国騎士達の使命になった。
敵には容赦はしない、それが帝国騎士の誇り。
王宮はあっという間に帝国の手に落ちた。
皇帝が国王を裁いている間、違う所では、
ある男性は己の両親と妻の両親を殺した。
「ローレン、良かった。ここから逃げるのを手伝ってくれ」
「私が?なぜ?」
「なぜだと?それは勿論私達がお前の親だからだ」
「私には両親はいません。私の両親は私がお仕えしこの身を盾にしてでも護る姫君を裏切り死にました」
「ま、待て!」
騎士は己の両親、妻の両親を斬りつけた。騎士の胸には帝国の紋章が付けられていた。
そしてある者は、
「父上、王族の隠し通路で何をしているんです」
「イーサン、良い所に居た。私を護衛しろ」
「護衛…、まぁいいでしょう。ですが王はまだ宴会場にいます。王の元へ向かいましょう」
「あそこは駄目だ。少し落ち着くまで私は身を隠す。それにこれからのこの国の王は私だ。あれはもう用済みだ。馬鹿の首は帝国にくれてやる。
イーサン、お前を王直属の騎士に戻してやる。お前は息子として私を護る盾になるんだ」
「そうですか」
騎士は諸悪の根源の己の父の首を落とした。騎士の腰には紫色の布が巻かれていた。
「妃殿下、父は、この男は私利私欲に溺れた悪魔。この男を生かせておけばこの世の破滅になったでしょう。ですがこれからの世はこれで明るくなります。
妃殿下、申し訳ありません。私もお供致します。そしてあの世で貴女にお詫び致します。貴女を排除しようと手を貸した事、お詫び致します。ですが、貴女の死を望んだ事は一度もありません。
妃殿下、あの世で貴女に会える事を…」
騎士は己で己の腹を刺し、その手には紫色の布を握りしめ一筋の涙を流し息絶えた。
王宮は血の雨が降り注ぎ俺の祖国は一夜で帝国の属国となった。
2ヶ月後の夕方、
「皇帝陛下」
領地を回って最後に湖に立ち寄った際、皇帝陛下が湖を眺め立っていた。
「お主がリリーアンヌから引き継いだ者か」
「はい」
「確か湖は干からびていたはずだが」
「はい、リリーアンヌ様がお亡くなりになった日からこのように」
「そうか」
「あの、少しお待ち頂けますか?どうしても皇帝陛下に会わせたい者がおります」
俺は急いでルシーを呼びに行き、ルシーを抱え湖に戻った。
「とうしゅさま、このひとがおにいさま?」
「そうだよ」
ルシーは皇帝陛下の元まで向かい両手を握った。
「おにいさま、おねえちゃんからのでんごん」
「お姉ちゃん?」
「信じられないかもしれませんが、リリーアンヌ様です。この子はその、」
皇帝陛下が俺を手で制した。
皇帝陛下は片膝をつきルシーと目線を合わせた。
「おにいさま、わたしはおにいさまのこころのなかにいつもいます。そしてあのときいっしょにみたこのけしきをまもるためにいのります。もしおにいさまがやみにおちたとき、このけしきからひかりがきえます。このみずうみはおにいさまそのもの。そしておにいさまはていこくみんのひかり。ひかりはかがやくもの。かがやきみちびくもの。
このみずうみがひかりかがやいているようにおにいさまのひかりにみちびかれおにいさまをささえるものはとなりに、しんかやたみはおにいさまのうしろをついていきます。
だからきえないで。わたしのたいせつなおにいさまをけさないで。いきて。
おにいさまはわたしがいなくてもずっとみんなのひかりとしていきてきた。だからていこくはさかえくにがあんていしているの。それはおにいさまじしんのちからよ。
いつか、いつか、おにいさまとかぞくのきずなをきずくものがあらわれるまで。そしてあらわれるのをわたしはねがっています。だからそれまでまってて。そしてみちびいて。そのこにおうとはなにか、おしえられるのはおにいさましかいないから」
ルシーは皇帝陛下の首に手を回し抱きついた。
「お兄様ごめんね、大好きよ」
皇帝陛下はルシーを抱きしめた。消えそうな声で『リリーアンヌ』と囁いた。
その声がとても切なく、とても辛く、とても深い悲しみを含む声だった。
その声を聞いた時、俺の目から溢れる涙が頬を伝った。
皇帝陛下は一週間男爵領に滞在した。一日中湖を眺め、時に4人の鬼神と共に湖を眺めていた。
きっと俺には、いや、誰にも分からない、彼等しか分からない絆があるんだろう。
一週間誰も湖には近寄ろうとはしなかった。皇帝陛下だからではなく、彼等だけの空間、それを邪魔したくない、何となくそう感じた。
俺は毎日領地を周り最後に湖に立ち寄りこの景色を眺める。10年変わらない景色に安堵し、そして空に祈る。
そちらでは笑顔で暮らせていますか?
そちらでは幸せですか?
と毎日話しかける。この湖が変わらない限り貴女は笑顔で幸せにしているとそう願っています。
俺が崇拝し敬意を払う尊い貴女の処刑の日を忘れた日はない。
10年、まだたったの10年です。
貴女が処刑されると知っていたら俺は例え殺されても貴女の元に、そして貴女を助けたかった。
あの塔を出た夜、貴女に何かあった時は今度は俺が必ず手を差し伸べる、そう心に誓ったんです。
俺が尊敬する人はこの世を旅立っていく。父上も貴女も、どうしてですか、どうしてそんなに早く旅立ったんですか…。
「ちちうえ、みてみて、とてもきれいね」
その声に俺は顔を向ける。
「あぁ、綺麗だ…」
次世代へ繋ぐ新たな光…
見えていますか?
10年経っただけでは無くならない、皆の心に今も尚鮮明に残る貴女の存在。
リリーアンヌ様、
あなたさまに見せたかった。あなたさまに託されたこの領地を領民達の笑顔を、見て欲しかった…。
そして今も光輝く湖を、帝国の光を、
あなたさまに見て欲しかった…。
今も語り継がれる一つの物語
悪女と呼ばれた王妃の最期の時
皆の心に悲しみを残した
そして今も皆の心に鮮明に残る最期の顔
神々しいそのお顔はまさに女神そのもの
慈愛を宿したお顔
優しく微笑んで幸せそうな安らかなお顔
そして最期に残した言葉…
首が落とされる寸前に皆に残した言葉…
123
あなたにおすすめの小説
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します
凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。
自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。
このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく──
─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる