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月日がたち、私は今日、共存街のリーナの家に来ている。
二歳の誕生日を迎えたミミとレイを祝う為に、私はミミの大好きな甘いお菓子とレイが大好きな果物を籠がいっぱいになるまで詰め込んだ。
「ミミ~、レイ~」
「「アー」」
「誕生日おめでとう」
私はミミとレイを抱きしめた。
「アイリス、ありがとう」
「あっ、そうだ」
私は鞄から手紙を出し、レイに渡した。アンネからよと伝えて。
「アンネがね、レイの匂いが安心するって言ってたの。アンネはレイが大好きみたいよ?」
「アンネちゃんが? まあ、アンネちゃんは未来の私の娘ね」
「気が早いわよ。それに、番の事聞いたら、レイの自覚が出る前に会わせない方が良いのかもと思って」
「それはおそらくもう無理ですね」
「ラシュ様」
「レイを見て下さい」
私達はレイを見た。アンネの手紙にスリスリしてる?
「手紙から番の匂いを本能で感じとり自分の匂いを付けています。きっとアイリス嬢や他の者の匂いを全て自分の匂いに変えていると思いますよ?二人共まだ幼い。成長してみないと番か分かりませんが、それでも好ましい匂いと言う事は確かの様です」
「ならまだ番ではないと言う事ですか?」
「おそらくですが、番に間違いないと思います。幼いからこそ匂いに敏感で獣の本能が出やすい。アンネ嬢がレイを好ましく思ってくれてるのがレイにとっては余程嬉しいのでしょう。ほら」
レイはアンネの手紙を懐に入れて抱きしめてる。
「あれは番に向ける求愛行動の一つです。抱きしめ己の懐に入れ、温め、愛しいと離さない。レイはアンネ嬢の手紙からアンネ嬢の匂いに求愛行動をしています」
「まあ」
「それでもお互い成長すれば他に目がいきます。好ましい匂いが変わるかもしれません」
「番って何人もいるのですか?唯一無二の存在だと思っていました」
「いえ、唯一無二です。それに番は生涯一人しか居ません」
「ならレイの番はアンネと言う事になりませんか?」
「そうですね。ですが幼い時に番を認識するとは思えません。好ましい匂いと位置付けた方がしっくりくる気がします」
「ではレイとアンネは番ではないと」
「最も番に近い存在でしょうか。番で間違いないと断言は出来ません。我々は見守るしかありません」
「そうですね」
「アイリス嬢」
「はい」
「リーナに聞きました。番に会う気があると」
「はい。一度お会いしたいです」
「怖くありませんか?」
「正直怖いです。相手を憎いと思うかもしれません。それでも一度お会いしてみたいのです。私の唯一無二の存在の方なのですよね?」
「そうですね。ですが人族には、」
「分かっています。番と認識するかしないか私も分かりません。それに獣人を拒絶するかもしれません。それでも一度お会いしたいのです」
「覚悟はありますか?」
「覚悟?ですか?」
「はい。番の成れの果てを背負う覚悟です」
「成れの果て」
「微かな匂いだけで番に囚われている獣人に姿を見せたら最後ですよ?」
「最後…」
「獣人は番を離さないように囲い、逃げてもどこまでも追いかけます。捕まえたら今度は死ぬまで離さないでしょう。それでも貴女が拒絶すれば獣人は狂い、心を壊し、身体を痛めつけ、最後は番を憎み愛しいと思いながら狂い死にます。それを背負う覚悟はありますか? 番に死ねと言う覚悟です。そして貴女は殺したという覚悟です」
私は背筋がゾゾっと冷たい何かを感じた。
覚悟…、私は番殺しとしてこれから生きていけるのか…。私達人族が番に会うと言う事はその先の未来の覚悟を持つべきだ。拒絶をせず共存する未来…。覚悟…。私にある?
(アイリス、兄ちゃんな、憎しみは嫌いだ。憎しみからは何も生まれない。憎しみに返ってくるのはより強い憎悪だ。それよりも憎しみを許し、手を取り合いたい。許し合う先にしか明るい未来はないと思う。 アイリス、愛しい可愛い俺の妹。 アイリスの未来は憎まず許し合い、人族と獣人、共に共存出来る明るい未来になってると良いな)
お兄様の優しい笑顔が思い出された。お兄様は憎まず許し合い、共に共存する未来を思い描いていた。そしてそれを実行していたのだ。獣人を一人の人として接し、騎士として防ぎながら相手を諭し説得していたと思う。だからお父様は「運が悪かった」と言ったのね。発情期で酩酊状態で人ではなく獣だったから…。
「ラシュ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい」
「発情期を抑える薬は無いのですか?」
「発情期は獣の本能です。自分の雌に小種を出し子孫を残したいと言う獣の本能です。虚勢し失くす事は出来ますが普通の生活は出来ません」
「失くさず抑えるです。酩酊状態にならなければ良いだけです」
「それなら可能です。薬も開発されてます。ただ値段が高く誰でも手に出来る訳ではありません。今は騎士団が酩酊状態の獣人を抑える為に常備注射を持っています」
「そうですか」
「何故ですか?」
「お兄様が描いた未来は許し合った先の人族と獣人の共存です。そしてお兄様は酩酊状態の獣相手に殺されました。きっと一番獣人を慕い共に暮らす仲間だと思っていたのはお兄様だと思います」
「はい」
「お兄様の思い描いた未来には憎しみはありませんでした。現実は憎しみだらけです。私も獣人は憎い。ですが、お兄様が許せと言うんです」
「はい」
「背負う覚悟あります。会わせて下さい」
二歳の誕生日を迎えたミミとレイを祝う為に、私はミミの大好きな甘いお菓子とレイが大好きな果物を籠がいっぱいになるまで詰め込んだ。
「ミミ~、レイ~」
「「アー」」
「誕生日おめでとう」
私はミミとレイを抱きしめた。
「アイリス、ありがとう」
「あっ、そうだ」
私は鞄から手紙を出し、レイに渡した。アンネからよと伝えて。
「アンネがね、レイの匂いが安心するって言ってたの。アンネはレイが大好きみたいよ?」
「アンネちゃんが? まあ、アンネちゃんは未来の私の娘ね」
「気が早いわよ。それに、番の事聞いたら、レイの自覚が出る前に会わせない方が良いのかもと思って」
「それはおそらくもう無理ですね」
「ラシュ様」
「レイを見て下さい」
私達はレイを見た。アンネの手紙にスリスリしてる?
