38 / 60
38.
「ケイト、大丈夫?」
「私は大丈夫です。アリシアお嬢様は大丈夫ですか?」
「私は傷一つないわ。ケイトの方が怪我してるのよ?」
「別に痛くないですしちょっと血が出ただけです」
「傷の手当てをしないと」
「辺境に戻ってからで大丈夫です」
「そう?」
ジル様はボル様ノール様ゼフ様クルト様と話していて他の騎士は街の人の対応をしている。
エリオット元王子はノール様から代わった若い騎士が取り押さえている。未だに騒いで暴れているけど。
流石に早く帰ってケイトの傷の手当てがしたいなんて言えないわね。
「お、おい!」
その声に目を向ければケイトの後ろから殺気だった目をしながら走ってくるエリオット元王子の姿が…。私はケイトの腕を引いて私の後ろに隠した。
「アリシアお嬢様ーー!」
ケイトの悲痛な叫びが聞こえた。
首を圧迫するように腕が絡まり、私の後ろにはエリオット元王子がいる。
少し離れた所にいたジル様の伸ばされた手が空をつかんだ。
「シアーーー!」
私の差し出した手がジル様の手を掴むことは出来なかった。
「エリオット元王子、止めて下さい。これ以上騒ぎを大きくしたらどうなるか分かっているでしょう。王女の私を人質にしたらそれこそ国と国の争いになります」
「お前は人質じゃない、私の婚約者だ。婚約者を連れ戻しに来ただけだ」
「実際、もう婚約者ではないのはご存知だと思います。そして貴方は廃嫡されたとはいえ隣国国王のご子息、私の同意なしで国へ連れて帰ればこの国の国王が黙っていません。貴方の考えなしの行動で我々は大義名分を得ました。それを貴方は分かっているのですか?」
「父上が…」
「貴方の大好きなお父様が貴方を護ってくれると?大義名分を得た我々が戦を仕掛けても貴方を護ると本当にそう思いますか?その時貴方は廃嫡した息子で国とは関係ないと切り捨てられるとは思ってもいないのですか?」
ジル様が私を見つめ頷いた。私は瞬きをして答えた。
考えているエリオット元王子の腕の力が緩くなり、私は思いっきり足の甲を踏んだ。首に絡まっていた腕が外れ、私はエリオット元王子の大事な所を力いっぱい蹴り上げた。
「ヴグッ」
エリオット元王子は蹲りボル様が取り押さえた。
私はジル様に抱きしめられ、
「お前は馬鹿か!なんで無茶をする!」
「ごめんなさい」
「いや、悪い」
「ジル様、私でも出来ました!」
「ああ、そうだな。よくやった」
ジル様が私の頭を撫で、
「だが無茶はするな」
「ですがジル様が言ったのですよ?すきを見つけてやれ!と」
「そんな事言ってないが」
「さっき目が合った時にそう言ったではありませんか」
「俺は、少し待て必ず助ける、と言ったつもりだったんだが」
「え?」
「だが結果良かった。よくやったな」
「ジル様に近づきました?」
「シア、あれが通用したのはあの馬鹿王子だけだ。他の者には絶対にするなよ?」
「分かりました」
「軟弱な馬鹿王子で助かった。普通は人質をとっている時に考え事などしない、すきを見せる事はしない」
「ほらそこは馬鹿王子だからですよ」
「フッ、そうだな」
ジル様は私を抱きしめ私の耳元で、
「良かった、またシアを抱きしめられた…」
私はジル様をギュッと力いっぱい抱きしめ、ジル様の腕の中にいる幸せを噛みしめた。
「アリシアお嬢様ご無事ですか」
「ケイト、私は大丈夫よ」
「どうして私を庇ったのです」
「どうして?体が勝手に動いたのよ?」
「それでも、」
「ケイトが無事で良かったわ」
「お嬢様…」
「ケイトは怪我をしちゃったけど皆無事だったんだから、ね?」
「分かりました。ありがとうございます」
「さあ、帰りましょ?」
「はい」
ジル様は私の手を離さず、私と手を繋いだまま指示を出している。
「ゼフ、お前の所の騎士をもう一度鍛え直せ!」
「申し訳ありませんでした」
「取り押さえておけないなど問題外だぞ!」
「はい、申し訳ありませんでした」
ゼフ様が頭を下げている。
エリオット元王子を押さえていたのはゼフ様の部隊の騎士だったのね。騒ぎ暴れていたから押さえている手が緩んだのかもしれないわね。
今はボル様から代わりクルト様が取り押さえている。
さっきまで騒ぎ暴れていたのが嘘のように蹲り動けないみたい。クルト様が押さえているのもあると思うけど、でも男性の急所への攻撃?凄いわね。
それから街も平穏を取り戻した。
馬車まで向かう途中、
「あの馬鹿王子はこれからどうなるのですか?」
「騎士隊の牢屋に入れる。まあ何かあった時の交渉になるが、あちらの国王が息子と認めるかは分からないな」
「そうですね。一応もう廃嫡した息子ですもの」
「あれで王子とはな」
「それだけ本人も切羽詰まっていたのですね」
「今更シアを渡すかよ」
「私はジル様から離れません」
「当たり前だ」
「あの馬鹿王子、真実の愛の相手に捨てられたそうです」
「そんな女だと気付かなかったのか?」
「馬鹿王子ですから」
「女を見る目がないな」
ジル様は呆れた顔をしていました。
あなたにおすすめの小説
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。
※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】