33 / 39
33
「彼女が18歳になり俺達は結婚した。初夜の晩だけが唯一一緒のベッドで寝た晩になった」
私は驚いた顔でラウル様を見つめた。
「俺達は別々の部屋で寝ていたんだ」
「え?」
「初めは隣に俺がいると怖いと言われた。あの痛みや恐怖を思い出すと。だから俺は彼女の気持ちの整理がつくまで待った。1年後、嫌がることはしない、だから一緒のベッドで寝ていいかと尋ねた。そしたら誰かが隣に居ると眠れないから嫌だと言われた」
ラウル様は嘲笑した。
その顔を見たら私は思わずラウル様を抱きしめていた。
「今思えば、俺は彼女から毛嫌いされていたんだと分かる。だがその時は彼女の心を優先するべきだと思っていた。父親を嫌悪していた彼女にとって男性は皆同じだと。だから俺は彼女に優しく接した。俺は違うと、父親のように差別はしないし、押さえつけるような真似はしないと、少しづつ分かってもらえたらいいと…」
「もういいです。ラウル様やめましょう。これ以上ラウル様が傷つく必要はありません」
私が聞きたいと言わなければラウル様は当時を思い出すことはなかった。当時も傷ついたのに、今こうしてまた私が傷つけている。ようやく傷が治ってきたのに、傷をほじくり返し、また傷口に塩を塗った。
「ごめんなさい」
私はラウル様をぎゅっと抱きしめた。
「いや、聞いてほしい」
ラウル様が聞いてほしいと言うのならきちんと最後まで聞こうと、ラウル様の言葉に私は頷いた。
「彼女を尊重するのも愛だと思っていた。体の繋がりだけではないと」
「はい、体の繋がりで確認できる愛もあるとは思いますが、やっぱり心の繋がりだと思ってしまいます」
「幼馴染を応援する彼女は度々幼馴染に会いに行っていた。夜遅くなることも泊まってくることもあった。でも俺は幼馴染の家なら安心だと思っていた」
幼馴染を女性だと思っていたのなら尚更安心だと思ってしまう。不倫を疑うこともなく、行き先は幼馴染の家。どこに居るのか分かっているから。
生活を支援し、芸に打ち込ませる。未来ある演者を育てるのにはお金がかかる。贔屓する演者の芽が出ようが出まいが、援助することに意義があり、富の象徴でもある。
一握りしかなれない劇団の一流役者、その幼馴染は一流役者になれたのだろうか。
「ある日彼女から言われた。「これからは幼馴染と生きていきたい。彼を愛しているの。ずっと子供の頃から彼を愛しているの」その時初めて幼馴染が男だと知った。「貴方は優しいだけで面白味もない人。私はもっと刺激がほしかった。恋い焦がれるような嫉妬するような、そんな愛を求めていたの。でも貴方はただ優しいだけ。つまらない男だったわ」そう言われ離縁を承諾した」
「なんて酷いことを……」
私の方が顔を歪ませた。
「「嫌がる私を無理矢理組み敷けば良かったのよ。それなのに貴方は私のご機嫌取りばかり。貴方の優しさは偽善よ」そう言われたが、嫌がる女性に無理矢理覆いかぶされるか?俺には無理だ」
「それでいいんです。ラウル様は悪くありません」
でも尚更元奥様が戻ってきた理由が分からないわ。幼馴染の男性に付いていったのは気の迷いで、本当はラウル様を愛していたのならまだ分かる。
一時の情熱に燃え上り我を忘れる人がいるかもしれないし、禁じられた関係に酔いしれる人もいるかもしれない。
でもラウル様の話を聞く限り、元奥様はラウル様を愛してはいないように思える。
そう、都合のいい男。
「では、元奥様が連れていた子供は」
「多分、幼馴染との子供だと思う。誓って俺の子供じゃない。だが母上は信じ切っている。今さら母上に初夜の一回しかそういう行為をしていないと言えるか?言えるわけがない」
親にそれも母親に夫婦の性事情を言うのは誰でも恥ずかしい。女の私がお父様に言うようなものだもの。私だってお父様には言いたくないわ。同性のお母様にだって言えない。親に隠したい気持ちは分かる。
「ですがこのままだとラウル様の子供になってしまいます。それに元奥様がしていることは乗っ取りだと疑われても仕方ありません」
ラウル様の子供ではない子をラウル様の子供だと嘘をつき、その子供を侯爵家の跡取りにしようとしているのなら、それは疑われても仕方がない。
そしてあわよくばまた妻の座に座ろうと考えているのなら厄介だわ。お義母様はラウル様の子供だと信じていた。元奥様はお義母様を味方につけたんだもの。
元奥様は幼馴染の男性の子供が宿り、ラウル様と離縁した。でも何らかの理由で戻ってきた。
でも、どれだけ優しいラウル様でも自分の子供ではない子を迎え入れることはしない。それでも、結婚していた頃だったのなら、ラウル様は受け入れたかもしれない。誰の子であろうと元奥様が産んだ子なら自分の子供だと。
でも今は違う。
真相を知るラウル様を頼った所で助けてはくれない。
なら。
お義母様を騙す方が簡単。離縁してから子供が宿っていることに気づいた、そう言えばいい。幸い?息子さんの年齢的に真実味がある。
あなたにおすすめの小説
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。