「手紙から番の匂いを本能で感じとり自分の匂いを付けています。きっとアイリス嬢や他の者の匂いを全て自分の匂いに変えていると思いますよ?二人共まだ幼い。成長してみないと番か分かりませんが、それでも好ましい匂いと言う事は確かの様です」
「ならまだ番ではないと言う事ですか?」
「おそらくですが、番に間違いないと思います。幼いからこそ匂いに敏感で獣の本能が出やすい。アンネ嬢がレイを好ましく思ってくれてるのがレイにとっては余程嬉しいのでしょう。ほら」
レイはアンネの手紙を懐に入れて抱きしめてる。
「あれは番に向ける求愛行動の一つです。抱きしめ己の懐に入れ、温め、愛しいと離さない。レイはアンネ嬢の手紙からアンネ嬢の匂いに求愛行動をしています」
「まあ」
「それでもお互い成長すれば他に目がいきます。好ましい匂いが変わるかもしれません」
「番って何人もいるのですか?唯一無二の存在だと思っていました」
「いえ、唯一無二です。それに番は生涯一人しか居ません」
「ならレイの番はアンネと言う事になりませんか?」
「そうですね。ですが幼い時に番を認識するとは思えません。好ましい匂いと位置付けた方がしっくりくる気がします」
「ではレイとアンネは番ではないと」
「最も番に近い存在でしょうか。番で間違いないと断言は出来ません。我々は見守るしかありません」
「そうですね」
「アイリス嬢」
「はい」
「リーナに聞きました。番に会う気があると」
「はい。一度お会いしたいです」
「怖くありませんか?」
「正直怖いです。相手を憎いと思うかもしれません。それでも一度お会いしてみたいのです。私の唯一無二の存在の方なのですよね?」
「そうですね。ですが人族には、」
「分かっています。番と認識するかしないか私も分かりません。それに獣人を拒絶するかもしれません。それでも一度お会いしたいのです」
「覚悟はありますか?」
「覚悟?ですか?」
「はい。番の成れの果てを背負う覚悟です」
「成れの果て」
「微かな匂いだけで番に囚われている獣人に姿を見せたら最後ですよ?」
「最後…」
「獣人は番を離さないように囲い、逃げてもどこまでも追いかけます。捕まえたら今度は死ぬまで離さないでしょう。それでも貴女が拒絶すれば獣人は狂い、心を壊し、身体を痛めつけ、最後は番を憎み愛しいと思いながら狂い死にます。それを背負う覚悟はありますか? 番に死ねと言う覚悟です。そして貴女は殺したという覚悟です」
私は背筋がゾゾっと冷たい何かを感じた。
覚悟…、私は番殺しとしてこれから生きていけるのか…。私達人族が番に会うと言う事はその先の未来の覚悟を持つべきだ。拒絶をせず共存する未来…。覚悟…。私にある?
(アイリス、兄ちゃんな、憎しみは嫌いだ。憎しみからは何も生まれない。憎しみに返ってくるのはより強い憎悪だ。それよりも憎しみを許し、手を取り合いたい。許し合う先にしか明るい未来はないと思う。 アイリス、愛しい可愛い俺の妹。 アイリスの未来は憎まず許し合い、人族と獣人、共に共存出来る明るい未来になってると良いな)
お兄様の優しい笑顔が思い出された。お兄様は憎まず許し合い、共に共存する未来を思い描いていた。そしてそれを実行していたのだ。獣人を一人の人として接し、騎士として防ぎながら相手を諭し説得していたと思う。だからお父様は「運が悪かった」と言ったのね。発情期で酩酊状態で人ではなく獣だったから…。
「ラシュ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい」
「発情期を抑える薬は無いのですか?」
「発情期は獣の本能です。自分の雌に小種を出し子孫を残したいと言う獣の本能です。虚勢し失くす事は出来ますが普通の生活は出来ません」
「失くさず抑えるです。酩酊状態にならなければ良いだけです」
「それなら可能です。薬も開発されてます。ただ値段が高く誰でも手に出来る訳ではありません。今は騎士団が酩酊状態の獣人を抑える為に常備注射を持っています」
「そうですか」
「何故ですか?」
「お兄様が描いた未来は許し合った先の人族と獣人の共存です。そしてお兄様は酩酊状態の獣相手に殺されました。きっと一番獣人を慕い共に暮らす仲間だと思っていたのはお兄様だと思います」
「はい」
「お兄様の思い描いた未来には憎しみはありませんでした。現実は憎しみだらけです。私も獣人は憎い。ですが、お兄様が許せと言うんです」
「はい」
「背負う覚悟あります。会わせて下さい」
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