95 / 152
友という存在
しおりを挟む「お待たせしました」
湯を浴びて戻って来た時、私は二人の中に入っていけなかった。
思い出話に花が咲いたのかそれは分からないけれど、笑いあう二人の姿をいつまでも見ていたいと思った。
何となく二人の邪魔をしてはいけないような…。きっと私が声をかけた瞬間、ルイス様から笑顔が消える。
だからかな、声をかけるのを躊躇った。
私は静かに二人を見つめていた。本当ならこうして笑いあっていた二人を、そこに集まる顔も知らない彼等達を想像して…。
友のいない私には羨ましい二人の空気。
先程までぎこちなかった二人が作り笑顔ではなく自然の笑顔で笑っている。
何があろうと、何かのきっかけで友に戻れるのはこれまで過ごしてきた時間や、関係性、切れない強い絆。敵対しようと抱える痛みは同じ。誰よりもお互いの心が分かりあえる。
私には誰かと共有できる思い出はない。
まだ殿下の婚約者に決まるまではお母様と一緒にお茶会へ行き、参加していた子達と話したり遊んだりした。それでも公爵令嬢として一線引かれていた。
『子供は親を観察しているわ。親の行動を子供は真似をするの。それにお茶会に来る前に何度も言われているわ。『公爵令嬢と友人になりなさい。でも粗相をしては駄目よ』と。何が良くて何が駄目なのか、子供にはその判断が難しい。だから貴女とは距離を取る。近付かなければ粗相もしないもの。でもね、ミシェルはミシェルのままで接すれば皆にも伝わるわ』
『お茶会はつまらない』と言った私にお母様はそう言った。
少しづつ距離が近付いてきた頃、私は殿下の婚約者に選ばれた。特定の友人を作れず、婚約者になりお茶会への参加も出来なくなった。ようやく参加出来るようになっても、婚約者だからと近付いて来る者や、昔からの友人のように振る舞う者、私の顔色を見て怯える者、そんな中で友人と呼べる者は出来なかった。
だから私は二人が羨ましい。
私には手に出来なかったものだから。
私はこのまま去ろうと思った。二人の時間に水を差すのも嫌だったから。
『遅くないか?』
私を心配するリーストファー様。
『女は時間がかかるんだ。急かしたら嫌われるぞ』
『そうか、嫌われるのは困る』
『本当にお前はそういうのに昔から疎いよな』
『疎いのは認めるが、俺には必要のなかったものだ』
『でもこれからは必要になるだろ。お前には奥さんがいる。
昔テオンがレティーに何の花を渡したら良いかお前に聞いただろ?』
『そんな事あったか?』
『その時お前はそこら辺に生えてる花を指差して『あれでいいんじゃないか、花だぞ』って言ったんだ。でもお前が指差した花は雑草だ。どれだけ疎いと言っても、好きな女に贈る花に雑草を薦める奴はいない。花には花言葉がある。自分の思いを花に託して相手に渡す。
お前、奥さんにもし花を渡す機会があってもそこら辺に生えてる雑草を渡すなよ?花言葉を調べて渡せよ?』
『分かった、花言葉だな』
頷いたリーストファー様。
例え雑草でも贈ってくれた気持ちが嬉しいと思う。でも花言葉を調べて贈ってくれたら、確かにもっと嬉しい。花言葉に隠されたリーストファー様の思い、それだけで幸せだと思う。
私を心配しリーストファー様は辺りを見渡していた。
『いいかリーストファー、遅い、早くしろは女には禁句だ』
『分かった、気をつける』
『でもお前の奥さんならお前を簡単にあしらうだろうけどな。あれは魔性だ。人を惹きつける才能というか、男とか女とか関係なく、関わった者皆を虜にする。怖い女だよ』
『俺には女神だ。皆ミシェルの心の強さに惹かれる』
『確かにそうかもしれないが、小悪魔だろ。お前なんて上手く手のひらで転がされてるんじゃないのか?』
『そうだとしても、案外それが苦ではないんだ。どれだけ転がされようとも俺に対する愛情なのは変わらない。
ミシェルと結婚して愛を知った。愛す喜びも愛される幸せも、本当の親には貰えなかった親の愛情も、ミシェルと結婚しなければ今も知らないままだった。俺に欠落していた感情だ』
『俺もお前を見ていて嬉しい。何かを埋めるように我武者羅に剣を振っていた頃のお前と今のお前、顔付きが全く違う。
安心したよ。俺は安心した…』
『そうか…』
二人の会話を聞いて『ふっ』と私も微笑んでいた。
魔性だの小悪魔だの、言いたい放題ではあるけど、リーストファー様にとって唯一生き残った家族のような友に認められたのは純粋に嬉しい。
流石に遅いと私は二人に声をかけた。
「早かったな」
リーストファー様は立ち上がり私を抱きしめた。
「早くはないだろ」
呆れたように言ったルイス様。
「ルイス」
「どう考えても遅い。風呂に何時間かかるんだよ」
「お前それは、」
「別に俺はお前の奥さんに好かれたい訳じゃないし、俺の愛しい人でもないしな」
「ふふっ」
二人の掛け合いが面白くて思わず笑ってしまった。
「もう遅いんで俺は帰ります」
ルイス様は立ち上がった。
「本当に話が聞きたいならまた今度ゆっくりと」
「ええ、今度ゆっくりお聞かせ下さい」
「一応?眠れないと困るので、リーストファーに浮いた話は一つもありませんでしたよ。女が寄ってきてもそれにも気づかないほどの鈍感だったので、鑑賞用になりました。動く絵画だそうです。なので今日はぐっすり眠って下さい」
「ふふっ、ええ、ぐっすり眠れそうです」
ルイス様は帰って行った。
67
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる