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俺は騎士団の一室に軟禁されてる。それも手に枷を付けられた状態でだ。
何故だ、俺は人族が憎い。それなのにあの兎から微かに匂った番の匂いに我を忘れた。いきなり掴みかかり殺したいと思ってしまった。「俺の番だ」と。目の前の兎をどう殺そうか考えた。俺は騎士だ。抵抗しない者を殺そうなど、俺は狂ってる。
コンコン
「ガイ、大丈夫…じゃないな」
「ふん!」
「ガイ、」
「何だ」
「ガイは人族の番が欲しいのか?」
「欲しいに決まってる。俺の番だ!」
「憎む人族なんだぞ?」
「………」
俺は無言で睨んだ。
「なあ、俺はお前が狂う所なんか見たくない」
「もう遅い。俺はもう狂ってる」
「ガイ、」
「なぁジン、俺の本能は番が欲しくて欲しくて堪らない。だけどな理性は人族を憎んでる。人族の番はいらないと…」
「ガイ、施設入るのか?」
「それが一番良い」
「そうか…。それなら早く入った方が良い。番を追い求め狂う前に…」
「ああ、分かってる」
頭では分かってる。人族の番はいらない、憎む相手だと。だけど魂が叫ぶ、愛しい番を手に入れたいと。俺は狂ってる。このままだと俺は俺を傷付け狂い死ぬ、姉さんの様に…。番を諦めようと考えれば考える程、俺の心が空虚になっていく。俺はもう狂ってる…。
コンコン
「入るよ」
「兎!」
「睨まないで理性で話をしましょう」
「何だ」
「ジン君に聞きましたが施設に入るのですか?」
「それが一番良い」
「そうですか。それなら本能を消す注射を打ちますか?」
「何?」
「男性の機能を失くす物です」
「打つ」
「ただしこれを打てば番を永遠に失う事になります。それでも打ちますか?」
「………」
「迷いは何ですか?」
「迷い?」
「君は迷ってます。それは何ですか?」
「それは、」
「魂が叫ぶのですか?番を手に入れたいと…」
「ッ、ああ」
「私の番は人族です。人族の番になるには理性がないとなれませんよ? 人の匂いは移り香として残ります。すれ違った、ぶつかった、話した、それだけでも移ります。その度に本能で押さえ込めば人族は逃げます。理性を保ちながら自分の匂いを付けないといけません。それが君に出来ますか? 狼は愛が重たい種族です。獣の性が出やすい、それでも理性を保ち相手を尊重出来ますか?」
「ッ」
「君が人族を憎んでいる様に彼女も獣人を憎んでいる。それでも番を手に入れたいと思うのなら理性を保て」
「ッ、わ、分かった…。俺はもう番を手放す事なんか出来ない。狂い死ぬか理性を保つか選ぶなら理性を保つ」
「簡単ではありませんよ?」
「分かってる」
「それから番以外の人族を許しなさい。そして憎むのをやめなさい」
その日から理性を保つ為に剣を振る。兎は家に入る前に一呼吸吐いてリセットすると言っていた。俺は剣を振ってから番に会おう。邪念を振り落とし番と向き合う。
だけど番以外の人族を許せるのか?憎むのをやめられるのか? 無理だ。
番は、多分許せる。愛しい俺の番だ。憎むと言うより愛したい。匂いだけでこれだ、一目会えば…。
俺はひたすら剣を振るう。
◆ ラシュとリーナの会話 ◇
「ラシュ、おかえりなさい」
「ただいま戻りました。クンクン、今日は商店街に行きましたか?」
「そうなの」
「誰かにぶつかりましたね?」
「え?分かる?」
「ええ。怪我はしてませんか?見せて下さい」
ラシュはリーナの身体を隅々まで見て自分の身体を擦り寄せ、口付けを落とし匂いを付けていく。
「はぁ、安心しました」
「心配させた?」
「はい」
「ごめんね?」
「いえ。それより大事な話があります」
「何?」
「アイリス嬢の番が見つかりました」
「え?」
「それも狼獣人です」
「それは…」
「はい。牙と鋭い爪を持っています」
「アイリスには無理よ?」
「おそらく番を拒絶するでしょう」
「アイリスが拒絶したらどうなるの?」
「番を求め………止めましょう」
「ラシュ」
「あまりリーナには聞かせたくありません」
「ラシュ、お願い。私も獣人の親よ?ミミやレイ、それにお腹の子の為にも知らないといけない」
「分かりました。種族によって多少変わりますがそれでも成れの果ては狂い死にます。番を求めて心が壊れ、身体が壊れ、怒り、憎み、それでも愛する番を求めて狂い、狂いながら息絶えます。獣人にとって番は自分の命よりも大切な唯一無二の存在です。 狼獣人など本能が強い種族は番が先に死ねば直ぐに後を追います」
「……そう」
「アイリス嬢の番はアイリス嬢の微かな匂いを嗅いでしまった。もう彼は番に囚われた獣です」
「獣?」
「私もリーナに囚われた獣です。番とは獣の本能です。愛し囲い自分の懐に入れ離さない、誰の目にも入れたくない。そして自分の匂いだけを付け閉じ込めたい」
「ラシュも?」
「私も獣です。本能はそうしたい。ですが人としての理性で本能を押え込んでいます」
「………そう」
「私が怖いですか?」
「どうして?」
「獣の部分も私です」
「そうね。それでも今まで過ごした貴方も嘘偽りない貴方でしょ? 獣のラシュも人のラシュもラシュはラシュだわ。私の愛する旦那様に変わりはないわ」
