心は誰を選ぶのか

アズやっこ

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番外編 サニー&グルー

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雨が酷くなり近くの宿屋に入った。


「今日はここで泊まろう」


皆雨でずぶ濡れ。獣特有な毛があるといっても寒いものは寒い。水分を吸った服が体に纏わりつき気持ち悪く思える。

着替えが入った鞄を受け取り部屋に入る。


「これくらいなら着れるかな…」


鞄に入っていた服も濡れていてあまり濡れていない服を選び、さっき貰った湯に布を浸し体を拭いていく。

この宿屋がある所は人族しかいない国。私達獣人が珍しいのか初めて見るのか、何軒も断られようやく泊まれた宿。

宿屋の亭主にも使用人にもジロジロ見られ頭からマントを被った。

人族しかいない国を横切る時はいつもマントを頭から被り服で覆われていない所は隠していた。

それなのに迂闊だったわ

獣人と人が暮らす国に居たから、そしてあの国では獣人は物珍しいものじゃない。

でももう違う国へ入った。獣人を毛嫌いする人もいる。獣人というだけで襲ってくる人もいる。

人族しかいない国では野生の獣が暮している。そして家畜を襲ったり畑を荒らしたりするのは知っている。人族にとって必要な食料であると同時に獣にも飢えをしのぐ為に必要な事。それでも大事に育てた家畜や畑を荒らす獣は害。

生活をする為に育てて売る。狩りをして飢えをしのぐ。

どちらも生きる為に…


それを知っていたから人族の国を通る時はできるだけ早く通過するようにしている。その為に馬で来たのに…。


コンコン

「サニー体は拭けたか」

「ええ」

「なら湯を片付ける」


私は湯の桶を持ち扉を開けた。

扉を開ければまだ少し濡れているグルー。きっとまだ体を拭いていない。私が誰かに襲われないかずっと見張りをしてくれていたんだと思う。

私の泊まる部屋は一番奥の角部屋。部屋の前を誰も通る事はない。


「今日は悪いが部屋の中で警護する事になる」

「分かったわ」


部屋の前にグルーが立っていたら目立つくらいは分かってる。何か騒ぎを起こせば私達を泊まらせてくれた亭主さん達に迷惑をかける事になる。

早めに食事を済まし布団に入った。グルーは部屋の扉の前に立ち時折カーテンの隙間から窓の外を眺めていた。


「明日は日の出前にここを出るつもりだ。ゆっくり体を休めてくれ」


蝋燭の灯火だけの薄暗い部屋。グルーが側にいて私は寝付けなかった。


「寝れないのか?」

「………うん」

「なぁサニー」

「ん?」

「良かったのか?」

「その話ならもう話しかけてこないで」

「魂の番は前世の恋人なんだぞ。それもお互いが強く思い強く願った、また会いたいと。だから魂が叫ぶ、また恋人になろうと夫婦になろうと」

「言い伝えでしょ」

「でもお前は出会った。俺達は何年も訓練を受けた。そのお前が両手を深く傷つけないといけないほど強固な力だったんじゃないのか」

「………そうね」

「今ならまだ間に合う」

「もういい加減にして!」


私は上半身を起こしグルーを睨みつけた。


「魂の番が前世の恋人?夫婦?前世では愛し合ったから来世でもって願っただけでしょ。でも生まれ変わった今は違うわ。もし子供の頃に出会っていたら分からないけどお互い過ごした国が違えば過ごした人も違うのよ。

前世でどれだけ愛し合ったとしても前世の私と今の私は同じ人じゃない。魂は同じかもしれないけど今生きてるのは私なの。

サニーって名の私。

グルーの幼馴染みでグルーと番になる事だけを考えて生きている私なの。幼い頃何度も死にそうになった。でも私が目を覚ました時いつも一緒に居てくれたのはグルーだけだった。一番最初にグルーの顔を見て安心したの、生きてるって。

その積み重ねで出来上がった私は前世の私とは全く違う人なの。分かった!?」

「………なら……俺は望んで良いのか?」

「何を」

「もう一度番になる事を、俺は望んで良いのか?」

「もう一度って、私は初めからグルーとしか番にならないって言ってたじゃない。魂の番と番になれって言ってたのはグルーよ」

「ああそうだ、俺が言った。その方が幸せになれると思ったからだ」

「私の幸せは私が決めるわ。

グルー、国に帰ったら私の番になりなさい」


薄暗くても良く見える目を持っていて良かった。グルーが嬉しそうに笑った。幼い頃と変わらない笑顔に私も自然と笑みがこぼれる。


「俺だけの姫になってくれ」

「うん、なる、なりたい」

「あー、早く国へ帰りたい」

「ふふっ、でも直ぐに番にはなれないでしょ。住む家も何もないのに」

「家はもうある。身一つで大丈夫だ」


日の出前まで話をして寝ずに宿屋を後にした。

グルーの前に座った私を抱きしめるグルーの手が『もう離さない』と言っているかのようにギュッと力が入っている。


国へ帰り兄様に引き継いだ私は本当に身一つでグルーに連れ去られた。

父様も番になる事を認めていたから別にいいんだけど…


そして今、

グルーが用意した家でグルーが用意した服を着てグルーが用意した色とりどりのリボンや髪留めを好きなように付けて私は暮している。

今を生きる私の幸せはグルーと一緒に暮らし、宿ったお腹の子の誕生を心待ちにしてる事。

そして愛しいグルーといつまでも、また来世でも『貴方を愛したい』と死際で強く願うと思う。

来世でも…、そう願うほどグルーを愛しているから……

そして願わくばグルーが同じ気持ちなら嬉しい。


でもねグルー、

それは今がとても幸せだからなのよ。

そしてこの幸せは貴方がくれたもの。

幼い頃から続く貴方への恋心、

年をとっても失くならない貴方への恋心、

優しくて強い貴方の側で、

貴方と紡ぐ愛、

魂の声より心の声をとったから得たもの。


私は幸せ者ね



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