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半日だけの…。貴方が私を忘れても
もう一つの物語 後編
しおりを挟む昼食を食べてから俺はニックに付き添ってもらい母家へ行き父上と兄上の仕事を手伝う。
騎士で生計を立てていたらしく今は侯爵家の仕事を手伝い、父上に養ってもらっている状態だ。
毎日見る書類でも学園に通っていた記憶は残っているから割と難なくこなせている。
夕方になるとロイスとニックが迎えに来て一緒に帰る。
邸に着くとリリーとロリーナが外で待っていてそのまま家族で庭を散歩をする。
庭を走り回る子供達を眺め、リリーが座る椅子の隣に俺も車椅子を動かす。
「風が気持ち良いな」
「はい」
「父様~母様~早く散歩の続きしようよ」
「ああ」
ロイスとロリーナが笑顔で手を振っている。
「子供達の所に行くか」
「はい」
リリーが車椅子を押してくれロイスとロリーナの所へ向かい、散歩を続ける。
夕食を食べたら子供達を寝かせ、夫婦の寝室で少し話をする。
ソファーに座るリリー。俺はその前に車椅子を動かした。
「リリー、俺の顔が好みなのか?」
「え?」
「ニックが言っててな。親に決められた婚約で初顔合わせをした次の日に「相手はどうでしたか」と聞いたら「俺の顔が好みだと言われた」と言っていたらしいんだが」
「はい。親に決められた婚約で相手に求めるものは顔だと言いました。話した事もない性格も分からない中で求めるものは顔しかないと思いません?結婚し一生添い遂げるなら好みの顔の方がいいと思いません?」
「ハハハッ!確かにな」
「ふふっ」
「どうした」
「初顔合わせの時もルイ様はそうやって笑いました」
「その時の俺がどう思ったか分からないが、初顔合わせで貴方に求めるものは顔だけって言われたら面白い子だなって思うだろうな、と思ってな。それに裏表のない子だなってな。俺の顔が好みの顔なら嬉しいと思うし、この子なら上手くやっていけそうだと、これから何があっても信じられると思っただろうな、ってな。
リリー」
俺は膝をぽんぽんと叩いた。リリーが俺の膝の上に座り俺は後ろから抱きしめた。
「リリー、俺は19歳からの記憶を忘れた。リリーと出会い結婚し夫婦になった。その間に育んだ愛情を俺は忘れた。
それでもニックの話を聞いていたら俺はリリーにべた惚れだったんだろうな、と思った。なんだろうな、案外しっくりきたんだよ。
ああ、俺はべた惚れだ、リリーに捨てられたら生きていけない、リリーのいない世界なんて意味はない、そう思った。
俺は今日の記憶は今日だけしか残せない。それでもリリーを今日も離したくないと思った。愛しいと思った。
俺は毎日リリーを好きになり毎日リリーを愛する、俺は幸せ者だな」
「ルイ様」
「夜俺は自分の意思で夫婦の寝室に入る。リリーを離したくない、抱きしめて眠りたい、愛してると愛しい存在だと思い自分の意思で寝室に入ってくる。
例え朝忘れていても、俺の手を握ってくれるリリーの手が俺に安らぎを与えてくれる。その意味は覚えていない。それでもリリーの手を探していた、それは感覚で分かる。目が覚め空虚な心が温かくなる。それは俺が記憶を失くした前のリリーを思った愛しい気持ちだと俺は思ってる。
だから俺は朝取り乱す事をしないんだと思う。あの紙を呼んで空っぽの記憶に入れていく。リリーが側に居てくれるから今の状態を受け入れられる。
ありがとうリリー。いつも迷惑をかけて申し訳ないと思ってる。毎朝確認をするのもリリーにとってみれば辛いだろうと思う。だけどこんな出来損ないの俺が今の俺だ。
俺を受け入れてくれないか。今の俺を愛してくれないか」
「ルイ様、どんなルイ様でもルイ様です。私は今のルイ様と毎日向き合っています。確かに記憶を失う前のルイ様と愛情を育みました。それでも今のルイ様とも毎日愛情を育んでいると私は思っています。
毎朝確認しないといけないルイ様を私は愛してます。出来損ないでもいいじゃないですか。私は今のルイ様とこれからも築いていきたいと思ってます。
それに朝起きてエマ様を愛してるルイ様にとって現実を受け入れる方が大変です」
「確かにエマと先日結婚しようと話していた。それが俺に残る記憶だ。それでもな、エマが伯爵当主夫人って紙を読むとエマへの気持ちは無くなるんだ。やっぱりな、と肩の荷が下りた気分なんだ。
それに朝起きて俺はエマを愛してるとは思ってないぞ。朝起きて俺の心を占めているのはリリーだ。手を握ってくれてるからかは分からない。それでも目が覚めてリリーの顔を見ると安心する。ここに居たい、ここが俺の居場所だ、朝俺はそう思った。きっと俺は毎朝思っていると思う。
それに夜リリーを抱きしめて眠るだろ?俺はリリーの温もりで安らぎ、幸せな気分のまま眠りにつく。そして朝幸せな気分になり起きる。
俺が今日も幸せなのはリリーのおかげなんだ。だからこそリリーにも幸せになってほしい。俺が幸せに出来てると良いが」
「私は毎日幸せです」
俺はリリーを抱きしめた。
「リリー悪いが紙とノートとペンを取ってくれるか。明日はロイスの剣の稽古を見る約束をしていてな、忘れる前に書いておきたい。後、ロイスとクッキーを買いに行った事とロリーナから花をもらった事もノートに書いておきたい」
「はい、とても大事な事ですものね」
「ああ、記憶は残らないがノートに俺の1日の記憶は残る」
俺は毎日日記を付けている。読み返しても記憶は思い出せない。それでも日記から幸せは感じる。リリーを愛してるとロイスをロリーナを愛してると、俺は毎日愛しいと思い、3人の幸せを願っている。
3人とこの先も一緒に居たいと。
「待たせたな、もう寝ようか」
ベッドに横になると紙を貼り終えたリリーがベッドに入ってくる。
俺はリリーを後ろから抱きしめる。
「リリーの温もりは安心できる温もりだ。心が休まる温もりだ。心はリリーを覚えている、そう思える」
「私もそう思います」
「おやすみ」
俺はリリーの頭に口づけをした。
リリーは振り返り俺の額に口づけした。
「いい夢を」
「おまじないか?」
「はい」
笑ったリリーを抱きしめ唇を重ねる。
「リリーの笑顔を見ると何でも耐えられると思うよ。足が動かなくても悲観にならないのはリリーの笑顔のおかげだ。リリーはずっと笑ってろ。笑って俺を幸せにしてくれ」
「ならルイ様も笑っていて下さい。ルイ様の笑顔が私を幸せにしてくれます」
「なら笑顔が溢れる1日を明日も送ろう。リリーすまないが明日紙を付け足しておいてくれないか。俺は忘れてしまうからな」
「はい。毎日お互いを幸せにしましょうね」
「ああ、リリー愛してる」
「私もルイ様を愛してます」
「明日もまたよろしくな」
「また明日の朝に」
「ああ…、出来れば目を瞑りたくない…。このまま…時が…止まって…ほし、い……」
「そうですね。それでも幸せを運ぶ朝日が登ります」
「そう…だ………スゥ……」
俺はリリーを抱きしめ眠りについた。
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