「リーナ、愛しい私の番」
何故だ、俺は人族が憎い。それなのにあの兎から微かに匂った番の匂いに我を忘れた。いきなり掴みかかり殺したいと思ってしまった。「俺の番だ」と。目の前の兎をどう殺そうか考えた。俺は騎士だ。抵抗しない者を殺そうなど、俺は狂ってる。
コンコン
「ガイ、大丈夫…じゃないな」
「ふん!」
「ガイ、」
「何だ」
「ガイは人族の番が欲しいのか?」
「欲しいに決まってる。俺の番だ!」
「憎む人族なんだぞ?」
「………」
俺は無言で睨んだ。
「なあ、俺はお前が狂う所なんか見たくない」
「もう遅い。俺はもう狂ってる」
「ガイ、」
「なぁジン、俺の本能は番が欲しくて欲しくて堪らない。だけどな理性は人族を憎んでる。人族の番はいらないと…」
「ガイ、施設入るのか?」
「それが一番良い」
「そうか…。それなら早く入った方が良い。番を追い求め狂う前に…」
「ああ、分かってる」
頭では分かってる。人族の番はいらない、憎む相手だと。だけど魂が叫ぶ、愛しい番を手に入れたいと。俺は狂ってる。このままだと俺は俺を傷付け狂い死ぬ、姉さんの様に…。番を諦めようと考えれば考える程、俺の心が空虚になっていく。俺はもう狂ってる…。
コンコン
「入るよ」
「兎!」
「睨まないで理性で話をしましょう」
「何だ」
「ジン君に聞きましたが施設に入るのですか?」
「それが一番良い」
「そうですか。それなら本能を消す注射を打ちますか?」
「何?」
「男性の機能を失くす物です」
「打つ」
「ただしこれを打てば番を永遠に失う事になります。それでも打ちますか?」
「………」
「迷いは何ですか?」
「迷い?」
「君は迷ってます。それは何ですか?」
「それは、」
「魂が叫ぶのですか?番を手に入れたいと…」
「ッ、ああ」
「私の番は人族です。人族の番になるには理性がないとなれませんよ? 人の匂いは移り香として残ります。すれ違った、ぶつかった、話した、それだけでも移ります。その度に本能で押さえ込めば人族は逃げます。理性を保ちながら自分の匂いを付けないといけません。それが君に出来ますか? 狼は愛が重たい種族です。獣の性が出やすい、それでも理性を保ち相手を尊重出来ますか?」
「ッ」
「君が人族を憎んでいる様に彼女も獣人を憎んでいる。それでも番を手に入れたいと思うのなら理性を保て」
「ッ、わ、分かった…。俺はもう番を手放す事なんか出来ない。狂い死ぬか理性を保つか選ぶなら理性を保つ」
「簡単ではありませんよ?」
「分かってる」
「それから番以外の人族を許しなさい。そして憎むのをやめなさい」
その日から理性を保つ為に剣を振る。兎は家に入る前に一呼吸吐いてリセットすると言っていた。俺は剣を振ってから番に会おう。邪念を振り落とし番と向き合う。
だけど番以外の人族を許せるのか?憎むのをやめられるのか? 無理だ。
番は、多分許せる。愛しい俺の番だ。憎むと言うより愛したい。匂いだけでこれだ、一目会えば…。
俺はひたすら剣を振るう。
◆ ラシュとリーナの会話 ◇
「ラシュ、おかえりなさい」
「ただいま戻りました。クンクン、今日は商店街に行きましたか?」
「そうなの」
「誰かにぶつかりましたね?」
「え?分かる?」
「ええ。怪我はしてませんか?見せて下さい」
ラシュはリーナの身体を隅々まで見て自分の身体を擦り寄せ、口付けを落とし匂いを付けていく。
「はぁ、安心しました」
「心配させた?」
「はい」
「ごめんね?」
「いえ。それより大事な話があります」
「何?」
「アイリス嬢の番が見つかりました」
「え?」
「それも狼獣人です」
「それは…」
「はい。牙と鋭い爪を持っています」
「アイリスには無理よ?」
「おそらく番を拒絶するでしょう」
「アイリスが拒絶したらどうなるの?」
「番を求め………止めましょう」
「ラシュ」
「あまりリーナには聞かせたくありません」
「ラシュ、お願い。私も獣人の親よ?ミミやレイ、それにお腹の子の為にも知らないといけない」
「分かりました。種族によって多少変わりますがそれでも成れの果ては狂い死にます。番を求めて心が壊れ、身体が壊れ、怒り、憎み、それでも愛する番を求めて狂い、狂いながら息絶えます。獣人にとって番は自分の命よりも大切な唯一無二の存在です。 狼獣人など本能が強い種族は番が先に死ねば直ぐに後を追います」
「……そう」
「アイリス嬢の番はアイリス嬢の微かな匂いを嗅いでしまった。もう彼は番に囚われた獣です」
「獣?」
「私もリーナに囚われた獣です。番とは獣の本能です。愛し囲い自分の懐に入れ離さない、誰の目にも入れたくない。そして自分の匂いだけを付け閉じ込めたい」
「ラシュも?」
「私も獣です。本能はそうしたい。ですが人としての理性で本能を押え込んでいます」
「………そう」
「私が怖いですか?」
「どうして?」
「獣の部分も私です」
「そうね。それでも今まで過ごした貴方も嘘偽りない貴方でしょ? 獣のラシュも人のラシュもラシュはラシュだわ。私の愛する旦那様に変わりはないわ」
「リーナ、愛しい私の番」
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