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「セレナ、後妻として嫁ぐということはお前だけの問題ではない。父様や母様は誰に何を言われようとお前が幸せなら耐えられる。お前も誰に陰口を叩かれようが耐える覚悟があるのだろう。だがアニーはどうだ?
それに我がリブ子爵家の信用問題にも繋がる。我々だけの家族なら、お前の好きにしなさいと言ってやれた。だが小さいながらも領地があり、そこで暮らす領民がいる。邸の使用人達もいる。我々貴族は皆の生活を養う義務がある」
お父様は私を諭すように優しい口調で話した。
「あちらのダフリー侯爵家はまだいいが、被害を被るのは我がリブ家だ」
私は何も言えなかった。
陰口を叩かれるだけならまだいい。
お父様の言うように、被害があるのは我がリブ家。娘を後妻として嫁がせた、それが意味することは、リブ家は没落する一歩手前だと連想させる。侯爵家からの資金援助なしには存続するのが難しい状態だと。
資金援助をしているかしていないかなど、誰にも分からない。
それでもその噂が流れれば取引先はリブ家から手を引くだろう。新たに取引先を見つけることも困難になる。
信用問題、貴族は信用あってこそ。
私の浅はかな考えで、大切な人達を不幸にしてしまう。
いいえ、してしまった。
今さら全てが嘘でしたと言う?アニーとショーンを婚約させたいが為に嘘をつきましたと?そんなことを言えばアニーは傷つき自分を責める。
私の婚約者候補だと知っていたのに、恋情を抱いたと。
自分さえそんな感情を抱かなければ私が嘘をつく必要もなかったと。
そしたら誰でもいいから婚約をしようとする。
それはショーンにも言える。
婚約者候補の妹に恋情を抱いた。喩え私に友情の情しかなくても、それでも自分の心を殺して私の婚約者候補として振る舞うべきだったと。
私達3人の関係は歪になる。誰も幸せになれない。誰も好きな人と結婚できず不幸になる。
仲が良かった姉妹の関係も、仲が良かった幼馴染との関係も。
相思相愛の二人の為に行動した。その結果が相思相愛の二人を引き離す結果になろうとは思いもしなかった。
使用人達の生活も、領民達の生活も、私は何も考えていなかった。
私が起こした過ちに、私が責任を取る。
「お父様、私を勘当してください」
「なにを馬鹿な……」
「私は世で言う好きになってはいけない人を好きになりました。家族を思えば諦めるべきでしょう。ですが諦めきれないのです」
私は家族を騙し嘘をつき続けるしかない。
「そこまで好きになったのか」
「はい」
お父様は頭を抱えた。
「少し父様に時間をくれないか」
お父様は頭を抱え俯いたまま。私は立ち上がり書斎をあとにした。
「レイラごめんなさい。貴女にも迷惑をかけたわ」
私の後ろを歩くレイラ。
「私こそ申し訳ありません」
「レイラは何も悪くないでしょう」
「ですが…」
レイラは何も悪くない。それはお父様も分かっている。だからレイラを辞めさせたりしない。
私はそれから私室で謹慎ではないけど、自主的に私室から出なかった。
反省ではなく、自分の意思を曲げるつもりはないという反抗。
何日も私が私室に籠もれば皆異変に気づく。そんな中、レイラはせっせと私の部屋に毎食ご飯を運んでくれる。
そんな生活を過ごし、ニ週間が経とうとした頃。
もう寝ようと私はベッドに入り、レイラが部屋を出ていこうとした時、一階はバタバタとしていた。
「下は騒がしそうね」
「何かあったのでしょうか。少し様子を見てきます」
レイラは部屋を出て行き、私は寝るに寝れず、ベッドの横にあるテーブルの上に置いてある水を飲んだ。
暫くして部屋に入ってきたレイラ。
「旦那様が珍しく酔ってお戻りになられたそうです」
「お父様が?珍しいこともあるのね」
今日は王宮で行われる定例会に出席していた。貴族の当主が一同に集まり、その後食事をしながら談笑する。もちろんお酒も振る舞われる。お父様は付き合い程度には飲むけど酔ったりはしない。
酔って帰ってくることなんて今まで一度もなかった。
もしかして私のせい?
でも貴族の当主が集まる定例会で醜態をさらすかしら。それこそ家で何かあったと皆に教えているようなもの。
私のことが頭にあったとしても、そのことは隠し通すわ。何事もないと、いつも通り振る舞うはず。
お父様は外で感情を表に出すほど馬鹿じゃない。
レイラが部屋を出て行ったあとも、私はお父様が気になって眠れなかった。
お父様の様子を見に行こうか、それでも反抗の為に部屋に籠もっているのに、今ここで部屋を出るのはどうなの、と一人で葛藤していた。
それでもやっぱり気になって、居ても立っても居られないと静かに部屋を出た。
今は夜更け、使用人達も私室に戻っている時間。邸の中は静まり返り、私が部屋を出ても誰も気づかない。
一階に下りれば書斎からぼそぼそと聞こえるお父様の声。
私は音を立てず静かに書斎に近づいた。
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