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手芸店の外に出て来て、
「お待たせしました。今、ケイトが会計をしていますが、ここはお店の出入口なので少し離れませんか?他のお客様の邪魔になりますし」
「そうですね、すみませんでした」
「こちらこそ長い時間お待たせしてごめんなさい」
「そういえば隊長が途中で来ましたよ」
「ジル様が?今はどこにいるのかしら」
「商会に顔を出してくると。直ぐに戻りますよ」
「ジル様が戻ってきたらお茶をしたいのだけど時間はあるかしら」
「それは大丈夫です」
手芸店で1時間以上居たわね。刺繍糸や布を見ていると時間があっという間に過ぎるのよね。それに辺境にある手芸店だけあって品揃えは豊富だし、お店も大きくて今度ゆっくり見たいわ。
手芸店から少し離れた所でケイトを待っている。
ケイトが手芸店から出て来たので、
「ケイト、ここよ!」
私は手を振った。
ケイトがこっちへ向かって来ようとした時、
「ケイト!!」
ケイトは誰かに捕まった。ケイトの後ろにいる男性はケイトの首元にナイフを突き付けている。
「王女様を護れ!」
ボル様の声に騎士達が私の周りに立った。ボル様は私を囲う騎士隊の前に立ち、剣をいつでも抜けるように手を添えている。
一人の若い騎士が人混みに紛れどこかへ行った。
きっと応援を呼ぶのね。さっき鷹も飛んで行ったし。
ボルが男性に話しかける。
「その女性を放してもらえるか。我々の連れだ」
ボルはお父様くらいの年齢の方で、刺激せず男性に話しかけている。
「我々は見て分かる通り騎士だ。無駄な抵抗は無駄死にだけだ。お前も死にたくはないだろ?」
「煩い!黙れ!」
「分かった、俺が代わりになる。女性を傷つけるのはお前も紳士なら分かるはずだ。違うか?」
「煩い!」
「お前の望みは何だ。金か?職か?金も職も助ける事が出来る。だからな?その女性を放せ」
「この女を放しても良いが、代わりにお前達が庇っているそこの女と交換だ」
「それは出来ない」
「アリシア王女なのは分かっている。早くしろ!」
ケイトの首元に薄っすらと血が垂れた。
「アリシア、お前は民を見捨てるのか!それでも王女か!」
男性は大声で叫んでいる。
「アリシア王女、変な事は考えてはいけませんよ!」
「ですがケイトが」
「ケイトには申し訳ないが犠牲は付きものだ。王女を危険に晒す事は出来ない!」
ボル様は男性を見つめながら私に話しかける。私の周りにいる騎士達も戦闘準備に入っている。皆いつでも剣を鞘から抜ける準備をしている。
辺りをピリピリとした空気が流れ、
「早くしろ!この女を殺されたくないだろ!」
ケイト…。
ケイトの強い眼差しで私を止めているのが分かる。
来てはいけません!
そう伝わってくる。それでも、
分かってる。ジル様には言われている。何かあった時は騎士の指示に従えと。キース様にも逃げ切るのが私の使命だと。
でもこれは戦じゃない。
「アリシア王女!出てこい!」
そう、私はまだ辺境伯夫人じゃない。この国の王女。
王女としてこの身もこの命も捨てる覚悟はできている。民を護る為に差し出す覚悟もできている。
それでも、
ジル様と約束した。ジル様の側から離れないと。
「この女を殺すぞ!良いのか!」
ジル様、ごめんなさい…。必ず貴方の元に戻るから、だから、だからそれまで待っていて下さい。
「ゼフ様退いて下さい」
「それは出来ません」
私の目の前にいるゼフ様は退くつもりはない。
辺境において騎士の指示は絶対だ。
「ゼフ様」
「我々は王女様を護る為の盾です。もしこの命が尽きようとここを退くつもりはありません」
そしてここ辺境においては王女の私より辺境の騎士の方が上位だと私は思っている。
辺境は最初で最後の鉄壁
国を護るにおいて辺境を侵略されたら王都まであっという間に侵略される。王都まで侵略されたら王城など直ぐに落とせる。王城の騎士達が戦ってももって数週間、数日かもしれない。
それでも辺境もこの国の一部
「ゼフ、バウリーガン王国第ニ王女アリシアとして命令します。そこを退きなさい!」
この国の中で一番上は国王、その次に王太子、三番目に私を含む王族、
「もう一度言います。そこを退きなさい」
ゼフが少し横にずれ、私はその間を通る。
ごめんなさい、ゼフ様…
私はボル様の横に立った。
「アリシア王女!貴女は後ろに下がってください」
「ボル様、すみません。ですが少しあの男性とお話をさせて下さい」
「話だけです。ケイトと代わろうなど考えないで下さい、良いですね」
私は何も答えず微笑んだ。
私はケイトを人質にとっている男性を見て、
「私は、バウリーガン王国第ニ王女アリシア、貴方は誰?」
男性は私を睨むように見ている。
男性は髭は伸びているけど着ている服は平民でも割と裕福な人達が着るような服だと思う。ズボンとシャツだけど汚れていたり破けていたりボロボロではない。
そして男性は私に向かって、
「お前は……」
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