年の差のある私達は仮初の婚約者

アズやっこ

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あれから何日経っただろう。

「セレナお嬢様」

レイラは何度も扉を叩き声をかける。それでも私は部屋の扉を開けることはなかった。

「お食事、扉の前に置きますね。一口でもお召し上がりください。必ずですよ」

レイラが去っていく足音を確認し、私は扉を開ける。まだ湯気が上がっているスープが置いてあり、私は部屋のテーブルに置いた。

スープを一匙すくい、またスープを皿に戻す。美味しいはずなのに、食べたいとは思えない。それでも皆が心配すると思い一口食べようとスプーンを口に運ぶ。それでも口の手前で手が止まり、またスプーンを戻す。

そしてまたベッドに戻り布団を被る。

「お姉様、どうしたの?何があったの?」

アニーもこうして何度も私に声をかけてくれる。

ラウル様はもう領地から帰ってきたかしら。もう息子さんとは会ったかしら。

きっと私のことなんか忘れて、家族水入らずの時間を過ごしているのかもしれない。

涙はとっくに枯れたと思っていたのに、こうしてラウル様を思うたびに涙が溢れてくる。

私だって分かってる。まだ幼い息子さんの為にも私が身を引くべきだって。

そんなこと分かってる。

それでも私はラウル様を愛してる。

今もこうしてラウル様が私に会いにくると期待している。息子さんよりも、元奥様よりも、私を選んでくれるって。そんな浅ましい考えをしている。

「お願いします。セレナと会わせてください」

ほら、ラウル様の幻聴が聞こえる。

ドンドンドン

「セレナ顔を見せてくれ」

ドンドンドン

「セレナ話を聞いてくれ」

私はラウル様の声に導かれるように扉の前に立った。

この扉の向こうにはラウル様がいる。

私は扉に手を当てた。

「セレナ、頼む、顔を見せてくれ。セレナの顔が見たい……」

私は扉に額を付けた。

私だって会いたい。顔を見たい。それでも会えば何を聞かされるのか分かっていてこの扉を開けることはできない。

「セレナ……」

扉の向こう側からズルズルズルと何かが擦れる音が聞こえた。

「セレナの顔が見たい。頼むよ……」

ラウル様の弱々しい声。

「ラウル様……」

「セレナ、そこに居るのか?」

私のつぶやいたような小さい声がラウル様にも聞こえた。

「頼む、ここを開けてほしい」

私は扉を開けようか迷っていた。

「そこでいい、俺の話を聞いてほしい」

私が迷っているうちに、ラウル様は話しだした。

「領地からの帰り道、ようやくセレナに会えると、この数週間がとても長かった。今度領地へ行く時は必ずセレナを連れて行こう、何度もそう思った。こんなに離れるのは俺が耐えられなかった」

私は扉の前で座り、扉に背を預けた。そしてラウル様の話に耳を傾ける。

「邸に着いた時、セレナが出迎えてくれると思っていた俺に母上は言った。元妻が帰ってきたと。そして小さい子供を見せられ、俺の子だと。だがあの子は俺の子じゃない」

「ですが、夫婦だったのなら……」

ラウル様が元奥様と離縁して3年。そして子供は2~3歳くらいとクッキー店で話していた女性は言っていた。

「頼む、ここから先は顔を見て話したい」

私は扉を開けた。

どんな話をされるか分からない。けど、このまま話もせずにはいられない。とりあえずラウル様の話を聞こうと思った。

「セレナ……」

ラウル様は私を抱きしめた。私を抱きしめるラウル様の手は震えていた。

「どうして貴方の子ではないと?」

私を抱きしめていたラウル様は、私の手を引きソファーに座った。私もラウル様の隣に座る。

「俺との子ができるわけがないからだ」

「確かにラウル様は以前言っていました。元奥様は子供を作ることに積極的ではないと。ですが貴方達は夫婦だった」

「俺達は確かに夫婦だった。だが……、……だがそういう行為をしたのは初夜の一回だけだ」

「え?」

初夜の一回だけ?

私は驚きラウル様を見つめる。

「もし俺の子だと言うのなら、5歳くらいになるはずだ」

5歳くらいなら離縁した時にはすでに産まれていることになる。

「初夜の一回だけって、そんな嘘を言わなくても」

「嘘じゃない」

ラウル様の真剣な顔に、嘘をついているとはどうしても思えなかった。

「どうして……」

私は信じられないとつぶやいていた。

確かラウル様が19歳、元奥様が18歳の時に結婚したとエマは言っていた。当時の二人を私は知らないけど、それでも初夜の一回だけって、そんなことってあるの?

高位貴族ほど跡継ぎ問題は重要で、特に男児を望む。子供は授かりものとはいえ、それでも一人産むまでは夫婦の営みをするはず。

元奥様が積極的ではなかったと言っていたけど…。

「恥ずかしい話だが、俺はその…………下手らしい」

「はい?」

「その……、あれだ。……房事が下手らしい」

「下手って。そんなの誰だって初めから上手なわけではないと思います。反対に初めから上手だったら嫌です」

上手い下手は分からないけど、それでもラウル様が顔を俯ける必要はない。

「一度きちんと元奥様の話をお聞きしたいと思っていました。この際全て教えてください」

気にはなるけど、元奥様の話を聞くつもりはなかった。でも他人から聞かされるよりはラウル様から聞きたいとも思ってはいた。

でも、元奥様を気にするより、私は私、今は私がラウル様の婚約者で、私なりにラウル様と愛を育めばいいと思った。

そう、元奥様が現れるまでは。

今は状況が違う。だからきちんと聞きたい。それで嫉妬するかもしれない。落ち込むかもしれない。

でも知らないままより知っていたい。


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