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次の日の朝にようやく下半身の熱が冷め、俺は獣人街の入口の警備に付いた。共存街から獣人街へ仕事に来る番持ちの出入りを監視する。
フワ~
クンクン…
俺はいつの間にか兎獣人に掴みかかった。
「俺の番だ。お前を殺す」
兎獣人は両手を上に上げている。
「ガイ、離せ!」
「黙れ!俺の番だ」
「何を言ってる」
「俺の番の匂いが付いてる」
「この人は番持ちだ。匂いもお前の番の物じゃない」
「微かに匂う。俺の番の匂いだ」
「分かったからまず手を離せ」
ジンは無理矢理俺の手を掴み兎獣人から離した。俺は兎獣人を睨む。
「私の番は私の愛する者です。君の番じゃない」
「あんたの番の匂いじゃない。他の人族の匂いだ」
「まさか! 昨日、妻の友人が家に遊びに来ましたが…」
「ッ!」
「ガイ、やめろ!お前は騎士だろ」
「分かってる。だが俺の番を見た目をくり抜き、声を聞いた耳を引き千切り、言葉を交わした口を引き裂きたい。そして匂いを嗅いだ鼻を潰さないと我慢が出来ない」
「………番の強制力は凄いな…」
「ジン君関心してる場合じゃないですよ」
「あ~そうでした。ラシュさん申し訳ありません」
「ですが困りましたね」
「何がですか?」
「彼には聞かせられません」
「分かりました」
怒り狂ってる俺はいつの間にか手に枷を嵌められ隊長に連れられ部屋に軟禁された。
◆ ラシュさんとジンの会話 ◆
「彼の番は私の妻の友人で間違いないでしょう。私が昨日会った家族以外では妻の友人だけです」
「そうですか。その、」
「何です?」
「その友人は旦那さんとか恋人とかがいるのですか?」
「いませんよ」
「ならどうして困った事になるんです?」
「はぁぁ。あまり言いたくないのですが彼の態度を見ていると…」
「分かります。狼は只でさえ愛が重い種族ですから」
「愛が重いのは別に関係ありませんよ」
「なら、」
「問題は彼の牙と鋭い爪です。彼女は獣人を憎んでいます。それも牙と鋭い爪を持つ獣人をです」
「それは、一体…」
「10年前、彼女のお兄さんが獣人に噛み殺されました。虎獣人と豹獣人の方々に。ちょうど発情期で酩酊状態の獣人相手に騎士だった彼女のお兄さんは剣を抜かなかった」
「え?」
「剣は鞘から抜かれていなかった。それなのに獣人達は首から肩を抉り、腕は噛み千切られ、剣を持っていた右手は道に落ちていた。鞘に入ったままの剣を持ったままです。顔から身体全体に爪で引き裂き喉元に歯型がくっきり残る跡が付いていました」
「ラシュさんはどうしてそれを…」
「私は見習い医師として記録係で呼ばれました。彼は最後まで我等を人として扱ってくれた方です。獣人達の怪我は打撲ぐらいでした。切られた跡は無かった。彼は獣人達に襲われていた獣人の女性をこの境界線を越えて助けました。昔は今みたいに立派な門ではなく低い塀があるだけで自由に行き来が出来ました。騎士の見回りも人族だけの日もあり、今みたいに日夜駐在する獣人の騎士はいませんでした。彼は我等を人と扱い騎士として傷付ける事をしなかった。力で勝る我等相手にです。彼女はまだ十歳だった。大好きなお兄さんの死だけでもショックなのに身体の傷を見てしまったそうです。獣に噛み千切られ、引き裂かれたお兄さんの亡骸を…。私は彼女の友人の番です。そして私は兎です。それでも初めて会った時の彼女は私を憎み射殺さんと言わず程の目で私を見ました。牙と鋭い爪を持つ彼が番から向けられる目に耐えられると思いますか?彼の友人としてどう思います?」
「耐えられない、と言うか、ガイも人族を憎んでいます。ガイのお姉さんには人族の番がいました。人族に番の強制はありません。浮気をする事も出来る。ですが獣人のお姉さんは番から香る他の雌の匂いに怒り狂った。人族だけでなく獣人の雌とも浮気をしたんです。怒り狂ったお姉さんから人族の番は逃げた。番を失った獣人の成の果ては分かりますよね?」
「そうですね。壮絶だったと思います。だと本当に困りましたね」
「はい…。ガイは、ガイは番が人族なら虚勢し施設に一生入るつもりです」
「そうですか…。ですが、それが一番良い方法です」
「そんな………」
「番と言ってもお互い憎むべき相手同士です。番の本能で一緒になってもいずれどちらかが相手を許せなくなるでしょう。番の強制力が強い獣人の憎しみの方が勝ると思います。愛しい憎いを繰り返し、番を自分の手で葬る。番を知れば手放す事は出来ません。手放すくらいなら自分の手で…と思うものです」
「………」
「人族との番とは乙女チックな恋愛小説ではありませんよ?もっとドロドロとした非恋です。獣人同士なら分かり和えますが人族なら人としての理性がないと上手くいきませんよ。人族は自由に行動します。他の男性の匂いを付けて帰って来ます。その度に本能で押さえ込むのですか?」
「え?」
「買い物に行けば他の匂いが付きますよ。道を歩きぶつかれば匂いが移ります」
