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蛙の子は蛙
その後 完
しおりを挟む妻と子供達が出ていき、初めて喪失感というのを味わった。
あれだけ満たされたと思っていた彼と会いたいとも思わない。
今は妻と子供達と会いたい。
もう一度顔が見たい。
俺は探した。そして見つけた。妻を子供達を、街で暮らしている3人を見つけた。
生活に困ってはいないか、そう思い毎月お金を家に送った。
もう一度やり直したいと何度も家の前にも行った。それでも家の中から聞こえる3人の笑い声に、戸を叩けず邸に戻った。
ある日もうすぐ15歳になる息子が邸を訪ねてきた。
「ショーン、よく来てくれた。母様は元気か?メリアは元気にしてるか?お前も顔つきが大人びてきたか?」
「今日は貴方にお返ししたいものと言いたい事がありこちらに伺わせて頂きました。お時間をとってくださり感謝します。
ではまずお返ししたいものを」
机の上に置かれた紙袋。
「俺も街の騎士団の見習いとして働ける事になりました」
「そうか、すごいじゃないか」
「俺もこれからは給料が僅かですが出ます。母さんも働いているのでこちらは必要ありません」
俺は紙袋の中身を見た。
「これはお前達の生活の為のお金だ。返さなくていい」
「いいえ、一度も貴方からのお金に手を付けてはいません。そして今後も手を付けるつもりはありません。はっきり言いますが迷惑です。母さんはこのお金の存在を知りません。俺が毎度見つけ隠してきました。今後こういう事は一切やめてください。
それと、家にも一切近寄らないでください。もし今後家に近づいた時は騎士団に通報します」
「ショーン、父様はもう一度皆で暮らしたいと思っている。そしてお前にこの家を継いでほしいと思っている。お前達に謝罪する。土下座もする。だから、」
「結構です。貴方が誰を好きになろうが、それが男でも、俺は何も言いません。ですがそれは母さんと離縁した後にやってほしかった。そしたら今も貴方を父親だと認めたでしょう。貴方の犯した間違いは母さんがいるのに他を愛した事。ですが人を愛す心は誰にも止められません。ならば母さんに誠意を見せるべきでした。誰かを愛したのなら、母さんに正直に話し離縁してほしいと頭を下げれば良かったんです」
「父様はお前達が出て行って初めて気づいたんだ。父様は母様を愛していると…、ショーンを、メリアを愛していると」
「なら俺が見た貴方はあれはなんだと言うんです。どこからどう見ても恋人同士にしか見えませんでしたよ」
「あの時は愛してると錯覚していただけだ。いや、確かに彼を愛していた。だがそれは父上の代わりだったと思う。父上に愛されたくて、だから彼が父上の代わりに父様を愛してくれた」
「なら母さんはお祖母様の代わりですか?お祖母様の代わりに貴方を愛してくれた、そう言うんですね。
今、貴方は母さんを愛してると言いましたがそれは錯覚です。自分を愛してくれた人が目の前からいなくなり、また自分を愛してほしくて錯覚しているだけです」
「違う」
「いいえ、貴方は駄々をこねる子供と同じです。壊れた玩具を捨てられない。まだ遊ぶといって捨てずに持っていても結局新しい玩具で遊び箱の奥にしまったまま。そしていつの間にか捨てられた壊れた玩具がないないと言ってる子供と同じです。まだ遊ぶつもりだったと言ってる子供と同じです。
もう母さんを貴方から解放してください。母さんとの離縁届け、今ここでサインをしてください。俺が責任をもって提出してきます」
「どうして、それを、知ってる」
「騎士団に入団する為に必要な書類を集めました。その時母さんと貴方の離縁が成立していない事を知りました」
俺は妻との離縁の届け出を提出していない。届け出を出さない限り妻の手を放した事にはならない。家族の繋がりも消えない。
「それから俺はこんな家いりません。醜聞だらけで落ち目のこんな家、誰が継ぎたいと思います?貴方の代でこの家は国に返上するか没落してください。俺達はもう平民です。この家を出て行ったあの日、平民として街で暮らすと3人で決めました。
もし今後爵位が欲しいと思うような事があれば、自分の力で、爵位を賜われるよう努力し爵命を受けます」
息子がこんな家と言ったこの侯爵家を、守らないとと思って守ってきた。俺が守ってきたものは何だったのか。
「母さんは貴方は誰か一人しか愛せない人と言っていましたが、俺はそうは思わない。貴方は誰も愛せない人です。貴方は愛してほしいと、結局貴方はお祖父様とお祖母様の愛が欲しかっただけです。それを母さんやあの男性を代わりにし愛してもらっていると、自分は愛されてると、そう認めたかっただけです。
世の父親のような包み込む愛情を、世の母親のような優しい温もりを、それを自分だけに向けてほしかった。母さんが俺やメリアに向けたから、貴方はあの男性に包み込む愛情が欲しいと依存し、そして今度は母さんにまたあの優しい温もりが欲しいと依存している。
あの優しい母さんです。貴方がもう一度と何度も謝罪し頭を下げれば母さんは貴方を許すでしょう。そしたら貴方はまたあの男性に依存する。そしてまた母さんが離れていったらまた母さんに依存する。貴方は自分に自信がない。だから一度自分を愛してくれた人に依存し続ける。
俺は貴方から全力で母さんを守ります。母さんには母さんの幸せを見つけてほしい。俺やメリアが巣立ったあと、母さんには愛し愛される人を見つけてほしい。俺が母さんを任せられる、そんな男性が、母さんと一緒に幸せを築いてくれる男性が現れると思っています。もし現れなくても俺が母さんの笑顔を守ります。
あ、そうそう、あの男性ですが心から愛せる人が出来たそうですよ?貴方に一方的に振られ、でも体は男にしか反応しなくなり荒れに荒れたそうです。その時出会った男性とこの前幸せそうに歩いている姿を見ました。荒れに荒れた彼を献身的に支えたそうですよ?
例え男同士でもあの幸せそうな顔を見ていたら、性別なんて関係ないんだなと思いました。元々そんな偏見はもっていませんが、幸せのかたちに決まりはないと改めて思いましたよ。
どうします?貴方を愛してくれたあの男性も、貴方を愛してくれた母さんも、もう貴方にはいません。
あ、それから、貴方が俺やメリアを見ていた目、嫉妬のような羨ましがるような、そんな目でしたよ?」
ショーンは『また後日取りに来ます』と帰っていった。
帰っていったショーンが最後に残した言葉。
『父上、父上の心は満たされましたか?』
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