元公爵令嬢、愛を知る

アズやっこ

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3 友

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案内されたのは食堂の裏にある建物の一部屋。


「こんな立派な部屋…」

「立派か?2階はルナちゃんしかいないから。1階に俺と親父が暮らしている。何かあれば遠慮なく言ってほしい」

「ありがとうございます。あの、では、よろしいでしょうか」

「ん?」

「先程の服屋に行きたいのですが、よろしいでしょうか」

「ルナの所?」

「はい、駄目でしょうか」

「駄目じゃないけど、俺も服代を払いに行くから一緒に行こうか」


団長さんの後を付いてルナの所に向かった。


「おい、ルナ、服代を払いに来たぞ」

「はいは~い」


ルナが奥から出て来た。


「おじょ……、ラ……、あ~もう!」

「何だ?お前」

「うるさい。それより服代ね。はい」


団長さんは紙を見てお金を支払った。

団長さんが私の顔を見た。

そうよね。今日初めて会った人に会いに来たなんておかしいわよね。


「あの、服を見るだけなんですが、よろしいでしょうか。久しぶりに色の付いた服を眺めたくて」

「ええ、どうぞどうぞ。ゆっくり見て下さい。

ほら、あんたは帰った」


団長さんはルナに押され店の外に追い出された。

ガチャ


「もう今日は店じまい。お嬢様、じゃなかった、ラナベルさん、奥でお茶でもどう?」

「ふふっ、ええ」


店の奥に入ると色とりどりの布があった。


「もしかしてルナが全部作ってるの?」

「そうです。お金を貯める為にメイドとして働いていました」

「そうだったの。凄いわ」

「さぁ、座って下さい」


椅子に腰掛けるとルナがハーブティーを用意してくれた。


「安物ですが」

「修道院ではものすごく薄いハーブティーしか飲んでないのよ?」


昼食の時にだけハーブティーが出される。後は水。


「お嬢様、こんな事を聞いて良いか分かりませんが、何があったんですか?」

「……アーカス殿下に断罪されて婚約破棄をされたの」

「婚約破棄!?どうしてまた」

「ある令嬢が入学してきて…、殿下はその令嬢に好意を抱いたの。私は令嬢を虐めたと言われて、」

「旦那様は?」

「お父様も弟も私を責めただけで何も」

「お嬢様が虐めなんて…。そんなの信じられません」

「でも実際に虐めたわ。嫉妬に狂った。修道院へ送られても仕方がない事を私はしたの」

「でも、それって殿下の浮気です。殿下の婚約者はお嬢様です。お嬢様以外の女性に好意を持ったのなら断罪されるのは殿下の方です」

「殿下は好意を持っただけ。でも私は階段から彼女の背中を押したわ」

「好意を持っただけ?違うでしょう。お嬢様は殿下を慕っていました。お好きだったではありませんか。なら殿下はお嬢様を傷つけた事に変わりありません。お嬢様の心を傷つけました。

目に見える傷だけが傷ですか?そんなの違います。目に見えない傷も傷です。違いますか?」

「そうね…。心に付いた傷は見えない傷。だから誰も気づかない。私が傷ついているのか傷ついていないのか、それは私にしか分からない事だもの。

でも私は目に見える傷をつけたわ。背中を押して階段を落ちた彼女にはすり傷が出来た。誰からも分かる傷をつけた事には変わらないわ」

「だからって、修道院はあんまりです。酷すぎます」

「ルナ、私ね、修道院に来てようやく息が出来たの。ようやくここに来れたって。辛い思いもしたわ。自分が保てない日々だった。

だから、名も、捨てたの…」

「お嬢様……」

「でもルナに会えて良かった」

「私がお側にいたら…」

「ううん、側にいてくれたわ。ずっと」


何度戻っても、目が覚めた時にルナの顔が一番に見えた。落胆もしたけど安心もした。断罪を知らないルナが唯一の支えだったから。毎回変わらないルナの態度。一線はあるものの、優しく、頼り、一番近くにいてくれた人。

そして今も変わらない私への態度。それがどれたけ嬉しいか、きっとルナには分からない。


「それよりもこんなに遅くまで店を開けているの?」

「いつもはもっと早く閉めますよ。ただ、作業している時は開けてます。どうせ店の奥で作業しているだけですから。

今日はお嬢様に似合う服を作っていました」

「ルナ…、ルナの気持ちは嬉しいのよ?でも、お給金が貰えるのかも分からないわ。でも、もし、お給金が貰えたら必ず買い取るわ。ルナの作品だもの」

「お金なんていりませんよ」

「それは駄目よ。きちんと受け取って」

「ならその時は」

「ええ。ごめんなさいね、こんな遅くに。長居してしまったわ」

「送って行きます」

「大丈夫よ」

「いえ、送って行きます」

「ふふっ、ならお願いしようかしら」


ルナと店を出て食堂まで向かう。食堂の前には団長さんが待っていた。


「遅いから心配したぞ」

「すみません」


ルナは私の手を繋いだ。


「私とルナちゃん友達になったの。ね?」

「ええ、ルナさん」

「だからこれからは私の家でお泊りもするからよろしく」


私はルナの顔を見た。ルナの顔が笑っていて私も嬉しくなった。

友と呼べる令嬢はいなかった。修道院でもそう。

初めての友達

私は嬉しかった。

ルナが突然私を抱きしめた。


「ル、ルナさん?」


ルナは耳元で囁いた。


「お嬢様はいつも笑っていて下さい。私、お嬢様の笑った顔、大好きです」

「そうね。公爵令嬢の時は笑えなかったから」

「はい。でもこれからは笑って下さい」


これからは私も貴族令嬢ではない。笑っても誰にも咎められない。

こんな日が来るなんて、思ってもいなかった。



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