ただずっと側にいてほしかった

アズやっこ

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後編


私は私室の窓から外を眺める。

コール様を今にも泣き出しそうな笑顔で送り出して10年。



送り出して8ヶ月。先陣部隊の活躍で戦に勝った。

1ヶ月後、帰還する騎士達を一目見ようと王都はお祝いする人達で溢れかえった。


騎士達が帰還する前日、邸に来たのは王太子殿下と騎士団長。今回、隣国との戦の陣頭指揮をとったのは王太子殿下。


「コール隊長だが…」


王太子殿下は言い難いように私から一瞬目を背けた。

王太子殿下は一息吐き私を真っ直ぐ見つめた。


「コール隊長の活躍で今回勝利に導けた。先陣部隊として敵国の陣営をいち早く攻め突破口になった。数年かかる争いが数ヶ月で終わったのはひとえにコール隊長のおかげだと私は思っている。

だが、撤退の最中コール隊長は自分の部隊の騎士達を逃がす為に自ら囮になり…、ッ!消息が、途絶えた…」

「死んだ、のですか」

「それは誰も分からない。先陣部隊だった小隊が撤退する時、白旗を挙げた事を知らされていない敵の騎士達に囲まれた。他の小隊も直ぐに助けに行ったが、間に合わなかった。コール隊長は一人敵に向かっていったらしい。部下達を逃がす為の時間稼ぎ、自ら部下達が去った後を、退路を塞ぐように一人も通さないと剣を振り続けた。

彼は英雄だ。私はそう思う」

「ふっ、英雄、ですか……」

「あぁ、英雄だ。今回の功労者で私は勲章を授与するつもりだ」


英雄でも、勲章を貰っても、今ここに居ないのなら意味はない。

私は英雄にならなくても、勲章を貰えなくても生きて帰って来てくれれば、それだけで良かった…。


「ありがとうございます、と言った方が…、騎士の妻として正解なのでしょう。すみませんがもうお引取りを……」

「あぁ、こちらこそすまない。このような結果になった事を申し訳ないと思っている」


騎士として国の為にその身を捧げた、それは素晴らしい事なのかもしれない。

英雄?勲章?それは生きて帰ってこそ与えられるものよ。生きて帰って来たら私も心から喜んだわ。騎士にとって勲章は名誉だもの。


でも私は騎士じゃない

受け取る人がいないのに何が勲章よ!何が名誉よ!

そんなもの私には価値もないもの。


私にとっては

生きて帰って来るこそが勲章でしょ!名誉でしょ!

それこそが私には価値がある。



生きて帰って来るって言ったじゃない。帰る場所は私の側って言ったじゃない。

早く帰って来て……、私の側に帰って来てよ……、お願いよ、コール……、私を一人にしないで………。

花がもうすぐ咲くの。貴方と私の花が、もうすぐ咲くの…。

だから、早く帰って来て………





私の願いも虚しく10年が過ぎた。

コール様の私室には陛下から授与された勲章が飾ってある。

コール様は英雄と呼ばれ騎士達の憧れらしい。


10年前、王都は戦に勝利した事を祝い連日お祭り騒ぎだった。喜びの歓声が笑い声が邸の中まで聞こえてきた。

私は耳を塞いだ。歓声も笑い声も私には悪魔の声にしか聞こえなかった。何が嬉しいのか何が楽しいのか私には分からない。

戦に送り出し残された者が思う気持ちなんて一つしかない。

『生きて帰って来て』

騎士としての名誉よりも大事なもの。国よりも大事なもの。

『愛する人の命』

騎士として不名誉と言われようが、それでも逃げてほしかった。戦わず逃げ出してほしかった。部下を置いてでもいち早く逃げ出してほしかった。

でも貴方はそんな事はしない。貴方は騎士だから。だからこれは私の気持ち。騎士の妻ではなく、愛する人を思う一人の女性としての気持ち。



まだ10年。

もしかしたら隣国の捕虜になってまだ捕まっているのかもしれない。

もしかしたら怪我をして、記憶を失くして、帰って来れないのかもしれない。

もしかしたら隣国で愛する人を見つけたのかもしれない。

本音を言えば私の側にいてほしい。でもそんなのは些細な事よ。どこにいようが貴方が生きていてくれれば、それだけで良いの。

貴方の剣も、婚姻式でお互いにかけたペンダントもまだ見つかっていない。

だから私は諦めない。貴方がどこかで生きていると、私だけは信じてる。


私は私室の窓から外を眺める。

私の私室から外を眺めた時に一番目に付く場所の花壇。


「母様~」


私に向かって手を振って話しかけてきたのは花壇の花に水やりをしている息子のキール。


『咲いた花を一緒に愛でような』

貴方と一緒に愛でるはずだった。


私は窓を開けキールに手を振り返す。


「父様の花、今年も綺麗に咲きましたよ」

「そうね」


貴方に良く似た息子。

大事に大事に私は花を育てた。一人で愛でて大切に育てた。

貴方が帰って来た時、一緒に愛でたいから。

貴方が帰って来た時、良く大切に大事に育ててくれたと褒めてもらいたいから。


今年も貴方が種をまいた赤いゼラニウムが綺麗に咲いている。隣には貴方と私の花が元気な笑顔を咲かしている。


私は私室の窓から貴方の大切な花を一人で眺める。




             完


感想 14

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みんなの感想(14件)

糺の森の青楓
2025.05.04 糺の森の青楓

さだまさしの歌「片おしどり」を思い出してしまいました。
「ただ貴方にほめてもらいたくて夢中で生きただけ」
番外編も読みました。
先に亡くなった夫は若いまま、私はおばあちゃんになってしまった。
世界観が同じですね。
「片おしどり」聴いてみてください。
この作品を書いた作者様なら、感じることがあるのではないかなぁ、なんて思ってしまいました。


解除
にゃおん
2023.04.29 にゃおん

短いお話ですが内容がとても良い切なくて涙が…。

庭の花が今年もまた咲く、それを見ていつかきっとと思い続けるのでしょうね。救いは息子がいてくれることでしょうか。

この後旦那さんは帰ってくるのでしょうか…気になります。

2023.04.29 アズやっこ

にゃおん様

コメントありがとうございます。

その後の話は別作品『完結した…』の方で読めます。そちらもぜひお付き合い頂けると嬉しいです。

解除
naimed
2022.08.25 naimed

失礼致します。
戦争ではよくある話、しかし切ない感情がよく現われています。
花壇の花と息子が母キャロルに生きる勇気を与えているか。

2022.08.26 アズやっこ

naimed様

コメントありがとうございます。

残された者の切なさ、残された者が何を心の支えにするか、そんな物語です。

違う作品もnaimed様の目に止まる事を願っています。

解除

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