年の差のある私達は仮初の婚約者

アズやっこ

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なんとも言えない空気で別れたあの日。

もう、遅かった……。

気づいた時には、私はラウル様に恋をしていた。

あの晩の交友会、好ましいと思った時、きっと私は恋をした。だから帰る背中を見送った時声をかけた。明日会いましょうと。

これきりにしたくなかったのは私。

婚姻歴があるとか、後妻とか、そんなの関係ないくらい、貴方に恋をした。

「ですが」「でも」そんな言葉を言っていても、貴方の提案を断らなかったのは、断りたくなかったから。

何度も仮初の婚約者ですと言ったわ。そうしないと自分を止められなかったから。でも止めることなんて無理なのよ。

ほら、日に日に貴方を好きになってる。

夜も眠れない。食事も喉を通らない。1日中貴方のことを思ってる。

ほら、今だって貴方と出かけるからって何度も鏡の前で確認しているわ。

ドレスはシワになってないかしら。髪留めは曲がってない?髪の毛を肩の後ろにしたり少しだけ前にもってきたり。前髪を何度も触ったり。右を向いて左を向いて、何度も何度も確認している。

「お嬢様、お綺麗ですよ?」

「そうかしら…」

「お嬢様、どんなに綺麗な服を着ても、どんなに可愛い髪型にしても、一番はお嬢様の笑顔です」

「そう?」

「お嬢様の笑顔に勝るものはありません」

「そうね」

それでも私は何度も鏡の前で自分の姿を確認した。

「お嬢様、お見えになられましたよ」

窓の外から聞こえる馬車の音。

扉の所まで行っては鏡の前まで戻った。最後にもう一度だけ確認して、部屋から玄関へ移動すれば、玄関にはラウル様の姿。

自然と頬が上がる。

「おまたせしました」

「さあ、行こうか」

「はい」

ラウル様の手を借り馬車に乗り込む。向かいに座るラウル様。

馬車が動き出す。

「今日は観劇を楽しもう」

「はい、楽しみです」

劇場に着けば大勢の人がいる。なかなか席が取れないと有名な劇団。

案内され向かった先は個室になっていた。舞台を見渡せる特等席。

「こんないい席を、ありがとうございます…」

「ですがは言うなよ」

先に釘を差されてしまった。

「ここは侯爵家がいつも使用する席だ。ただ俺はいつも使用する席を予約しただけだ」

「はい…」

ラウル様の言葉に胸が痛んだ。

自分から迷惑だと、結構だと言ったのに、それでもこうして婚約者の義務を果たしてくれる。

それだけで十分なのに。

ただ、いつも使用しているって言葉にズキっとしただけ。

それはいつも使用していたってこと。

思い出の席。

この席に何度も座ったことがある人。

本当はその人と来たかったのかもしれない。その人と見たかったのかもしれない。今回は、前回とは、そう感想を話していたのかもしれない。

幕が上がる音。

本当ならワクワクする音。

どんな劇が始まるのか、どう演じるのか、楽しみにワクワクする時。

でも、私の心には警報のように聞こえた。

『そこに座るのはお前じゃない』

ふかふかの座席。体が沈み、心まで沈む。

私は膝に置いた手をぎゅっと握った。背筋を伸ばし、足を踏ん張った。沈まないように、考えないように、劇を見つめた。

内容なんて入ってこない。演じる人達の声も聞こえない。ただただ、私は見つめていただけ。

「どうだった?」

「初めて見たので…」

劇場をあとにし、少し街を見て回ろうと二人で歩いている。

私は両手で鞄を持つ。

硝子に映る私達。

どれだけ背伸びをしても、大人っぽい服装をしても、着させられてる私とは違い、着慣れているラウル様は大人の男性。

隣で歩くとそれがよく分かる。

「楽しくなかったか?」

「いいえ、そんなことは」

ただ勝手に傷ついて、勝手に落ち込んでいただけ。集中して見ていなかった私が悪い。

「教会か…。さっきの劇のように、俺達も神頼みでもするか」

ラウル様は教会の中に入っていった。私はその後を追う。

一番前の席に座ったラウル様。自分の隣をトントンと叩いた。「座れ」という意味だと、私はラウル様の隣に座った。

「セレナなら…、好きな人ができますように、か?」

「どうでしょう」

「ん?」

私達は二人共真っ直ぐ前を見つめている。

「神に願いを言うって、それは意志の表明だと思うんです。好きな人ができますように、そう願ったとして、何も行動をしない者に好きな人が現れるでしょうか。願いを言って、その願いの為に行動するから、その願いを叶えようと努力するから、努力した先に願いが叶えられる、そう思うんです。

例えば、医者になれますように、と願ったとします。何も勉強しなければ医者にはなれません。寝ている間に神が知識を与えてくれますか?」

何もしなくても叶えられるのなら皆が神頼みをする。

「潜在的に医者になりたいという強い思いがあり、だから勉強を頑張ろうと思う。神頼みしたから叶うはずと。成果が実を結んだ時、願いが叶ったと神に感謝します。でもそれは自分の努力の成果です。

自分の力ではどうにもならない時、それが神が与えてくれた贈り物です。人との出会いもそうでしょう。偶然が重なることもそうでしょう。にわかには信じがたいこと、見えない力、それが神からの授与。神の授与は、願いを叶えたいという強い思い、その願いを叶える為に行動した者にしか与えられない、そう思います。それを人は奇跡と呼びます」

私は真っ直ぐ神の像を見つめる。

「これから私は願いを叶える為に頑張ります。だから見ていてくださいませんか?神頼みってそういうものではないのかなと思うんです。そしてその強い思いに神が答えてくれれば奇跡が起こる」


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