「………はい」
「それを耐える理性がないと人族との番は破綻します」
フワ~
クンクン…
俺はいつの間にか兎獣人に掴みかかった。
「俺の番だ。お前を殺す」
兎獣人は両手を上に上げている。
「ガイ、離せ!」
「黙れ!俺の番だ」
「何を言ってる」
「俺の番の匂いが付いてる」
「この人は番持ちだ。匂いもお前の番の物じゃない」
「微かに匂う。俺の番の匂いだ」
「分かったからまず手を離せ」
ジンは無理矢理俺の手を掴み兎獣人から離した。俺は兎獣人を睨む。
「私の番は私の愛する者です。君の番じゃない」
「あんたの番の匂いじゃない。他の人族の匂いだ」
「まさか! 昨日、妻の友人が家に遊びに来ましたが…」
「ッ!」
「ガイ、やめろ!お前は騎士だろ」
「分かってる。だが俺の番を見た目をくり抜き、声を聞いた耳を引き千切り、言葉を交わした口を引き裂きたい。そして匂いを嗅いだ鼻を潰さないと我慢が出来ない」
「………番の強制力は凄いな…」
「ジン君関心してる場合じゃないですよ」
「あ~そうでした。ラシュさん申し訳ありません」
「ですが困りましたね」
「何がですか?」
「彼には聞かせられません」
「分かりました」
怒り狂ってる俺はいつの間にか手に枷を嵌められ隊長に連れられ部屋に軟禁された。
◆ ラシュさんとジンの会話 ◆
「彼の番は私の妻の友人で間違いないでしょう。私が昨日会った家族以外では妻の友人だけです」
「そうですか。その、」
「何です?」
「その友人は旦那さんとか恋人とかがいるのですか?」
「いませんよ」
「ならどうして困った事になるんです?」
「はぁぁ。あまり言いたくないのですが彼の態度を見ていると…」
「分かります。狼は只でさえ愛が重い種族ですから」
「愛が重いのは別に関係ありませんよ」
「なら、」
「問題は彼の牙と鋭い爪です。彼女は獣人を憎んでいます。それも牙と鋭い爪を持つ獣人をです」
「それは、一体…」
「10年前、彼女のお兄さんが獣人に噛み殺されました。虎獣人と豹獣人の方々に。ちょうど発情期で酩酊状態の獣人相手に騎士だった彼女のお兄さんは剣を抜かなかった」
「え?」
「剣は鞘から抜かれていなかった。それなのに獣人達は首から肩を抉り、腕は噛み千切られ、剣を持っていた右手は道に落ちていた。鞘に入ったままの剣を持ったままです。顔から身体全体に爪で引き裂き喉元に歯型がくっきり残る跡が付いていました」
「ラシュさんはどうしてそれを…」
「私は見習い医師として記録係で呼ばれました。彼は最後まで我等を人として扱ってくれた方です。獣人達の怪我は打撲ぐらいでした。切られた跡は無かった。彼は獣人達に襲われていた獣人の女性をこの境界線を越えて助けました。昔は今みたいに立派な門ではなく低い塀があるだけで自由に行き来が出来ました。騎士の見回りも人族だけの日もあり、今みたいに日夜駐在する獣人の騎士はいませんでした。彼は我等を人と扱い騎士として傷付ける事をしなかった。力で勝る我等相手にです。彼女はまだ十歳だった。大好きなお兄さんの死だけでもショックなのに身体の傷を見てしまったそうです。獣に噛み千切られ、引き裂かれたお兄さんの亡骸を…。私は彼女の友人の番です。そして私は兎です。それでも初めて会った時の彼女は私を憎み射殺さんと言わず程の目で私を見ました。牙と鋭い爪を持つ彼が番から向けられる目に耐えられると思いますか?彼の友人としてどう思います?」
「耐えられない、と言うか、ガイも人族を憎んでいます。ガイのお姉さんには人族の番がいました。人族に番の強制はありません。浮気をする事も出来る。ですが獣人のお姉さんは番から香る他の雌の匂いに怒り狂った。人族だけでなく獣人の雌とも浮気をしたんです。怒り狂ったお姉さんから人族の番は逃げた。番を失った獣人の成の果ては分かりますよね?」
「そうですね。壮絶だったと思います。だと本当に困りましたね」
「はい…。ガイは、ガイは番が人族なら虚勢し施設に一生入るつもりです」
「そうですか…。ですが、それが一番良い方法です」
「そんな………」
「番と言ってもお互い憎むべき相手同士です。番の本能で一緒になってもいずれどちらかが相手を許せなくなるでしょう。番の強制力が強い獣人の憎しみの方が勝ると思います。愛しい憎いを繰り返し、番を自分の手で葬る。番を知れば手放す事は出来ません。手放すくらいなら自分の手で…と思うものです」
「………」
「人族との番とは乙女チックな恋愛小説ではありませんよ?もっとドロドロとした非恋です。獣人同士なら分かり和えますが人族なら人としての理性がないと上手くいきませんよ。人族は自由に行動します。他の男性の匂いを付けて帰って来ます。その度に本能で押さえ込むのですか?」
「え?」
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「………はい」
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