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3:殿下のビーストテイマー。
しおりを挟む厨二病な第二王子殿下の婚約者の条件は、『殿下と意思疎通が図れる』という、ビーストテイマーでも探されているかのような条件だったそうです。
あの日、と言いますか、殿下が発症されてから今までの間で、殿下のセリフを理解出来たのは私だけだったらしく、絶対に逃さないわよ、と王妃殿下からキラキラな笑顔で脅されてしまいました。
「ミラベル、今日もしっかりとセオドリック殿下とお話してくるのよ?」
「はぁぁぁぁい」
「ミラベル! 返事は短く優雅になさい」
「はい、お母様」
王妃殿下の囲い込み作戦により、我が伯爵家は私以外は陥落してしまいました。
運営が芳しくない領地には王城きっての有能な文官数名を派遣して頂き、お父様が陥落。
王妃殿下に親友になりましょうと言われ、様々なお茶会へ誘われて、お母様も陥落。
王妃殿下のイチオシ、どえらい美人の伯爵家ご令嬢を紹介され、無事お付き合いにこぎ着けた十歳上のパッとしないお兄様も見事陥落。
私は、家族全員にドナドナされる結果となったのです。
「……行ってまいります」
王妃殿下は王城に住んで良いと言われましたが、断固拒否させて頂いて、王都の貴族街にあるタウンハウスから毎日通い、セオドリック殿下のお話相手になる、という事で手を打っていただきました。
毎日二時間程度の妃教育と、四時間程度のセオドリック殿下とのお喋り。
それが八歳の幼気な私の日常となりました。
「ごきげんよう、セオドリック殿下」
「ふん、今日も懲りずにやって来たか。ストゥルトゥスめ!」
殿下とお話しするようになって一ヶ月が経ちましたが、未だに警戒されています。
今日もサロンで開口一番に悪態を吐かれてしまいました。
普通のご令嬢であれば、泣くか怒るところでしょう。ですが、こういった方は極度の人見知りだと理解している私は特に気にもなりません。
それに、どちらかと言えば私も仲良くはしたくありませんし。
「はいはい、愚かにもまた参りましたよ。今日も四時間お付き合いよろしくお願い致しますね」
セオドリック殿下は、闇のように黒い右目と空色のような青い左目で恨めしそうにこちらを睨まれていますが、私は完全に無視してテーブルに着き、お茶をいただきました。
「あら、本日のお菓子は洋梨のタルトですのね。美味しそう! セオドリック殿下、いただきましょう?」
「ふ、ふん! 有能なる我が下僕が作った供物だ、不味いわけがなかろう。おい、お前と同席すると我は赤き呪いに侵されてしまうのだ! もっと遠くに座れ!」
(意訳:城の優秀なシェフが作ったから間違いなく美味しいよ。ね、ねぇ、君と同席すると何でか顔が赤くなるから、少し遠くに座って欲しいんだけど)
脳内で殿下の発言を意訳しながらお茶をいただきつつ、ニコリと微笑みかけました。
「殿下、折角のお茶が冷めてしまいますわよ?」
「ぐっ……フンッ!」
結局、顔を真っ赤にしながら向かい側の席に腰を下ろした殿下は、とても優雅な所作でお茶を飲まれています。が、カチャカチャとガントレットが煩いです。
「殿下、そのガントレットはまだ着けたままなのですか? もう犬に噛まれた傷はお癒えになっていますよね?」
「いっ、犬ではない! ルプスだ!」
殿下は古代語、私の元の世界で言うところのラテン語やスペイン語、時にはドイツ語の単語をちょいちょい挟み込んで話されます。
前世でダイガクセイだった私は、ダイガクという場所でその言葉を学んでいたらしく、理解できました。いえ……できてしまいました、と言う方が正しいですわね。
「ここ王城に狼はいないと何度言えば良いのですか。それに、ガチャガチャとしててお茶が飲み辛そうですわよ?」
「ルプスは中庭にいるではないか! それにこれは魔の力を抑え込む聖鎧だから外せんのだ!」
「中庭にいるのは陛下のペットのドーベルマンとハスキー犬です。いちいち怒鳴らないで下さいませ」
「すっ、すまない」
煩いと怒ると、美しいオッドアイを陰らせて素直に謝るところはちょっと可愛いかな、なんて思ってしまいました。
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