憎しみあう番、その先は…

アズやっこ

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 ◆◇ レオン視点 ◆◇



 アイリスに部屋に戻る様に言い、俺はまたクロードと二人きりになった。何を話す訳でもない、ただ側にいたいだけだ。離れたくないだけだ。


「やっぱり貴方でしたか」


 声をかけられ振り返る。


「弟君か」

「はい。兄上は俺の事何て言ってました?」

「可愛がりたいのに可愛がらせて貰えないと言っていたよ」

「俺は年が近かったので」

「ああ、クロードも言っていた。年が近いから可愛がると嫌がられるとな」

「俺も本当は甘えたかった。だけど尊敬する兄上に甘えたら兄上の様になれないと思っていたんです」

「そうなのか?」

「はい」

「それでもクロードは甘えて欲しかったみたいだぞ?クロードは弟も妹も可愛いといつも言っていた」

「そうでしたか。なら素直に甘えれば良かったです」

「ケビンは努力家で俺はケビンの様にはなれない」

「兄上が?」

「ああ」

「兄上の方が努力家ですよ。だから俺は兄上の真似をしたんです。俺は剣は振れません。だから勉強した」

「そうなのか?」

「俺にとって兄上は誇りです」

「そうか」

「兄上は毎日鍛錬を怠りません。鍛錬する姿は勇ましく凛としていた。纏う空気が神々しい姿でした」

「ああ」

「誰も近づく事を許さない。嫌、近づく事など出来なかった」

「ああ」

「あの日、貴方が兄上を抱きしめ護る姿を見て、どうしても貴方だけは恨む事も憎む事も出来なかった」

「そうか」

「レオン兄上」

「ん?」

「そう呼んでも良いですか?」

「それは構わないが」

「父上もレオン兄上を息子だと言ってます」

「アイリスにも聞いた」

「そうですね。アイリスもレオン兄上を兄上と認めている」

「そうだが…」

「すみません、全部見てました」

「ん?」

「アイリスとレオン兄上の様子を」

「そうか」

「アイリスもレオン兄上を慕っています。そしてレオン兄上もアイリスを大事に可愛いがってる」

「ああ、クロードに託された」

「兄上が?」

「ああ。クロードの弟に言う事では無いが、事切れる時にアイリスを頼むとクロードに託された」

「そうですか」

「すまない、思い出す事を言った」

「いえ。一つ伺っても?」

「構わない」

「レオン兄上にとって兄上はどこにいますか?」

「俺の心の中にいる」

「良かった」


 ケビンはクロードが好きだった酒を自分が持ってきたコップと机の上に置いてあるコップに注ぎ、一つをクロードの墓に、一つを俺に渡した。


「この酒、普段飲まない兄上が唯一飲む酒です」

「ああ」

「兄上が飲む時は決まって祝い事の時だけ」

「ああ」

「誰かの誕生日か良い事があった時だけです」

「ああ」

「レオン兄上も一緒に飲んだ事ありますか?」

「ああ、俺の誕生日とクロードの誕生日、後は仲間の騎士達の結婚式、ケビンとアイリスの誕生日にも飲んだな」

「そうでしたか」

「後はお互いが昇進した時だな」

「今日はレオン兄上が父上の息子になり俺とアイリスの兄になった祝い酒です」

「アイリスとガイの結婚の祝いじゃないのか?」

「それも含みます」

「伯爵の息子になってケビンとアイリスの兄か。本当になれたらどれだけ良いか」

「なれますよ」

「もしなれたらケビンに頼みがある」

「何ですか?」

「俺が死んだらこの墓に俺もクロードと一緒に眠らせてほしい」

「分かりました」

「良いのか?」

「俺は父上の跡を継いで次期伯爵ですよ?俺がレオン兄上の頼みを受け入れます」

「そうか、ありがたい」

「兄上聞きました?レオン兄上とずっと一緒にいれますよ」

「ケビン」

「父上や母上は知りません。勿論アイリスも知りません。俺が兄上から頼まれた事があるんです」

「ケビン?」

「結婚はしないが共に墓に入りたい奴がいる。ケビン、お前にだけ伝えておく。誰とは言えない、悪いな。だけど、もし俺が先に死んだらそいつの頼みを聞いてほしい。そいつは俺の唯一無二の存在だ、必ず俺の元に来る。あいつの事だ、俺の墓の前から絶対に動こうとしないからケビンでも分かると思う。あいつが来たら伝えてほしい。愛してる、俺と一緒の墓に入ってくれ」

「クロード」

「まさか男性とは思いませんでしたが」

「ケビン、すまない」

「何故謝るのです?」

「嫌、俺が男で」

「確かに兄上も男です。それでも兄上は俺に託した。気持ちを伝えてほしいと、頼みを聞いてほしいと。レオン兄上は兄上の気持ちが迷惑ですか?」

「俺もクロードを愛している。同じ墓に入って良いのなら入りたい。そしてクロードを抱きしめて一緒に眠りたい」

「ならそうして下さい」

「ありがとう」

「でも条件があります」

「何だ?」

「アイリスも言いましたが、生きて下さい。アイリスと俺の兄上になり、アイリスを可愛いがり、俺に甘えさせて下さい」

「ケビン、俺はお前も可愛がりたい。お前の子のソニックもアンネも俺は可愛がりたい」

「はい、お願いします」

「アイリスもだが、ケビンも俺がクロードを愛していると言っても普通に受け入れてくれる。何故だ?」

「アイリスも俺もきっと同じ気持ちだと思います。兄上が大切にしている物を護りたい。兄上が決めた、と言うより兄上が己の命と同じと思ってる気持ちをただ護りたいだけなんです」

「そうか」

「後はお二人でどうぞ。これは頂いていきますね」


 ケビンは酒の入ったコップを持って邸へ戻って行った。


「なあクロード、俺達は幸せだな。可愛い弟と妹がいて、俺達の心を護ってくれる。なあクロード、今俺の横にお前がいないのが俺は辛いよ。お前の墓を撫でる事も抱きしめる事も出来るけどな、俺はお前に触れたいよ。お前が側にいない事が、俺は、寂しい…」


 コップに入った酒を一気に飲み、頬を伝う涙に気づかないふりをした。


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