元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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2 街

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私は修道院へ帰りシスターの元へ行った。


「どうでしたか?」

「はい、奉仕活動では人の嫌がる所を率先してやりました。ここで暮らす皆に繋がれば良いと思います」

「そうではありません。街の人達との交流の方です」

「はい、皆さんとても優しい人達でした」

「ラナベル、貴女がここに来た時、私は貴女が心配でした。心を失くし彷徨う抜け殻みたいだと。ここでの生活で何か変わるかと思いましたが、貴女は変わらなかった。

上手く皆と接していますが特別誰かと親しい訳ではない。一人の世界に入り一人で生きています。まるで全てに拒絶するように…。

貴女には人との繋がりを、愛を、先に教えるべきでした。

ラナベル、貴女には1年、街で暮らし働いてもらいます」

「……分かりましたシスター」

「この食堂に行きなさい。そしてこれは奉仕ではありません。人との繋がりを、人を受け入れる勉強だと思いなさい」


私は次の日荷物を持って渡された紙の食堂へ向かった。


チリンチリン

「すみません。修道院から来ました」

「聞いてるよ。ちょっと待っててくれる?」


奥から出て来たのは団長さんでした。


「団長さんの食堂でしたか。今日からよろしくお願いします」


私は頭を下げた。


「ここは俺と親父がやってる食堂なんだ。ルナちゃんにはお客さん相手をしてもらう。注文を取って俺か親父に伝える。出来上がった料理を席に運んで、帰る時にお金を支払ってもらい、空いた席を片付ける。出来そう?」

「はい、頑張ります」

「だけどこの服ではな…。何か別の服は?」

「すみません。持ってきたのは修道服だけです」

「ちょっと俺と付き合って」


腕を掴まれ食堂の外に出て数件先の服屋に連れて来られた。


「ルナ」

「ちょっと今手が離せないの」

「ならそれが終わってからでいいからこの子の服を数枚選んでやって。働きやすい服で頼むな。俺は食堂に戻るから服の代金は後で持ってくる」

「分かったー」

「ルナちゃんはここで待ってて」

「あの、服の代金ですが…」

「食堂で働いて返してくれればいいから」

「分かりました。ありがとうございます」


団長さんが出て行き、私は服を眺めていた。久しぶりに色の付いた服を眺めていたら、


「お待たせ。で、ラナベル、お嬢様?」


服から声のする方に目線を変えた。


「ルナ…」

「ど、どうしてお嬢様が修道服なんて…」

「……ルナがメイドを辞めてから色々あったの。今は修道院で暮らしているわ。今回は団長さんの食堂で働かさせてもらう事になったの」

「お嬢様…」


ルナは私を抱きしめた。メイドの時は一線を引いていたルナ。お嬢様とメイド。


「ルナ、人に抱きしめられるのって嬉しいのね」

「お嬢様はいつも坊ちゃまを抱きしめていましたから」

「ルナ、働くにはどんな服が良いのか分からないからお願いしても良い?」

「お嬢様に似合う服を選びますね」


ルナは服を数枚手にし持ってきた。


「食堂で働くのならワンピースよりも上下別々の方が良いと思います」

「ありがとう。だけどね、ルナ、私はもうお嬢様でも貴族でもないわ、修道女。貴女よりも立場は下なの。だからこれからはそのように接してほしいの」

「分かりました。なら、ラナベルさん」

「あっ、私、団長さんにルナって名乗ったの」

「どうして!?」

「ラナベルと言う名はもう必要ないからよ…。だから私が一番好きな名前を名乗ったの」

「お嬢様ー」


ルナは私に勢いよく抱きついてきた。私はルナを支える為に抱きしめた。


「さぁ着替えて戻らなきゃ」

「そうですね」


久しぶりに着た色の付いた服。髪の毛をまとめて結んだ。


「ありがとうルナ」

「食堂が終わったら遊びに来て下さいね。絶対ですよ」

「ええ」


私は食堂へ戻った。

チリンチリン


「すみません、遅くなりました」

「今日は俺も店の中で教えながら働くけど明日からは一人でやってほしい。忙しくなれば俺も手伝うけど」

「分かりました」


お客様が席に座ったら注文を聞く。そして出来上がった料理を席に運ぶ。お金を受け取り、後片付けをする。そして待ってる人を案内する。

ずっと立ちっぱなしで動きっぱなし。休憩を挟み夕方からまた営業する。

慣れない事とはいえ、足手まといになっただけで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「どうだった?」

「すみません。足手まといになっただけでした」

「初めから出来る人なんていないよ。失敗しながら出来るようになればいい」

「はい」

「疲れただろ」

「いいえ、大丈夫です」

「ルナちゃん、俺と一つ約束してくれないか?」

「何でしょう」

「嘘は言わない、それだけ約束してほしい」

「分かりました」

「で?」

「……疲れました」

「だろ?生きてるって感じるだろ?」

「え?」

「生きてないと感じる事が出来ない感情だ。働き疲れる、それは生きてるからそう思う感情だ」

「…はい、そうですね」

「明日もよろしくな」

「はい、明日もよろしくお願いします。

あの、ご迷惑でないのならこの椅子を数個貸して頂けるとありがたいのですが…」

「椅子?別にいいけど、どうするんだ?」

「眠るのに使おうかと」

「いやいや、ちゃんとルナちゃんの部屋は用意してあるよ。今から案内する」



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